次女と第二王子と夏休み3

 湖に着いた私たちは近くの木陰にバスケットの中に入れていたシートを広げて、湖が見えるように並んで座った。

 私達についてきた猫もノア様の隣にちょこんと座っている。


 雲一つ無く晴れた空を写した湖の水面は静かに吹く風に穏やかに揺らされ、キラキラと輝いていて、使用人の方が教えてくれた通り、とても綺麗だった。


 王家の管理する敷地のため、辺りには私たち以外にはもちろん誰もいなくて、静かで穏やかな空間にほっと息をついた。



 私がバスケットからサンドウィッチを取り出しす、その横でノア様がコーヒーの準備をしてくれていた。


 ポットからカップに入れた少し湯気の立つコーヒーをノア様が私に手渡してくれたので、それを受け取ろうとカップに手をつけるとほんのりと温かさを感じていたカップが一瞬でひんやりと温度を変え、氷がカランとコーヒーの中で揺れた。


 私はその光景に目を見張ると、「今日も暑いからな」とノア様が答えた。

 そこで、私はノア様が魔法を使ったことに気づいた。


「すごいですね…」

「いや、すごいのはお前の方だろう」


 感動している私にふっと笑うノア様は猫を木から降ろしたことを指しているのだろう。


 褒められて口元を緩ませていると、「俺のは普段役に立たない。戦闘くらいだな」とノア様が続けた。


 その言葉にノア様が魔法を使って闘う姿をつい想像してしまった。


 真剣な表情で剣を振りかざして獲物に向かうその姿はきっと、いや絶対かっこいい。


「いつか見てみたいな」


 私の言葉にノア様が少し視線を上げて思案した後、「今度訓練を見にくるか」と聞いてくれたので「はい」と声を弾ませて答えた。




 ノア様と昼食のサンドイッチを食べ終え、一緒に作ったクッキーを食べた。


 ハートと猫の形に象られたクッキーはほどよく茶色に焼き目がついていて、口の中に入れるとほろっと砕けた後、爽やかな甘さが広がる。


 ノア様がクッキーを口にしながら「うまいな」と呟いた。


 彼の短い一言は私の心を満たしすのに十分だった。



 物欲しそうにしていた猫にも千切ったサンドイッチや小さく砕いたクッキーを食べさせてあげると、満足したのかノア様の胡座の上で小さく丸まってすやすや眠っていた。




「いいな」



 その気持ちよく眠る愛らしい姿に視線を落として、思わず声を漏らすと、「お前も寝たいのか」とノア様がふっと笑いながら目を細めた。


「あ、いや!そういうわけでは」


 慌てて胸の前で小さく手を振ると、ノア様が「寝ていいぞ」と言いながら私の頭を優しく手のひらで包んだ。


 そのまま、少し力を入れると、私の頭の右側をふわっと自分の片膝の上に置いた。


 突然の出来事に思わず視線を湖の方に向けまま声をあげる。


「あの?」

「お前は寝るのが好きだからな」


そういうことでは…と言葉を失ったが、時折吹く風に草花がさわさわと音を立てるだけの静かな空間に、それ以上何も言うのをやめた。

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