三女と第三王子と夏休み2
しばらく思い出話に花を咲かせていると、視線を向けたレオの後ろに小さく白い影が見えた。
目をこらしながら「あれ、何だろう」と呟くと、レオも私の視線を辿るように振り返り、しばらく観察した後、「ペリカン…?」と呟いた。
レオの言葉を聞いて、興味が膨らんだ私は「ペリカン見たい!」と声を上げた。
「は!?」
怪訝な顔でこちらに顔を戻したレオに「早く!近くで見たい!」と言って急かすと、レオは仕方なさそうにオールを漕ぎ始めた。
私とレオを乗せたボートはレオが動かすオールによって、ペリカンがいる方向にすいすい進んでいった。
が、近寄っていくこちらの気配に気づいたのか、白い羽を大きく羽ばたかせて飛び立っていった。
「あ!もうー、レオが遅いから」
「俺のせいかよ…」
不満げに言うと、レオが眉を下げた後、「そういうならお前やってみろよ」とオールをこちらに渡してきた。
オールを受け取った私は「任せろ」と得意げに令嬢らしからぬ返事をして、バシャバシャと水しぶきを上げながら必死に漕いだ。
しばらくして腕が疲れてきて水面を掻いていた水音が止んでくると、レオの大きな笑い声が聞こえてきた。
視線を上げて小さくぽかんと口を開けると、お腹を抱えて笑っていたレオが生き絶えだえに「おま…ま、周り見ろ」と口にした。
その言葉に周囲に視線を彷徨わせると、先ほどの場所から五メートルも進んでいない。
それだけでなく、周りでボートの上でゆったりと過ごしていた人々が、停滞して水しぶきをあげるボートを不思議に思ったのか好奇な目をこちらに向けていた。
「なんで私たちっていつもこうなるの……」
周囲の視線に少しだけ頬を染めながら呟くと、目尻に涙を浮かべたレオが「いいんじゃねーの、俺達らしくって」と気にした様子もなく言ったので、「それもそうだね」と私も一緒になって笑った。
ボートを降りた私たちはこの街で有名な人気のパフェを食べにいくために、公園に隣接する飲食店が並ぶ一角に向かった。
今回、この別邸に来ることにしたのも、これを食べるためと言っても過言ではない、というかこれを食べるために来た。
夏休み前、「これ美味しそう」と何気なく雑誌を見せた私に、レオが「夏休み食べに行くか」と言ったのが事の発端だ。
街の近くに王室が所有する邸宅があることが分かって、どうせなら、とみんなを誘って行くことにしたのだ。
まさかみんなパフェのために召集されたとは思っていないだろう。
「すごい列だな」
レオが目の前の光景に声を漏らした。
パフェの店がある通りに出ると、長蛇の列が並んでいて、すぐにその場所が分かった。
お店に近づいて、私とレオは大人しく列の後ろに並ぶ。
もちろん、レオが王族であることを伝えれば、一番に中に入れてもらえるだろうし、家に作りに来させることもできたかもしれないが、レオはあまりそういうことはしない。
一緒に市場に遊びに行っても自分の肩書きは余程のことがないと明かさないし、学園内で身分によって態度を変えたところなんて見たことがない。
そんなレオだから、学園の皆に慕われているのかもしれない。
心の中で感心していると、レオの顔をじっと見ていたようで、その視線に気付いたレオが「どうした?」と問いかけてきたので、素直に考えていたことを伝えた。
それを聞いたレオは「まあ王族は国民を守るためにいるし、俺は偉そうに出来るほど、まだ何もできてないからな」と伏し目がちに答えた。
「レオのそういうところ好きだよ」
自信なさげなレオの言葉に軽く微笑みながら言うと、一瞬唖然としたレオの顔がみるみる内に赤くなっていった。
「…お前、急にそういうこと言うなよな」
ぽつりと呟きながら、手の甲で口を押さえて外方を向く様子に私まで自分の言ったことが恥ずかしくなってきて、顔が熱くなった。
恥ずかしさを誤魔化すために「まあ庭園に池作らせてたけどね」と憎まれ口を叩くと、レオが「あれは自分の家だし…」と赤い顔のまま、よく分からない言い訳を口にした。
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