第10話 お気に召すまま


 前回のあらすじ

 何やら武器職人と殺し合いをしなくてはならないらしい。



「さぁて、やろうか……!」



 大型のスナイパーライフルをこちらに向けてくる。

 目の前の女はやる気満々と言った感じである。

 対するこちらの手には槍なんだか銃なんだかわからん武器。



 さて、こうなった経緯を順を追って話すとでもしよう。




 ……


 …………


 ……………………

 


 あれだけ色々と持っているのに速度が全然落ちない。

 推定70キロほどの負担斤量だ、なんでだよ、と言いたいところだが我慢しておこう。

 人様のことをツッコめるような鍛え方してないからな。

 

 ともかく、だ。

 昨日の姉貴の方も相当だった。

 いや、ルーラさんのことを姉貴と呼んでいいのか?

 

『なんでドゥラさんにルーラちゃんって呼ばれてるんですか?』

『うーん、ルーラ叔母ちゃんで略してルーラちゃんらしい。

 そんなに年齢変わんないのにおかしい話よね。

 あ、一応私の方が年上だからね』

『…………そうですか』


 おかしいのはアンタらの父親だよ。

 と、そんな感じだったし姉貴呼びでもいいだろう。


 まあ、一先ずそれは置いておこう。

 こんな訳の分からん話を真面目にしたら、アタシのこれからに集中できない。

 いや、こんな話してたら、ドゥラさんに置いて行かれる。


 うちはうち、よそはよそ。

 うーん、実に便利な言葉だ。

 アタシはアタシが思ったことを素直に喋るだけだ。

 

「着いたぞ!」

「ここですか?」


 店の外観からして武器屋だと分かる。

 看板にそう書いてあるし……そういや、異世界なのに文字読めるな。

 こういうの文字を一から学ばないといけないチュートリアルをすっ飛ばしてくれるのはありがたい。


「おらぁ! 来たぞ!!

 シーザちゃん! 居るんだろぉ!?

 アインちゃんが不甲斐ないからあたい様が直々に連れてきてやったぞ!!」


 おい、あんまり朝っぱらから大声を出すもんじゃないよ。


「朝っぱらからうるせーぞ! 今何時だと思ってんだ! 馬鹿野郎!」


 ほーら、怒られた。


 中から出てきたのは鋭い目つきの女性だった。

 ……さて、これは寝不足なんだろう。

 睡眠不足は健康に悪いのは常識だ。

 

「ん? お前さんが昨日そこで寝ている奴が言っていた例のアホだな?」

「まあ、そうですね……初対面の人間に向かってアホってなんですか? 喧嘩売ってます?」

「儂の店は喧嘩は売ってねぇよ?」

「おう、喧嘩ならあたい様が買うぜ?」

 

 ああ、ドゥラさんはそういうタイプか。

 ビスタさんと同じ系統だが、外に出していく奴だわ。

 所謂、戦闘狂って奴だわ。

 あー……なんでアタシの周りにそういう奴が多いんだろうね。

 まあ、いっか。

 

「で、シーザリオってのはあんたですか?」

「む、儂がシーザリオじゃが?」

「『シーザリオ』ってのは普通は男の名だからな、偽名か?」

「…………そういうことを言われたのは二回目じゃな」


 ここから一人の気配しかない。

 出てきた女の手を見て、何かしらをずっと作ってきた手に見えた。

 匂いが整備班の中でそれなりに良かった奴と同じ匂いがした。

 ぼさぼさな黒い髪とそれとは対照的な綺麗な黒い目。

 

 こいつが十中八九でそうなんだろう。


「で、アンタが……」

「クリス・S・ネウコックだ」

「……クリスエス・ネウコック?」


 区切るところちげーよ。

 訓練生の頃によくそういう間違いを指摘した。

 だが、そういう時は大体こう返す。


「クリスでいい」

「わかった、クリス……さん? ちゃん?」

「好きに呼べ」

「あー……それはやめとけ……」

「? どういうことだ?」


 どうせ、ろくでもないことになるんだろうな。

 が、ドゥラさんのこの焦りっぷりを見ると割としょうもない渾名を付けられそうだ。

 あまりにもなの意外だったら、ノーリアクションで過ごせるぞ、アタシは。


「じゃあ、ネウコさんってのはどうじゃ?」

「…………ネウコ」


 ネウコ……ネウコ!?

 いや、どこで区切ってたんだよ!?

