長女と第一王子と夏休み4
人の気配を感じて隣を見上げると、目を見張ったリアム様が席の隣に立っていた。
私は慌てて濡れている頬を隠すように視線を落とすと、リアム様が低い声で「どういうこと?」とイアンさんに凄んだ。
このままじゃまずい、と思って「リアム様!違うの!」と声を上げながら咄嗟に彼の手を掴んだ。
私の思考を読んだらしいリアム様はふうと息を吐いて、肩を竦めながら静かに呟いた。
「まったく余計なことをしてくれたね」
リアム様は私の荷物を手に取ると、彼の手を緩く掴んだ私の手をつなぎ直してから立ち上がらせた。
そのまま、イアンさんに「イアン、ごちそうさま」と告げて私の手を引いてテラス席を離れた。
力なくリアム様に手を引かれながら、挨拶も何もできていないことにはっとして振り返ると、席に座ったままのイアンさんは「またなー」と笑顔で手をひらひらと振っていた。
イアンさんと別れた私たちは無言のまま、待たせていた馬車のところまで戻って邸宅までの帰路についていた。
馬車が発進してしばらくしてから、リアム様が「クルミ」と静かに私を呼んだ。
私はなんだかリアム様の顔が見られなくて、ずっと鼻をすすった後、俯いたまま「はい」と答えた。
リアム様は困ったようにふっと笑って、前の席から腰を上げてから隣に座り直すと、俯いたままの私の頭を掌で自分の胸に寄せた。
その手でぽんと軽く撫でてから、一呼吸置いて話し始めた。
「誓って言うけど、君に言ったことは嘘じゃない。前にも言った通り、僕は王位になんて本当に興味がなかったんだよ」
リアム声の低い声の振動と温もりを額に感じながら続く言葉を待つ。
「君は、僕を自分のせいで犠牲にしてしまった、なんて考えてるのかもしれないけど、それは違う」
「まあ僕がイアンにあんなかっこつけたことを言ってしまったのが良くなかったんだけど」とリアム様が小さく笑った。
「君のためだと頑張ったことに偽りはないけど、それは同時に僕のためでもあったんだよ」
リアム様が少しだけ力を入れて私の頭を胸に押し当てながら続けた。
「僕が、君が憧れる景色を君と一緒に見てみたかったんだ」
その言葉にまた流れてきそうになる涙を堪えるためにぎゅっと目を閉じた。
「僕は全く後悔していないよ、毎日君と志を共にして働けるんだから。
それにあの場所で大切な仲間もできたしね。
だから、自分のせいだなんて考えるのはやめてほしい、僕が悲しいんだ」
リアム様の優しく語りかけてきた声に、今度は自分から顔をすり寄せた。
そんな私の頭を優しく撫でてから、彼が「分かった?」と幼い子に言い聞かせるように聞いてきたので、私は小さくうなずいた。
「まあ、魔法省のトップに立ったのは君に嫉妬されてみたかっただけなんだけど」
ふふっと笑いながらリアム様がおどけてみせたが、言葉には出さず、違うと心の中で否定した。私のために立たなければいけなかったんだと思って、また胸が熱くなった。
しばらくリアム様にもたれかかったまま、馬車に揺られていると、先ほど買ったイヤリングのことを思い出して、ゆっくり体を起こして鞄からイヤリングが入った包みを取り出した。
不思議そうにしているリアム様に「あの、これ…」と包みを手渡した。
「開けていいの?」と言う言葉にこくりと頷く。
包みから彼の手のひらに出てきたイヤリングを一緒に見ながら「リアム様に似合うと思って」と小さく呟いた。
恐る恐るリアム様の顔を見るとその表情は優しく微笑んでいて、「はい」と私に手渡してきた。
返されたのかと思って戸惑っていると、「つけて」と耳を差し出してきた。
馬車の席から少し腰を上げて、リアム様の片耳にイヤリングをつける。
やっぱり思った通りだと、イヤリングがよく見えるように長くて綺麗な黒髪を彼の耳にかけて、「素敵」と口にしながら思わず笑みを溢した。
すると、リアム様が自分の耳元に翳された私の手をそっと取って、私の掌に節目がちに視線を落とすと、ちゅっと唇をあてた。
掌に触れた唇の感触に少し目を見開くと、リアル様が視線を上げて、私の目をじっと見つめながら、「ずっと大切にする」と囁いた。
私も彼のいつになく真剣なその赤く輝く瞳を見つめ返しながら「はい」と小さく答えた。
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