三女と第三王子2
「リアム様、ご機嫌よう」
淑女らしく挨拶をすると、「やあ、僕のかわいいアプリコット」と完璧な笑みを返された。
誰もが見惚れるリアム様の笑顔だが、色気より食い気な私はこの興奮を早く誰かに伝えたくて、「お姉様!」とクルミお姉様の手を引いた。
「これ、アプちゃんが食べたがってた東の食べ物?」
「そう!ずっと食べたかったの!」
首を傾げるお姉様に声を弾ませた。
クルミお姉様の背後から二人の視線の先を覗き込んだリアム様が「あれ、それって確か…」と何か思い当たったように口を開く。
「わー!」
すると、レオが突然声を上げた。
そんなレオを見たリアム様が一瞬目を見開いたが、すぐに悪い顔になった。
あの顔は見覚えがある。
面白い玩具を見つけた時の顔だ。
「それはアプリコットのために準備したんだよね、レオ」
「え?」
「ばっ、ちげえよ!」
リアム様の思わぬ言葉にと小さく声を出すと、なぜかレオが慌てている。
そんなレオを無視してリアム様は言葉を続けた。
「王家の書庫にある東の書物ひっくり返してずっとレシピ探してたよね」
「そんなことしてない!」
「結局レシピ見つからなくて、半年前から王族お抱えのシェフ連れてさー、何回も試行錯誤してたもんねー」
半年も前から。
同じことを思ったクルミお姉様がこちらを向いた。
「そんな前から?アプちゃん、レオに話したの?」
「そう言われてみればそんなことも話したような…」
レオとのやりとりを思い出していると「ちげえって言ってんだろ!」とレオが一際大きな声を出した。
そこで、レオの声に気付いたサヨお姉様と彼女の手を肘で支えたノア様が、不思議そうに「どうした?」と声をかけてきた。
「それがさー」とニヒルな笑みを携えたリアム様が話を続けようとしているが、レオの真っ赤に染まった顔を見て、このままじゃまずいと声をかけたところで冒頭に戻る。
「レオ、そんなことより一緒にバーガーを…」
彼の手を引こうとした瞬間、バシッと乱暴に手を払われ、「うるせえ!勝手に食ってろ、雌豚!」と叫ばれた。
さすが王族騎士団で訓練してるだけはある。
レオの声量は周囲で談笑していた貴族の注目を引くには十分だった。
談笑の声で満たされていた会場がシーンと一瞬で静まり返り、私も愕然としたが、後ろから聞こえてきた笑い声で我に返った。
「め、雌豚……雌豚って!」
ひーひー言いながら笑っているリアム様をクルミお姉様が「リアム様」と嗜め、その隣では「レオ…」とノア様が額に手をあて、サヨお姉様は呆れたように肩を竦めた。
しばらくレオと見つめあっていたが、雌豚呼ばわりされてそのままバーガーに喰らいつけるほど強靭なメンタルではないし、一刻も早く周囲から注がれる関心の目から逃れたかった私は無言で踵を返し、小走りで会場を後にした。
その後ろでレオが頭を抱えてうなだれたことは梅雨知らず。
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