 クッソ、そういう感じの奴かよ……。

 好きに呼べとは言ったが、斜め上できやがったわ。

 うわぁ、すごいドヤ顔してきやがる。

 上手くもなんともないぞ。

 

 いや、もっとひどいのが来ると思ったからセーフだ。セーフ。


「シーザちゃんのネーミングセンスはほぼゼロだからな。

 あたい様からしたら此間のアレで及第点レベルだからな。

 まあ、そういうことだ、ネウコちゃん」

「ネウコ……あー、うん、ネウコね。もういいや、それで。

 というか、アンタもネウコ呼びするのかよ」

「別に構わないだろ? それに可愛いからいいんじゃね?」

「可愛い……アタシが、か? 冗談はそのバカデカイ銃だけにしとけや」

「あァ? 儂の作った銃に文句でもあるのか?」


 ……これは長くなりそうだ。

 アタシとしてはさっさと本題に入ってほしい。

 朝御飯すら食ってねぇんだよ、こっちは。


「で、用があるからアタシを呼んだんだろ? そこの馬鹿からそう伝えられた」

「おう、そうじゃったな……いや、この馬鹿のことだ、どう曲がった伝聞したのかちょいと気になるのう」

「馬鹿ってのはあたい様のことかい? それともアインちゃんのことか?」

「お前さんだよ」


 ま、流れ的にそうだろうね。

 

「あたい様は『すぐに行かないとシーザちゃんとネウコちゃんが殺し合い始める』とちゃんと伝えたぞ」

「何故そんな物騒なことになっとるんじゃ……」

「いや、実際あたい様とやりあった仲じゃん?」

「それはお前さんが儂との予定を十日間もすっぽかしたのが悪いだろうが!」


 十日……それは殺し合いに発展するわな。

 

「今のところ部外者のアタシが言うのもなんですが……。

 何があったかは知らんが十日も放置している方が普通は悪いな」

「うむ、お前さんは話がちゃんと通じる奴で良かった」

「生憎、アタシは普通に生きることが『今』の第一目標なんでね。

 自分の感性くらいならどこにでもいる一般人と変わらないと自負している」


 『どこにでもいる一般人』。

 これは大体どこにもいない普通じゃない奴を指すが、アタシは普通だよ。

 まあ、自称『普通』ほど世界に信用できないものはないけどな。


「お前さん、何か武器が欲しいってツラしとるのう」

「アタシはアタシでも振り回せて、遠くの敵を攻撃出来る奴だったらなんでもいい」

「……そこで寝とる奴の言ってた通りじゃな」

「そうですか」


 ……ったく、おしゃべりが過ぎるぞ。

 今までアタシ以外に話す相手がいなかったのもあるが。

 枷が外れるとここまで行くんだな。


「というわけで! ネウコさん! 『こいつ』を使ってみたいと思わないか!?」

「どういうわけなの……いや、それよりもこれって槍? 銃?」

「この『APファネイアー』は槍でもあり、銃でもある!」

「ふーん……」


 エピファネイアね……。

 どっかの国のクリスマスから何日か後の祭りだっけか。

 そこまで詳しくないから何とも言えない。

 

「触っていいの?」

「持っていいぞ」


 取っ手を握って持ち上げる。見た目ほど重くはない。

 長さの割にアタシでも片手で持てる。

 材質はなんだろうか、この世界特有の鉱石を加工したものだろうか。

 少なくともアタシの世界にはなかった素材であることは確かだ。

 

 ぶんぶんと軽く振り回してみる。

 耐久性も問題ない。

 使い勝手? 悪くない。

 手に馴染むというのはきっとこういうことなんだろう。


 初めてアイツの操縦桿を握った時の感覚とどことなく似ている。

 いや、ただの勘違いかもしれない。

 ま、あの時は無我夢中で必死だったからな。


「どうだ、この重厚感!」

「いや、重くはないが?」

「は? 儂でも両手やっとで、戦闘で扱えるギリギリの重さだぞ?」

「これ軽いだろ? 持ってて違和感はない」

「やっぱな、シーザちゃんは外に出ないから……鍛え方が根本的に足りない!」

「うるせえ、体力バカ共!

 だから、儂はインドア派じゃから!

