第12話 Daring Tact


 前々回のあらすじ。

 槍なんだが銃なんだか分からん武器のテストをするぞ!




 照準を合わさせないために無軌道に動き回る。

 銃口が向いている以上は弾はその直線上にしか飛んでこない。

 そう思っていた時期がアタシにもありました。


 普通に炎の塊じゃねーか!!


 そこそこの弾速で飛んでくるのを避け続ける。

 スナイパーライフルで機関銃並みの連射性。

 それでいて飛んでくるのは鉛玉ではない。


 それ、スナイパーライフルじゃねーのかよ!!


 射程はスナイパーライフル。

 連射性はマシンガン。

 破壊性能は大型キャノン砲。

 完全に常識の外にある武器。

 それを片手で楽々と振り回す女。

 

 アタシが相手にしてんのはとんでもないものを持ったとんでもない奴だよ。


「見事! 初見でよくそこまで避けれた!!」

「殺す気か?」

「? ないない。ただあたい様はアンタとガチでやり合いたいだけッ!!」


 あ、やべぇ奴だ、この人。

 こっちはさっさと終わらせて朝飯を食いたい。

 ただ、アレだな。


 負けたくはない。


 『負け』イコール『死』だったからな……。

 そういうことを強いられ続けた結果だからね。

 

 勝つことでしか前に進めない。


 負けて次につながるのは残っている後ろにいる奴ら。

 最前線で戦っているアタシたちは決して負けてはならない。


 染みついた性分はそう簡単には抜けないわけである。

 …………いや、それでも直撃すれば痛いじゃすまないんだろうな。


 火の玉を躱し続けて前に出る。

 かすり当たりすら出来ない、服が燃えるからね。 

 ギリギリではなく、大きく避ける。

 無駄に走らされているが、スタミナは今はまだ十分ある。


 地面を強く踏み込んで、急激に向きを変えつつ加速する。


 それでも銃の射程の内側に潜り込めた。

 この位置なら距離を取らない限り、銃は使えないだろう。

 うん、銃は使えない。


 それはこちらも同じ。

 槍の突貫射程の内側まで来てしまっていた。

 槍のメリット、完全になくなっているわな。

 

 と、なればやるのは肉弾戦だろう。


 …………左側から蹴撃。

 アタシの身体は大きく吹っ飛ばされた。

 ああ、やっぱりね。


 嫌な予感がしたから、直感的に吹っ飛ばされるであろう方向に槍で防御しつつ飛んだ。

 ある程度はダメージを受け流せたとは思うが、やっぱ痛いや。

 上官の拳に殴られる数倍は痛い。


「ビスタちゃん以下の速度ならあたい様でも対処できる!!」


 それだったらほぼ全員アウトじゃねーか!!

 なら、アタシが取る行動はただ一つ!


「ちょっとタンマ!!」

「いいぜ!」


 ああ、アイツがアホでよかった。

 

 考えるのはアイツに勝つ方法。

 ……ではなく、アイツに負けない方法。


「シーザリオさん、こいつのスペックとかギミックとか全部教えてください」

「おっ、ネウコちゃん意外にやる気あるんじゃな?」

「ああ、その人、負けず嫌いってか、負けること自体が根本的にダメな人なんすよ」

「うるせーこいつでぶっ刺すぞ、こっちは真面目な話をしにきてんだよ」

「へいへい、分かりましたよっと」


 しばらく、話す。

 時間にして数分くらい。

 

「……と、こういった感じじゃな」

「了解、把握した……選べる手札は多いに越したことはない」

「あー……クリスさん、魔力使えるんすか?」

「昨日、覚えた……付け焼き刃だが一回っきりなら問題ないはず。

 要はアイツの想定の上やら斜め上やらに超えていくだけだから」

「そう、上手くいくんすかねぇ……」

「さぁね、上手くやって5分5分もしくは4分6分……あるいは3分7分」

「クリスさん、ダイアグラム下がってますよ」

「まあ、死ななきゃ安いって奴だわ」


 槍を持ち、駆ける。

 待たせてしまったからな。

 さっさと終わらせるのがいいって奴だ。



「待たせた」

「おう、あたい様は寛容だからな、気にするな」

「そう、ならその言葉に甘えて――――、一撃で終わらせる」

「はっはっはっはっ! そいつは楽しみだ――――来なッ!!」

  


