桃太郎の地の文です。この度の桃太郎におけるチート付加の経緯についてお話します……
シャル青井
第1話 桃香、桃から生まれてないもん!
はあ、どんぶらこ、どんぶらこっと。
もしもーし、聞こえるか? 今脳内に直接語りかけているんだが。
「……なによ? 桃香に言ってるの、それ?」
お、聞こえてるみたいだな、よしよし。
「よしよし、じゃないわよ! 貴方、いったい何者よ。いきなり頭の中に語りかけてきて。失礼じゃないの!」
俺か?
そうだな、俺はしがない、しがない……そう、しがない地の文だ。
「はあ?」
で、あんたは桃太郎というわけだ。まあ、まだ桃から生まれてもいないんだが。
「ねえちょっと待ってよ。なによ、桃太郎って。桃香には天空院桃香というお父様から貰った大切な名前があるのよ。そんなわけのわからない名前で呼ばないで!」
わけのわからないって、桃から生まれたから桃太郎。これ程わかりやすい名前もないと思うが。
「はあ? 桃から生まれたってなによ? それがわけがわからないって言ってるの」
え、いや、そこからか?
そもそも、桃太郎は桃太郎だろう。
もしかして、桃は性的で精的な象徴のうんたらかんたらで、おじいさんがハッスルしておばあさんが高齢出産とか、そういう話か?
「ちょっと、変な方向に妄想を広げないでよ。キモいわね。桃香は、人が桃から生まれるわけがないって言ってるの!」
いや、そりゃそうだが……。
なあ、一つ聞きたいんだが、あんたまさか、桃太郎っていうお話しを知らないなんてことはないよな? わりと有名な昔話なんだが。
「なによそれ、貴方の妄想じゃないの? どんなもの食べたら桃から子供が生まれるなんて発想が出てくるのよ!?」
あー、マジか。お気楽な仕事かと思ったらそういうオチか。
よしわかった。いいか、最初から説明するぞ。
まずこの世界には桃太郎という物語があってだな、あんたはその主人公の桃太郎になってるわけだ。ここまでいいか?
「全然よくないってば。なんで桃香が桃太郎とかいうクソダサネームになってるのよ。桃香は桃香なの」
ああ、うん、それはたしかにそう。桃太郎はダサい。
まあそれはいいとして、なんと言ったらいいのか、ようするに、あんたはその桃太郎という役を与えられたんだよ。これでわかるか?
「……なによそれ。勝手に桃香を変なことに巻き込まないでよ」
そこは俺に言われても困る。俺もただのしがない地の文だからな。
とにかく、なんでもいいから桃太郎を演じきってもらわないと、あんたも元の世界に帰れないわけだ。わかるか。わかれ。
「わかりたくないけどわかったわよ。別に帰りたいわけじゃないけど、いいわ、やってあげる。桃香がその桃太郎をすればいいんでしょう」
はい。
「貴方、地の文なんでしょう。いいから話を進めなさいよ」
よしよし、了解。あとはまあ流れで説明していくことにしよう。
とりあえずおばあさんが川で洗濯をしているから、そこにどんぶらこ、どんぶらこと桃が流れていくわけだ。
「ねえ、もう一つ聞いていい?」
なんだ?
「その、どんぶらこって、なに?」
どんぶらことは
『重みのある物が水に浮き沈みしながら流れる様子を表す語。どんぶりことも。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)』
らしいが、とにかく、俺にもよくわからん。本来の意味も失ったまま使われる定番のフレーズだ。
まあ日常で使う機会はまずないんで、もう忘れていいぞ。
「あっそう。まあいいけど。ところでこの真っ暗な場所って、もしかして桃の中なの?」
大正解。おめでとう。
そんなこんなで川で洗濯をしていたおばあさんのもとに、大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきたのでありました。
「ねえ、なんでおばあさんは川なんかで洗濯をしてるのよ」
そりゃ、そういう時代だからだろう。
洗濯機がなければ川で洗うだろうさ。
「へぇ、不便な時代もあったのね。まあいいけど。それで、桃香はここでこの桃から飛び出せばいいの?」
いや待て待て、まだ早いからな?
いきなり桃の中から子供が出てきたら、おばあさんがビックリして逃げるかもしれないだろ。
「それはここじゃなくてどこで出てきても変わらないじゃない。そもそも、川から大きな桃が流れてきたらそれだけでビックリするし、すっごく不審だと思うんだけど」
あー、そう言われるとぐうの音も出ないよなー。
正直、俺もそんなもの見たらビビるし見なかったことにする。
そもそもこのじいさんばあさん、元からしてなに考えているのかわからんところはあるよな。鬼退治に行くのにきびだんごとか持たせるし。
「鬼退治? なにそれ、ネタバレ?」
おっとしまった。
そうです、桃太郎にはこの後、鬼退治をしてもらいます。
「ちょっと、なによそれ。鬼ってなんなのよ。だいたい、桃から生まれた子供だからって無茶をさせすぎじゃないの?」
まあ正直、それに関しても俺もどうかと思うところはある。
しかし大丈夫、今回、鬼退治にあたって強力な助っ人を用意いたしました。
まあ、原作通りなんですが。
後で登場するから楽しみに待っているといいぞ。
「ふーん」
さみしい反応だなあ。おっと、それよりおばあさんが桃を持ったぞ。
『おやおや、大きな桃だねえ。どれ、持って帰っておじいさんと一緒に食べようかね』
うわ、おばあさん、あの大岩サイズの桃を平然と抱えやがった。
そして籠に入れて、またも平然と背負うとか、どんなパワーなんだよ……。
「ねえちょっと、すごく揺れるんだけど……。おばあさんにもっとゆっくり歩くように言ってやってよ」
うーん、
まあでも、我慢しろってのも難しいしな、よし、サービスだ。『
「えっ、なによ……ああ、なんだか意識が遠くなって――――
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