長女と第一王子と夏休み2

「リアム!」


 化粧品店を後にした私たちがまた肩を並べて歩いていると、後ろから男性の声が聞こえた。


 私とリアム様が振り返ると、ミルクティ色の髪に小麦色の肌をした男の人がこちらに駆け寄ってきた。


 彼の姿を見たリアム様が「イアン」と言った。


「久しぶりだな、リアム」


 イアンと呼ばれた彼が私たちの前につくと人懐っこい笑顔でにかっと笑った。

 リアム様も「本当に久しぶりだ」と目を細めて微笑む。


「お、この子が噂の?」

「ああ、愛しの婚約者だよ」


 リアム様が私の腰を抱きながら恥ずかし気もなく答える。


「初めまして、クルミ・エステートといいます」


 噂のって何だろう…と気になりつつも、淑女らしく上品に微笑んで挨拶をした。


「彼はイアンだよ、学園で一緒だったんだ」

「イアン・エーデルだ、よろしく」


 イアンさんが笑顔で私の前に手を差し出した。


 私もイアンさんと同じように微笑みながら、手を差し出すと、私がイアンさんの手を掴む先に、なぜかリアム様がその手を取った。


「僕の可愛いお姫様だ、よろしく頼むよ」


 笑顔のリアム様がイアンさんの手をぎゅっと握りながら小さく揺らすと、イアンさんが呆れたように笑って「相変わらずだな」と手を離した。


「こっちに来るなら連絡くれよ」

「急だったんだよ」

 リアム様が答えてから、私に向かって「ここは彼の領地なんだ」と言った。



 「そういえば」


 イアンさんは何かを思い出したように言うと「お前にこの前発表された光属性の攻撃魔法の研究について意見を聞きたかったんだよ、どうだ、久しぶりに一杯飲みながら」と続けた。



 少し困った顔をして「あいにく今はデート中なんだ」と断ろうとするリアム様に、慌てて「せっかくお会いできたのですから!私見たいお店がすぐ近くにあるので」と矢継ぎ早に告げた。


 私が言い出したら聞かないのを知ってか、リアム様は「じゃあ少しだけ」と眉を下げた。


「そこの店でいいか」

「もちろん」


 リアム様は目の前の店を指差して、答えが返ってきたのを確認すると、私のほうを向いて「いい?見終わったらあのお店に来るんだよ?変な男について行ったらダメだよ」と真面目な表情で語気を強めた。


 子供扱いされた私は、幾つだと思ってるんだと不満を込め、口を尖らせながらリアム様を見上げて「分かってます」と答えてから、イアンさんに体を向けて「それではイアンさん、また後で」と笑顔で立ち去った。




「変な気起こしたら死刑だよ」


 クルミが立ち去るのを二人で見送って、イアンが何かを言う前に笑顔で告げると、「お前の立場でそれ言うなよ」とイアンが顔を引きつらせた。

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