 必要最低限で十分なんじゃよ!!」


 あー……これはやってしまったか。

 でも、本当に重くはないんだよな、これ。

 武器は欲しいけどな、これが欲しいと思ってしまったアタシがいる。 

 周りに多くの剣や銃もあるのにも関わらずにも、だ。

 

 こんなのキワモノの中のキワモノだよ。

 これ見て、惹かれるのは普通じゃない奴だけだよ。


「お前さん、それ欲しいか?」

「…………」

「武器はしゃべれんし、担い手を自分で選べないからのう。

 誰かが見つけて、使ってやらんと武器が可哀想じゃろ」

「昔、同じことを言ってる整備士のおっちゃんが居たわ」

「正論じゃな」


 ……戦火で焼け死んだがな。

 そうは言えなかった。

 

「でも、これ、お高いんでしょ?」

「試作品じゃからのう、欲しいなら条件付きでタダでもいい」

「マジで?」

「儂としては問題点を洗い出せればいい。

 次に繋げるためにな……儂はよりいいものを作りたい、それだけじゃ」

「なるほどね、アタシにコイツのテストをしろと」

「利害は一致しとるじゃろ?」


 あー、ちょい苦手だわ、この人。

 完全にこっちの思考やらを読まれてるわ。


「なぁなぁ、シーザちゃん」

「どした?」

「それの試し打ちをあたい様相手で試さないか?」

「……お前さん、どれだけ戦いたいんだい?」

「『戦うこと』があたい様の存在証明だかんね。

 何よりもあたい様がそいつと戦いたくて、うずうずしている」

「……お前さん、儂の店のぶっ壊す気か?」 

「あたい様は壊す気はない、勝手に相手が壊れる」

「……やるんなら外でやりな」

「あいよー」


 ……何か勝手に話が進んでいる。

 実のところ言えば、満更でもない。

 俗に言う血が騒ぐという奴だろうか。

 戦場の最前線を離れて三日目なのにね。

 

 …………いかんいかん。

 身体が闘争を求めている。

 前にもたまにあったことだが、抑えられている。

 うん、抑えられているな。


「うぃーっす、おはよーさんっす! 

 今日は早起きでちゃんとベットから朝日を……って、どこっすか、ここ!?

 こっちに来て夢遊病でも発症したんですかね?

 いや、というか、よくみたらシーザリオさんの店っすね、ここ」

「起きたか……アイン、お前何時間寝た?」

「おはようございます、きっちり8時間っすよ。

 それよりもそれ買ったんですか、無茶苦茶お似合いっすよ」

「似合うか、こんなキワモノ?」

「私のセンスだと、最高に好きっすね」

「それは世辞か?」

「率直で素直な感想っすよ」


 起きたと同時にこんなテンションなのか。

 元気なのは悪くはないし、嫌いじゃない。

 近くの奴の士気が下がってるのが一番嫌いだ。


 ……あ、こういうとこか。


 これは相当掛かるな。

 ここでは普通に生きたい。もっと楽に生きたい。

 だって、ここでは宇宙でドンパチなんざやってない世界なんだから。

 

 うん、感覚がおかしいわな。


「立会人はそいつでいいか?」

「あー何か修羅場ですか?」

「ここは修羅場にはならない。場所は変える。

 つーわけで、シーザちゃん、ちょっと行くぞ」


 そして、ドゥラさんはひょいとアインとシーザリオさんを掴んで運ぶ。

 ……あまりにもパワフルというか、多分そういう種族なんだろう。

 ルーラさんの妹……いや、妹でいいのか?

 

 よそはよそ、はい。



 ……


 …………


 ……………………

 



 で、今に至る。

 あそこから北に結構走ったところにある採掘場らしき場所。

 こっちは朝飯前(空腹)だよ、さっさと終わらせたい。


「食うかい?」

「何の肉?」

「鳥肉の燻製、儂の酒のつまみだが、お前さんが腹減ってそうだったんでな」

「恩に着る」

「なら、示せ」

「了解」


 旨い。

 本当に酒のつまみだわ、これ。

 それなりに若いとは思ったが、酒の呑める年齢か。

 いや、この世界で酒が呑める年齢とか知らんがな。

 

「……これ、弾丸はどこから装填するんだ?」

「そんな前時代的なもんは必要ない。

 自分の魔力を込めて、ぶっぱなすんじゃよ」

「あー……アタシ。そういうの苦手だから、白兵戦で行く」

「あの馬鹿は相当じゃぞ?」

「目の当たりにしているから知ってる」

 

 常人離れした怪力の持ち主。

 頭悪いように見えるが、この手の輩は勘が鋭かったりする。

 まあ、適当に……とは行かない奴だ。


 



「さぁて、やろうか……!」




 やるからには真面目にやろう。

 

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