第23話 Advance forward

 

 新人競技会。

 数年に一度を行われるという。

 国内のギルド対抗の新人戦だ。


 今回は4人のチーム戦らしいが、毎回レギュレーションが変わるらしい。


 まあ新人戦に出れるのは一生で一回だけだからそこら辺はあまり気にしていない。

 が、前回のウチのギルドはあまりにも何かやらかしたらしく、他のギルドからは警戒はされているらしい。

 少し前辺りからか店に来る客層が変わったのがよくわかる。

 恐らくは偵察だろうか。


 そんなことはさておき、少し前辺りからオルフェちゃんはシーザリオさんのところに籠っている。

 前に行った時か、『こいつは魔杖か!? なんちゅうモンこっちによこすんじゃあ!?』『はい?』だったからな。

 

 あの杖、相当な厄いシロモノだったらしい。

 元通りにするのはハッキリ言って呪いを作るのと同じだって言ってたか。

 ならば、一から新しい杖を作る方がいいとのことだった。

 『だったら、カッコイイ杖をお願いします! クリスさんの槍みたいなめっちゃカッコイイ杖を!』

 『おおう、それなら任せておけ!! ネウコさんや、しばらくこの娘っ子は借りるぞ!』


 滅茶苦茶意気投合した。

 

 それから、しばらくオルフェちゃんはほぼ帰ってこない。

 あの変人と気が合う。これはアタシとしては変な気分になる。 

 あんな真面目でいい子は滅多にいない。


 ……いや、これはアタシの経験上による主観に過ぎないか。

 果たしてオルフェちゃんの新しい杖が新人競技会までに間に合うのかはわからない。


 他のウチのギルドの新人競技会出場メンバーの近況。

 カナロさんはクソ真面目に初心者向けクエストをこなし続けている。

 どう考えてもオーバーキル、アタシはたまに同行するがオーバーキル。

 クエスト中のカナロさんは淡々と与えられた仕事をこなす。

 

 討伐の時は機械的なまでに無感情と思えるほどにこなす。

 それは怖いのなんの……近寄りがたい雰囲気がある。


 採取の時は流石に穏やか……ではない。

 超高速で伐採していく。なんだい、あれは普通に怖い。

 

 とにかく、だ。

 一緒にいるととにかく楽だ。

 なんでもそつなくこなすのでアタシの出番がほぼない。

 だから、アタシは本当にたまにしか同行しない。

 やることがないのは少々さみしいからね。

 アタシだってほら一応二十歳超えの成人女性だよ。

 働かずもの食うべからずくらいには思ってる。


「少々頑張りすぎじゃない?」

「…………そうか?」

「まあ、アンタがそうやりたいならそれでいいけども」

「そうか」

「…………」

「…………」


 本当アタシとタイマンで話すと口数が明らかに減る。

 まあ嫌われるのは慣れているから何も問題はない。



 ……で、最後にして先輩のルドアさん。


「修行の時間だああああああああああッ!!!!」

「パイセン、うるせぇです」

「はっはっは!! 後輩には負けられないからなッ!!1」

「はいはい、ならアンタの勝ちでいいよ、大声大将」

「っしゃあ! 俺の勝ち!! んじゃあちょっくら行ってくらぁッ!!」


 毎度毎度騒がしいし暑苦しい。

 だが、声はデカいが倫理観が正しいので、アタシ的には嫌いじゃない。

 カナロさんもこれくらい腹から声出せとは思う。 

 たまに足して2で割ってから、ボリュームを少し上げろ思ってしまうくらいだ。


「ルドア、また、行く?」

「おっとまた危険なバトルか? なら、あたい様も行くぜ!」

「おいっす!! 頼みますわ!! ビスタちゃん先輩にドゥラさん先輩!!」


 バトルジャンキー二人が結構な頻度でついていく。

 あの二人は前回の新人競技会に出ていたらしいが、きっと無茶苦茶なことをしたんだろうな。

 修行か……何をしてんのか、少々気にはなるが、ほうっておく。

 とにかく帰ってくるのかなりの頻度でボロボロになっている。

 だが、次の日には普通に治っている。

 きっと何かがある。

 まあそれはそのうちわかるだろう。


「いやぁ、こっちに来て毎日毎日騒がしいっすね。

 ま、クリスさんにとってはこれくらいの騒がしさがあったほうがいいっすよね?」

「そうね、宇宙の彼方には敵しかいなかったからね」

「私は?」

「アンタはアタシの身体の一部だから、ノーカン」

「お、それは……」

「アンタが堕ちればアタシだって死ぬ、そうでしょ?」

「まあ、確かにそうでしたけども」

「そういうこと」


 まさに二心同体だったからな。

 心まで一つに? そんなのはもしもの時だけ。

 

「…………で、今はどう思ってんすか?」

「よく喋る置物」

「それはめっちゃ酷くないすか?」

「速く動く硬堅い盾、8時間きっちり寝るタイマー、水だけで動く植物人間」

「いや、どれもこれもあってますけども」

「ならいいでしょ?」

「ひでぇや」


 連れてきた割には今はあまり役に立たないからそういう扱いをしている。

 そのうち役に立つだろう、きっと。

 ま、お前は新人競技会に出ないから、お前の活躍の場とか出番はないがな!!!



