第11話 第9.5話(裏)


 俺はあの人に少しはカッコイイところを魅せれただろうか?

 野犬の群との戦いの中で少しは派手に戦った。

 手から黒い炎を出しては見たものの、まるで無反応だった。

 それどころか『戦い方が雑』とルーラさんに指摘された。


 カッコイイ戦い方ってのはそりゃ無駄動きが増えるわ、放っておいてくれ。

 

 だが、これは俺なりのカッコイイ戦い方だったわけだが……。

 クリスさんのやり方は非常にスマートだった。

 無駄なことが何一つない……カッコイイ戦い方の一つではあったな。


 ……裏を返せばどこか『余裕がない』って感じだったがな。


 何かを恐れているような。

 そんな感じはした。

 ま、気のせいであることを願いたいね。

 男の勘は大体外れていいもんだからな。


 さて、ここで一つ疑問になったのが……。

 昨日のアインと今日のクリスさん。

 言っていることがかなり矛盾している。


 さて、どっちが正しいことを言っているのか……大体分かっている。


 そして、寝る前のことである。

 アイツに色々と聞いてはみたが……。

 なんというか…………

 『クリスさんのことっすか? あー、やめといた方がいいっすよ』

 って感じだったが、それでも色々と聞いてみた。

 クリスさんとアインの話は色々と食い違ってはいたが、真実を話してるのはコイツの方だ。

 女には一つや二つ隠し事は持っているものだが……。

 

 そしたらあっさりと話してくれた、こいつかなり素直な奴だわ。


 いや、それでも異世界転生して来る前の方がハードっぽいぞ、アンタら。


 宇宙で戦争って……SF世界すぎる。S(すごく)F(ファンタジー)世界だよ。

 宇宙技術が発達していて戦争している世界から魔法があってそれなりに平和な世界。

 連続でそんなのとこに飛ばされたら普通は戸惑うわな。


「私だって最初は困惑しましたよ、

 交通事故で死んで『今度は交通事故で死なない身体になりたい』と願ったら『戦闘機』になってたんですから」

「…………そうか」


 ……確かに交通事故では死なない身体だ。

 それにしても交通事故か……どこでもそういうことは起こるもんだ。

 俺の元の死因だって交通事故だったからな。 


「そうですね、子供を助けようとしてトラックの前に出たんですけど、

 トラックに撥ねられる直前に横から誰かに蹴り飛ばされて、反対車線に出たんですけど……」

「…………」

「反対車線から来た軽トラに撥ねられて、打ちどころが悪くて死んだようですね。

 あ、私が助けようとした子供は無事だって、私の最初の世界の神様が言ってましたわ」

「…………そうか」


 ……あれ。

 その状況どこかで……。


「……それはいつの話だ?」

「3年前の6月くらいっすかね、あの日はすごく大雨で視界もすごく悪かったですね」


 3年前の6月の大雨……。

 俺が死んだ日の状況とすごく酷似している。


 いやいやいや、ないないない。

 そんなことする神様がいたら師匠ばりに性格が悪い。

 

 確かにあの日、俺は仕事帰りに交通事故に遭いそうだった男子高校生を発見した。

 ……仕事と言っても俺がしていたのは人に言えないような汚い仕事だ。

 まあ、それは置いておいて……

 咄嗟だったから抱えるよりも先に蹴り飛ばした方が早いと踏んだ。

 反対車線に蹴り飛ばすことには成功はしたが、俺の身体は……動かなかった。

 

 謎の力が働いた。


 普段だったらそんなへますることなくトラックを避けていただろう。

 本当になんだったのだろうか……。


 その直後、気付いたらこの世界にいたわけだが……。


 …………まあ、偶然だろうな。

 俺の考え過ぎだろう。

 

「………と、いうわけで……眠くなったんで寝ますね」

「……………は?」


 普通に寝やがった。

 昨日と同じ時間にきっちりと。

 まだ二日目だ。こういうのは数日くらいデータが足りない。

 

 検証? 別にしない。


 ……


 …………


 ………………

 


「邪魔すんぜ」

「……アンタは確か……」

「おう、昨日はあんま離せなかったからな。

 マスターから聞いたが、ここに4人で住んでのか?」

「……一応、5人だ」

「うーん、1人くらい誤差の範疇!」


 昨日のデカイ女。

 確かルーラさんの姪っ子のドゥラさんだっけか。

 こんなに朝早くから一体何の用だ?


