第13話 ようやく朝食の時間


 前回のあらすじ

 アタシの身体、朝からよく頑張った。


 

 どんぶりに盛られたご飯。

 何かの海藻が入ったみそ汁。

 何かの魚の塩焼き。

 何かの卵と謎の肉のベーコンのベーコンエッグ。

 山盛りのキャベツ。


 『ごきげんな朝飯』と頼んだら出てきたセットだ。

 マスター。もしかしてアンタ、こっち側の人間なんじゃ……。

 いや、ないか……異世界転生なんざしてる奴がこんな近くにいるわけないか。


「こいつはごぎげんな朝食だ」

「朝からそんなに食えるんすか?」

「さっき動いたからプラマイゼロだよ」

「そういうもんなんすかねぇ……」

「ハッハッハ、いつ見てもいい食いっぷりだな!」

「マスターの作る飯が旨いからな」

「おう、もっと食っていいぞ!」


 ガツガツと飯を食う。

 アタシはグルメ漫画のような大袈裟なリアクションは出来ない。

 だから、あえて言おう。


 文句なしに『美味い』、と。


 ちなみにシーザリオさんはここにいない。

 『さっきのでいいインスピレーションが沸いた』とのことだ。

 引き止めはしなかった。


「ごちそうさまでした!」

「おう! 毎度な!

 ……ところでソイツは……シーザリオのところの奴か?」

「まあ、そうですね、悪くなかったから見繕ってもらった」

「ほう、槍か? 銃か?」

「両方だ」

「なるほどね、また無茶苦茶なものを作ってんな、アイツ」

「シーザちゃん、戦闘効率に関しては大馬鹿だからね。

 それよりもマスター、あたい様の注文まだ?」

「おめーまだなんも注文してねぇだろ!」

「あ、そっか。じゃあ、さっきのネウコちゃんと同じ奴くれ」

「あいよー……いや、ネウコちゃんって誰だよ!」


 ドゥラさんがいると話が全く進まねぇわ。

 マスターは厨房に行ってしまい、何か収納魔法的なものを使える人がいないか聞けなかった。


 アタシとしてもこんなバカデカイ槍だが銃を街中で持ち運ぶなんて嫌だよ。

 目立つのがまずダメ。下手すりゃ職質されるかもしれない。

 ここに警察らしき組織も法律もあるのかも知らんがな。


「……いたのか」

「お先にね」

「なんですか!? それ!! 真っ黒くてカッコイイ!!」

「エピファネイアだ……APファネイアーだっけ? まあ、アタシの武器」

「ドゥラの仕業ね」

「ルーラちゃん、また出遅れたな!」

「うっさい!」


 ぞろぞろ現れた三人。

 先着順にカナロさん、オルフェちゃん、ルーラの姉貴。

 目を輝かせてアタシの槍を見るオルフェちゃん。

 あー……アインと同じタイプなのかもしれないな。


「持っていいですか!??」

「……オルフェ、やめとけ、それはお前が持てるような代物じゃない」


 うん、体型とか筋力とか違いあるし、押しつぶされるだろうね。

 私には軽くても他人には重いことは多々あるしな、だが。

 

「まあ。持つくらいなら……」

「え、いいんですか、どれどれ……お、も……た、す、け……」

「…………だから、言っただろうが。少しまっ…………………重」

「もうなにしてんすか、二人して! 今助け……うぎゃあーーー重!? なんすか、これ!?

 バカですか!!! これ作った人、大馬鹿なんですか!!!!???? 

 あ、これぶん回せるクリスさんも相当大馬鹿ですけどね」 


 何してんだろうか、この三人は?

 アタシはひょいと槍の持ち手を持つと持ちあがった。

 異常なのはアタシなのだろうか……いや、確かシーザリオさんは普通に持ってたような……。


 あ、それとあとでアインはケツをこれでぶっ叩くわ。


「なるほど、生命力吸収エナジードレイン…か」

「マスター、何それ、人の命を吸ってるってこと?」

「命って言うか、生きる活力というかやる気というかそういう奴だ。

 なんか気だるいと力ってのは出ないもんだからな、へい、ごきげんな朝食セットおあがり!」

「待ってたぜ~~~」

「ドゥラ、朝からそんなに食えるの?」

「ルーラちゃん、あたい様はさっき動いたからプラマイゼロくらい!」

 

 おい、人の台詞をパクるな。

 まあ、それは置いといて、マスター来たしな、丁度いい。


「マスター、何かこう、槍を瞬時に取り出したりしまったりする魔法みたいなの知らない?」

「いんや、オレは魔法は専門外なんでな、魔法に詳しい奴となると……スズカちゃんは今日非番か」


 あの眼鏡、魔法使えるのか。

 まあ、人は見た目で判断したらいかんからな。


「あとはノレヴァンくらいだな」

「呼んだかい?」


 壁に寄り添っていた男。

 ターバンのようなもので顔が見えない。

 しかし、そこから垣間見える眼はどこか涼し気で優しい。


「おっすおっす、ヴァンちゃん、久し振り! えっと前に会ったのは半年前くらい?」

「ドゥラ、2か月前だよ。相変わらず君は変わらないね」

「ハッハッハ、あたい様はいつだって変わんねぇぜッ!」

「アンタは少し適当すぎんのよ! すみません、ノレヴァンさん……あとできつく言っておきますんで」

「いやいや、ルーラ、僕はそこまで気にしてないよ」


 大物なのか、天然なのか。

 まだ判断がつかない。


「君たちは……初めましてになるのかな?