 と、ここまでは前置き・閑話休題だ。

 


 ……


 …………


 ………………


 深夜0時。

 いつもよりも早い時間だ。

 この時間に起きたわけじゃない。

 話は少し前に戻る。

 

『明日……つうか、この後、暇か?』

『まあ、帰っても寝るだけだし、暇と言えば暇ですね』

『なら、少し付き合え』

『ふーん、それはギルドマスターからの命令? それとも個人的な呼び出し?』

『まぎれもなく前者!』

『だろうね、後者だった場合、怖いお姉さまにアタシの首が飛ばされそうだからね』

『それはさせないようにする……あとお前はアイツのことをあまり挑発するなよ』

『了解、少しだけね』

『少しだけって……』

『冗談よ、それよりもステーキ定食おかわり』

『あいよー』


 と、飯を食いながらこんな会話をした。

 帰路に着くカナロさんとアインは男二人寂しそうだった気がするが、アタシは気にしない。

 だが、少しはいじりたくなる。

 

『男二人が同じ屋根の下、何も起こらないわけがなく……』

『何も起こりませんからね?』 

『…………俺が男に欲情するような奴に見えるか?』

『あ、すみません』

『なんだ何も起きないのか……残念だ』

『ルーラさん?』

『ん? どうかした?』

 

 ものすごく怒っているように見えた。

 冗談が通じないタイプだといい加減にアタシも覚えるべきだろうか?

 いや、でも……冗談が通じるくらいの仲にはなっておきたい。

 アタシがあの家を追い出されるのが先か、仲良くなるのが先か、チキンレースだ。


 あ、ルーラさんに関してはスルーしておこう。

 人の趣味にとやかく言うのは完全に野暮である。


 ともかく、だ。

 今アタシはマスターと二人でいる。こんな時間に、だ。

 

「こんな時間に何すんですか?」

「そりゃあ、買い物に決まっているだろ?」

「ああ、なるほどね……いや、早くないですか?」

「市場は2時からやってるからな、ぼやぼやしてちゃいいもん他に全部掻っ攫われる」


 なるほどね。

 それは大変だ。

 だが、それなら一人でやればいい。


「誰が買ったものを運ぶんだ?」

「アタシに持たせる気?」

「空間からもの取り出す奴あるじゃん?」

「確かに結構練習したからできますけど」

「オレは魔法をほぼ使えないからな、大量に買い込めないんだよな」


 荷物を持たせる気満々かよ。

  

「アレって『あの空間にぶち込んだものを入れた瞬間の状態』で持ってけるから便利なんだよなぁ」

「そうなの!?」

「まさか知らないで使ってたのか!??」

「だって、ノレヴァンさんは『ただの収納術』としか言ってなかったですか!!」

「ノレヴァン……! 少しは説明をしろよ……!」


 ほーん、それはいいことを聞いた。

 これはかーなーりー悪いことが出来そうだ。

 最近少しだが、どういうことが何か変わったことが出来ないのか考えてたとこだ。


「まあそれもあるが、ほら自炊をしたいって前にぽろっと言ってたろ?」

「言ったかな……」

「言った、これは言った」


 それは思い出せない。

 アタシのあそこで酒は呑んだことがないので酒で記憶がないときとかはない。

 

「カイトのおっちゃんの弁当見て言ったぞ」

「……ああ、あん時だ!」


 確かにあの愛妻弁当は美味そうだった。

 なんというか華があった。

 アタシがマスターの作る料理が好きなのは言うまでもない。

 あのおっちゃんの弁当もそうとう美味しそうに見えた。 


 ……ああ、わかった。

 これは紛れもなく飢えだ。 

 アタシの食に対する飢えだ。


「思い出したか?」

「まあね、大切なことだったわ、ありがとね」

「そうかい、そりゃあ良かった」

「で、それはそれとしてどこに行くんだ? それと移動方法は?」

「隣国の市場で移動方法は……走るぞ!」

「なるほど、だから、この時間か……」

「あ、ごめん、走るのは冗談だ……つうわけで、ノレヴァン! 頼むわ!」

「お安い御用さ、じゃあいってらっしゃい、お二人さん」

「あいよー、腹空かして待ってな!」


 待て、待て待て、ツッコミが間に合わない。

 まず一つ、隣の国ってどこだよ。

 二つ、走らないのかよ。

 三つ、ノレヴァンさんいつどっから現れたよ!


 と、そんなことはさておき。

 一瞬でいつもの酒場から見知らぬ土地に飛んだ。

 回数制限があるといえば便利すぎる。

 一日三回って言ってたからこの時間だったか……。


「さて、今日はバリバリ働いてもらうぜ!」

「了解、美味い飯のためならやれることは全部やってやりますよ」

「お、いつもよりも気合入ってんな」

「生きる上で必要なことだからね、飯は」


 時間は午前2時。

 まだ知らぬ地でアタシの新たな戦い買い出しが始まる。

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W転生 郁美 @Iku3M44

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