「で、クリスって子はいるかい?」

「……クリスさんは今いない、どこかに走りに行った」

「そっか! ああ、あとアイツいる? あの妙に硬い少年!」

「……そこで寝ている」

「ちょうどいい、コイツ、ちょっと借りてくねー」


 寝ているアインを片手で持ち上げて、どっかに走り去った。

 ……見方を変えれば人攫いと言っても過言ではない。

 いや、家主の俺から許可を取っていったから人攫いではないな。



 それが今朝(朝6時)の出来事である。



 ……


 …………


 ………………

 


「……ということが朝にあったわけだが?」

「えー……」

「なるほどね、うちのドゥラが迷惑をお掛けしたというかしている最中というか……」

「……気にするな、ちゃんと誰と一緒に居るかってのが分かってる時点で心配は一つ減る」

「アンタがそういうならそういうことにしておく。

 けど、ドゥラの場合はトラブルを倍くらいに増やすから頭を抱えたい」

「回復魔法いりますか?」

「気持ちだけでいい、ありがとう」


 朝出かける直前のことである。

 ルーラさんが遅れてうちを訪れていた。

 今クリスさんもアインもいない、ついでに昨日からビスタさんもいない。

 昨日の仕事したくないから帰って寝たいというのは建前だったんだろうな。


「しかし、若い男女が5人が……何も起きないはずがないわね」

「起きませんよ!」

 

 俺だって何か起きないか、わくわくしたいよ。

 だが、生憎オルフェをそういう目で見ることが出来ない。


「…………アンタは何か面倒事が起きてほしいか?」

「それは勘弁ね」

「…………だろうよ。

 で、今日の用はそれだけか?」

「カナロ、さっきから思ってるんだけど年上には敬意を持って接するよう……」

「……俺なりの敬意は払っているつもりだが?」

「私は別に構わない、お前は正論しか言ってないからな。

 無茶苦茶なことしか言わない奴らが多すぎてな……お前のような奴が一人でもいると助かる」

「……そういうわけだ」

「えー……」


 俺はそういうロールをしている。

 ずっとこういうクールキャラのロールをやってみたかったんだ。

 ……生前ずっとお調子者の三枚目で通してきたからな。

 ふらっと歩いて、仕事して終わるような簡単なことをするんだからな。

 普通ではやらないような訓練を覚えてる限りずっとしてきた。

 

 親兄弟姉妹? いねぇよ。

 だから、ルーラさんとドゥラさんの関係を聞いても正直よく分からんかった。

 家族がいるだけでいいじゃないか。それくらいしか思えなかった。


 さて、雑談もこれぐらいにしておいて……。

 

「……朝飯を食いに行きたいんだが?」

「確かに今の時間ならマスターの店がいい感じに空いてるな。

 マスターの作る飯は美味いし、頼めばほぼなんでも出てくる」

「マスター……一体、何者なんですか?

 私は師匠の昔馴染みの知り合いとしか聞いてなくて……」


 確かに俺もそれ以上の情報しか聞いていない。

 

「貴女の師匠って?」

「えっと、私の育ての親みたいな人です。

 森にずっと住んでいて、人よりも少し長く生きて、少し多くの知恵を付けた『普通の人』を自称してましたね」

「なるほどね、名前は?」

「知りません」

「はい?」

「えっと、師匠の名前を私は知りません……教えてくれませんでした」

「……ちなみに俺も知らん」

「そう、了解した、この話は止めておきましょう」


 ちなみに嘘である。

 俺もオルフェも師匠の名前を知っている。

 ちゃんと教えてもらった。

 まあ、いわゆるアレだ。

 

 『人前や町中で呼んではならない名前』の持ち主だ。


 つまり、だ。

 そういう奴に俺は二年ほど。

 オルフェに至っては生まれてからずっと。

 鍛えられてきたわけだ。


 そら強くなるよ。

 ぶっちゃけ、そこらへんのチンピラとか魔物くらいなら秒殺あるいは瞬殺できるよ。

 だが、人間の無用な殺生は避けるようにはする。

 そう決めていた……俺としてはもうそういうのはしたくないんだよね。


「あと、そういえばさ」

「なんでしょうか?」

「金色の魔王『オルフェ』とその最凶災厄の召喚獣『カナロ』。

 その一人と一匹が世界を支配するって御伽話を知らない?」

「私、本は好きですけど初めて聞きましたね……」

「そっかぁ……二人の名前の由来かと思ったんだけどな」

「……そんな物騒な名前を付ける奴はいないと思う」

「そうだよね」


 魔王に最凶災厄の召喚獣? なんじゃそりゃ?

 そんなことを思いつつ、朝飯を食いに向かうのであった。

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