 僕は『ノレヴァン』……まあ、ここでは普通の魔法使いということになるのかな」

「これはどうもご丁寧に……クリス・S・ネウコックだ。

 ここで三日前から雇わせていただいている」

「アインっす、クリスさんと同上です」

「…………カナロと呼ばれている」

「もうカナロったらちゃんと自己紹介しないと……あ、私はオルフェと申します」


 普通の魔法使い……すっげぇファンタジーだ。略してSFだ。

 いや、魔法使いって極ナチュラルに受け入れてしまったが、昨日より頭が回っている。

 朝飯の直後だからな、カロリーが頭によく回る。


「うん、覚えたよ。

 で、話は朝から見たり、聞いてたりはしたがお困りのようだね」

「はい、この通り、バカデカイ上に重いから持ち運びずらいったらありゃしない」

「なるほどなるほど……つまり、こういうことかい?」


 すると、何もない空間から一振りの剣が現れた。

 ほぼノータイムかつタイムラグなしでその手に握られていた

 これはこれでスタイリッシュでカッコイイな。

 

「そう、それ」

「なるほど、空間収納魔法ストレージか……覚えるのにはコツがいる」

「どれくらい掛かる?」

「うーん、それは人それぞれかな、早くて5分、遅くて10年、覚えられない人は覚えれない」


 それは随分と気の遠くなる話だ。


「ちなみにあたい様は覚えられなかったぜ!」

「それはアンタが覚える気なかったからだろ! というかさっさと食って指導クエスト行くぞ!」

「おうよ! さて今日は誰を連れてくかな、あ、アインちゃんは確定な。面白いから」

「じゃあ、オルフェちゃんだな、クリスとカナロは普通に怖いから無理」


 これまた火の玉ストレートな物言い。

 まあ、消去法的にはそうなるな。でも、少しは傷ついただろうな、カナロさんは。

 アタシは…………まあ、別にいいか。精神的にもノーダメージだ。


「私として別にいいっすけどもオルフェさんはどうすか?」

「偶にはカナロと一緒じゃなくてもいいかな」

「……………………そうか、なら好きにしろ」

「決まりだね、マスター、四人用の指導クエストある?」

「あるぜ、そこの壁にある奴適当に選んで行ってきな!」

「よっしゃッ! 竜狩りクエスト行こうぜ!」

「指導クエストだって言ってるでしょうが!!」


 あ、竜居るんだ、この世界。

 確かにいそうだけども、アレか。

 山奥かどこかにでもいるんだろうか。

 ともあれ、4人は指導クエストとやらに行った。


「竜討伐くらい王国騎士団の連中に任せればいいのにな」

「まあ、それもあるね」

「王国騎士団って?」

「知らんのか?」

「超ド田舎から来たんでね、この国の歴史すら知らないんでね」

「なるほどね、なら知らないのも仕方ないか」

 

 ド田舎から来たと言っておけばとりあえずなんとなるな。

 ただこの言い訳がいつまで通じるのか、わからないな。

 この国の教養はまあ早いうちに身につけないとな。


「まあ簡単に言えば、この国を敵国から守ってた軍隊みたいなものだね。

 今はそうだね、外から餌を求めてくる魔物を狩ったり、城下街の平和を守ったりしてる人らのことだね」

「……の割にはアタシら一昨日チンピラに襲われたんだが?」

「守るって言っても自分達の目に見えるところ、手の届くところまでだからね」

「へぇ~」

「ああ、割と興味ないんだね」


 まあ、そういう奴らがいるってことは覚えておくか。


「…………昔、戦争でもあったのか?」

「おや、君も知らないんだね」

「……ここ2年ほどの記憶しか無くてな。

 自分の名前とか経歴とかは覚えてるが、国の歴史等は知らない」


 なるほど、記憶喪失か。

 ……なんか裏がありそうだが、そういうことにしておこう。

 アタシだって『嘘』ついてるんだから、人のことをとやかく言える義理じゃない。


「なるほどね、それは面白い」

「ハッハッハ、ノレヴァン相変わらず性格悪いな!」

「いやいや、ほら僕は困難に立ち向かう人間が好きなだけだからね。

 そこからどうするのか、前に進むなら少しばかり空いている手を貸したいだけだよ」

「それが性格悪いって言われる由来だよ」


 アタシでも分かるほどの結構性格の悪い男だ。

 だが、こういう男は信頼していい類だ。

 嘘は言っていない、聞かれてないから答えていないと言った感じだからだ。


「戦争は終わった、今はそれなりに平和。それでいいじゃないか」

「ま、本当に平和ならギルドも王国騎士団もいらないがな」


 やっぱ何かあるのか、この世界。

 色々とおかしいのは分かっていたが……アタシにとってはそれどころじゃないな。

 

「さて、それで話は大分横道に逸れたが、クリス。僕の魔法指導受けるかい?」

「回答は……よろしく頼む」

「オーケイ。で、君はどうする、カナロ?」

「……今は一人用のクエストはないらしいな」

「あっても今のお前はまだ新人だからな、出すわけにはいかねぇよ。

 どれだけ実践経験があろうと、ここでの経験がなけりゃ新人だ。

 ……オレにだってそういう責任があるからな」

「………………そうか、なら俺もノレヴァンさんの魔法指導を受ける」



 こうして、この二人で魔法指導を受けることになったわけだが。

 さてさて、この時、アタシは瞬間移動というか空間転移というものを生身で初体験した。

 

 

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