あり得ない神社参り

 言わずもなが、私は人間だが、家族たちは神の領域にいる。それに対して、特別扱いされていると思っていないどころか、私のような人間に差別もせず接してくれていることに、日々感謝をするばかりである。


 今年の正月におかしなことが起きた。

 一番最初の旦那――れんと恋愛をするという素晴らしく楽しい夢を、朝見たのだった。行きの車の中で、別の旦那――光命と、お互いが愛する夫――蓮のことについて語る。どんなところが好きとか、どんなセックスをするとかである。


 別段おかしな話ではない。みんな配偶者なのだから、隠し事するのもおかしいし、三人以上も相手がいると、きちんと話さなければ秘事と化してしまい、さらなる発展は望めないのだ。ということで、我が家では基本的に甘い言葉もデートの内容もセックスの体位まで情報共有するのである。


 そんなことをしているうちに、目的地の神社へと着いた。様々な参拝の手順を組んで、とうとう賽銭さいせん箱の前へあと少しというところで、光命が、


「それでは、私が賽銭箱の向こう側へ立ちましょうか?」

 神様がおわすとされている境内けいだいの中へ瞬間移動をして入ると言う。私はしごく真面目な顔をして、しっかりうなずいた。

「そうですね。光さん神様ですから、お願いします」


 何を神様に感謝しようかと考えていると、とうとうやって来た。私の番だ。


「神様、今日はとても素敵な夢を見させてくださってありがとうございました」


 もう限界だ――

 私と光命は同時に思わず笑って、あとから来た人たちのためにとりあえず横へそれた。おかしな遊びをしている光命に、私はここに来てやっと突っ込んだ。


「何ですか!? この出来レースみたいな参拝は。さっき話した内容じゃないですか。光さん、もう聞いてるじゃないですか」


 光命は神経質な手の甲を中性的な唇に当てて、くすくす笑いつつ肩を小刻みに震わせながら、とうとう何も言えなくなり、彼なりの大爆笑を始めたのだった。


 神が見える霊感を持つと、神社に行く意味が変わってしまうのだ。私は深呼吸をし、心をきよめ、さらに高次元にいる神様の神に祈りを捧げる。


「神様、このような幸せを私に与えてくださってありがとうございます」――と。


2020年7月12日、土曜日

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