長女と第一王子と夏休み3
リアム様と別れた後、私は一人で装飾品が並ぶ物色していた。
鉱山が近いからなのか、先ほど見た化粧品店と同様、天然石が埋め込まれたアクセサリーが並んでいる。
サヨちゃんとアプちゃんに何か買って帰ろうかな、と思いながら、ネックレスやブレスレットを手に取っていると、ふと小さな紫色の天然石がついた片耳イヤリングが目に入った。
これ、リアム様に似合いそう…とリアム様の耳に揺れるイヤリングを想像しながらも、趣味と違ったらどうしようと不安になる。
少し思案した後、でもいつももらってばっかりだからたまには、と意を決して「これ、ください」と店主に声をかけた。
その後は、目に止まった装飾品店や洋服店を見て回り、気づくと両手が袋で一杯になっていた。
リアム様たちと別れてから少し日も傾むき始めているし、そろそろいいかなと、リアム様と約束したお店に足を向けることにした。
先程の通りに戻ってお店に近づくと、店前のテラス席に座ったリアム様とイアンさんを見つけた。
リアム様は駆け寄ってきた私に気づき、「おかえり」と微笑んでから「たくさん買ったね」と私の手に持った荷物を受け取りながら隣に座るように促した。
席についてから二人に買ったものや行ったお店について声を弾ませながら一通り伝え終わると、リアム様が「僕ちょっとお手洗いに行ってくるよ」と席をしたので、テーブルにはイアンさんと私の二人だけになった。
「ゆっくりお話できましたか?」
「ああ、おかげさまで」
イアンさんが答えながらにこりと笑った。
「君は魔法省で働いてるんだって?」
「はい」
リアム様から聞いたのだろう、彼の問いにこくりと頷く。
「イアンさんも学園までは王都にいらっしゃったんですか?」
「そうそう、俺も魔法省で働きたくて…でも結局こっちで領主になれって父親に言われて抗えなくってさ」
苦笑したするイアンさんの姿に「そうだったんですね」と声を落とした。
「リアムは今や魔法省大臣だもんなー」
「そうなんです、彼も王位には興味ないみたいで」
以前リアム様に言われたことを思い出しながら言うと、目の前の彼は「あれ」と首を傾げた。
「どうかしました?」
イアンさんの予想外の反応に私も同じように首を傾げる。
「知らないの?」と逆に尋ねられて、さらに頭に疑問符を浮かべていると、イアンさんが続けた。
「君のためだよ」
訳が分からず「私のため?」とイアンさんに言われたことを鸚鵡返しすると、イアンさんも「そう、君のため」と繰り返した。
何が私のためなのだろう、と口を結んで考え込んでいると、イアンさんが私を見据えながら言った。
「リアムが王位に就かない道を選んだのは君がいたからだよ」
「へ?」
告げられたことの衝撃のあまり、イアンさんの方を見ながら、口を少し開けて固まっている私を見て「あいつは言わないか」とイアンさんがくすくすと笑った。
頭の中が靄にかかったように何も言葉が浮かばないでいると、片手で頬杖をついたイアンさんが昔を思い出すように話し始めた。
「あいつ王太子だし、子供の頃から王になるための教育はずっと受けてたはずなんだけど、学園で知り合った時から王にはならないって言い張ってたんだよね。
何でそこまで頑なのかすごく不思議でさ、あれだけ優秀だし、魔力も規格外に強いし、王として申し分ないから、あいつの周りの大人たちもみんなその気で、王にならない道を選ぶ方がずっと大変だったんだ」
イアンさんは仰いだ空から目線を下げて私と目を合わせてから続けた。
「それで聞いたことがあったんだよね。なんで王位に就かないんだって。」
「そしたらあいつ、なんて言ったと思う?」
私はどきどきと鳴る胸を押さえて黙ったまま、イアンさんの言葉を待った。
「君を王妃にさせたくないって言ったんだ。」
イアンさんの言葉を聞いて、君のためと言われた言葉の意味が少し自分の中に落ちた。
鼻の奥がツンとしたのを感じて、咄嗟に下唇を噛む。
「君は小さい頃から魔法省で働くことに憧れていたって聞いたよ、トップになるんだって意気込んで一生懸命努力してるって。だからそんな君のことを自分のせいで王妃なんて地位に縛りたくなかったらしい。」
イアンさんは眉を落として言った。
その言葉に堪えきれなくなった涙が一筋こぼれてきたのを頬で感じた。
「学園にいる時から結構苦労してたよ。弟たちもいたけど、周りを説得するの大変でさ。王にならなくてもこの国に貢献できるってことを証明するために、色々努力してたんだよ。」
「そんなこと…リアム様は何も…」と独り言のように呟く。
「まあ、わざわざ魔法省のトップになったのは君への当てつけなのかよく分からないけどね」
イアンさんは下を向いて静かに涙を流す私を見ながらおどけて笑った。
色んな感情が込み上げてきて、拭っても止まらなくなった涙に「ごめんなさい…」と小さく告げた。
すると、イアンさんが「大丈夫」と優しく言った後、「でも俺、殺されるかも」と続けた。
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