 来な、とは言われたが、アタシは距離を取る。

 こっちだって考えがあるんだからな。


 火球を避けながら、距離を取る。

 一定弾速なら避けれる。

 アタシの空間把認識能力なめんな。

 

 二次元的な前後左右の動きならまだ余裕。

 今まで前後左右上下から光速で飛んでくるレーザーを前線で避け続けてたことに比べれば……。

 比較対象が比較対象なだけに今の状況と比較するのは流石にどうかと思うがな。

 

 さて、アタシがやるのは。


 『攻撃避けつつ』

 『槍を握って集中して』

 『アイツを無力化させる』 


 三日前までだったら1つ目をアインに9割くらい任せてたが、今は全部自分でやらないとな。


 

 シンプルだが、分かりやすくてよかった。

 世界もこれくらいシンプルならいいのにね。

 

 十分に距離は取れた。

 槍の直線にアイツが入った。


 脚。

 膝。

 腰。

 背筋。

 右肩。

 右肘。 

 右手首。

 指先。


 身体のあちらこちらの神経を使う。、

 砲台は己。弾丸は槍。

 狙いはただ一点。


 そこを狙って突貫する。


 もう全弾避ける必要はない。


 信じるのはこの槍を作ったシーザリオさんの武器職人としての腕だけ。




 飛んでくる火の玉を弾く。



 弾けた。


 

 …………マジで出来たわ。


 

 魔力を流したら、僅かだが攻撃を逸らせた。



 半信半疑だったが、今確信に変わったわ。



 行けると確信が出来たら、全ツッパする。



 一歩間ごとに加速していき、距離を詰める。

 


 身体の一部のように完全に馴染む。



 今、槍を持っている重さをほぼ感じない。



「いいねぇッ! 真っ向勝負ッ! あたい様は大歓迎だッ!!」


 

 最高速度の一歩先へ飛ぶ。

 



 あの娘よりもさらに速く。

 

 

 

 狙うは一点。




 ――――――アイツの足元の地面!! 




「うおっ! 地面が抉れ――――」

「……取った」



 バランスを崩したところを持っていた銃を蹴り飛ばして、マウントを取った。

 この槍の質量がある分。重石には丁度いい。



「勝負ありっす!」

「待て待て、一本目はネウコちゃんにくれてやる!

 勝ち逃げなんて許さんぜッ!!」

「いつまでやるの?」

「無論、あたい様が勝つまで何本でもッ!」

「じゃあ、二本目以降はアンタの不戦勝でいい」

「よし! ならいい!!」


 あ、いいんだ。

 というか、二度目以降こんな大胆な戦法は通用しないってのは直感できた。

 そして、何よりもアタシの腹が空いてる。


「じゃあ、朝飯に行くぞッ!!

「あ、私は水だけでいいっす」


 そいつは助かる。

 さて、あとあの人に礼を言うべきだな。


「アンタのおかげで助かった」

「礼を言うなら儂にじゃない。

 それにしても模擬戦だとしても魔物相手ではなく対人戦の……アイツ相手にそこまでやれるとはな、驚きじゃのう」

「人間相手の方が慣れている、悲しいかな、そういうところで鍛えられた」

「聞かないでおこうかのう、儂は秘密主義じゃからな」

「だから、偽名使ってるのか?」

「ま。そういうことにでもしておこうかのう……で、儂のAPファネイアーはどうじゃ?」

「悪くはない……気に入った」

「そうかそうか、ソイツも喜んでおるよ」


 ……あー、そういう奴か、この人。

 理解した。アタシは賢いので。

 

「一つだけ明かすと、儂は無機物の声が聞こえる」

「……………」

「だから、お前さんの相棒が人間ではないのは一目見てわかってしまった。

 じゃが……聞こえてくる声が多すぎる。アレは一体何者なんじゃ?」

「壊れては直しての繰り返しを重ねて出来た『アタシの翼だったモノ』。

 ………今はヒトの形してるけども、ね」

「ほう、なるほどね」


 アタシだって、アインの素性は……聞いたはずだけども覚えてない。

 あんなアホみたいな話しを二度させるとか野暮じゃん。


「ん、じゃあ、こいつの整備が必要になったら、アンタのとこに行く」

「おう、いつでも来い……お代はそのうち払え」




「ああ、払うさ、ちゃんと利子付けてな」



 

 こうして、アタシはこの世界で武器を手に入れたのであった。

 

 

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