第9話 Twelfth Night, or What You Will


「それでアインちゃんとあのよう分からん奴……クリスちゃんだっけかはこことは別の世界から来たってか!」

「そうっすね、私は元の世界では普通の学生で交通事故で死にかけました。

 その後、クリスさんの世界で戦闘機として転生し、宇宙大帝軍との激戦を繰り広げました」

「はっはっは! そりゃあ奇想天外で刺激的な日々だ! 

 うんうん、あたい様もそういう破天荒な人生を一度は送ってみたかった!」

「いやぁ、流石二回も転生して今度はこういう世界に来るとは思わねぇっすよ」

「確かに!」


 アインちゃんの話は冗談のように聞こえた。

 あたい様からしたら、こことは違う世界があってこの空の向こうの月や星の先に生物がいる。

 それだけで頭の半分くらいの容量が埋まったわ。

 ルーラちゃんなら冒頭少し聞いて、鼻で笑うだろう。

 

 あたい様は基本突っ走って、敵を蹴散らすことしか出来ないからな。

 頭を使う作業はルーラちゃんに任せっきりだったからな。


 ま、要するに、だ。

 こことは別の世界があって、その世界には魔力もなければ魔物もいないらしい。

 しかし、人と人が争いがある。それはどこでも変わらないんだね。


「で、ドゥラさんの銃どういう仕組みなんすか?」

「おっ、こいつかい?

 これは魔力の弾を込めて、自分の魔力を使って、ぶっぱなす!

 以上!」

「なるほど、銃の基本的なところは変わんないっすね」

  

 いや、あたい様そういうことは知らんけどな!

 あたい様はただ銃をぶっぱなす感覚が好きなだけであってね。

 銃の仕組みとかそういう小難しい話は無しだ!


「あたい様の魔力属性が『炎』だから銃と相性がいい」

「魔力属性……? それって誰にでもあるんすか?」

「多分ある! 原理はよくわかんないけども!」

「それよりも私、いつまでこの状態で連行されるんすか?」

「いやぁ、ルーラちゃんくらいの重さだし運ぶのは楽だけど?」

「あの二刀の人が私と同じくらい軽いってことっすか?」

「んー……どっこいどっこいだわ、よし着いた!」


 というわけで着いたのがあたい様の行きつけの店。

 困ったらとりあえず、ここで装備を整えればいい.


「うお、なんすか! ここ!

 すげーや! どれもこれもえげつねぇ完成度で武器のテーマパークみてぇだ!」

「だろぅ? というか見ただけでそういうの分かるのかい?」

「ええ、すごい武器ってのは見た目で9割は分かるっすからね」

「残り1割は?」

「実際に対峙してみないとわからねぇっすよ。

 いやでも、ここにある奴はどれも別格っすよ、なんすか、ここ!」

 

 やはり食いついてきた。

 目を輝かせて、ここにある武器を見ている。

 デカイ、硬い、強い、ここの武器はその三拍子揃ってるから、あたい様は贔屓にしている。

 最高にロマン溢れるものばかりなので、世間一般的にはまあまず使われない。

 とりあえず、ここの工房主を紹介しておくか。


「おーいシーザちゃんいるか? いるよなぁ!!

 聞こえたら、返事くらい返せ!! この引きこもり!!

 いなかったら適当に見繕って帰るぞ! 金は来月にでも払う!!」

「儂の工房でうるせーぞ、馬鹿野郎!」


 いつものように奥の方からぬるりと出てきた。

 まあ、あたい様にとってはいつものことだが、アインちゃんは……。

 うん、あまり動揺してないな、図太い神経の持ち主なのか? まあいいか。


「はっはっは! シーザちゃん、武器作りもいいが偶には外に出た方がいいぞ!」

「うるせー、儂はインドア派なんだよ! ちゃちゃっと素材を持ってこい」

「あー、ドゥラさん、誰ですか、この凄腕風の職人さんっぽい人?」

「あぁ? 凄腕風ではなく凄腕、職人っぽいじゃなくて職人じゃよ、小僧」

「では、訂正させていただきますね、ドゥラさん、この凄腕美人職人は誰ですか?」

「美人は余計じゃ!!」

「あらら。それは失礼したっす」


 確かに美人ではないな。

 かと言って、可愛い系でもない。

 いや、決して不細工ってわけでは決してない。

 あたい様の美的センスをアテにするな。


「儂は『シーザリオ』。この国よりさらに東国から来た武器職人じゃよ。

 で、ドゥラや、また銃が壊れたから来たってわけでもないじゃろ?」

「活きのいい新人が来たから武器を貰……買いに来た。

 というわけで、銃くれ。代金はこいつの出世払いで」

「私が出世するかわからねぇっすよ。ただ、ここの武器の出来は中々のえげつねぇ完成度っすね」

「当たり前だ、儂が一つ一つ精魂込めて作った、全部オンリーワンなシロモノだ」

「それくらい一見すれば分かるっすよ。手に取って触ってもいいですか?」


 やはりな。

 手に取らなかったのは許可を取りたかったからか。

 なんて律儀な奴なんだ……変なところが真面目なんだ。


「ダメだ」

「なんでですか?」

「小僧、今までに何人の人間を殺した?」

「10人から先は覚えてねぇっすよ」


 ああ、そうか。

 こいつから感じるどことなく人外感はそれか。

 あたい様の使う銃と同じ匂いがしている。

 シーザちゃん、割と頑固者だからな、自分のルールは決して曲げない。


 シーザちゃんは武器を売る奴は自分で見定める。

 質問はするが、特に意味はない。

 観るのは答えじゃない。その姿勢等とか、だ。

 まあ、要は全部シーザちゃんのさじ加減次第だ。


「……私が代わりに引き金を引かないと壊れてしまいそうな人が近くにいたんでね」

「ほう、若いのに随分と肝が据わっている……いや、覚悟が決まっているようじゃな」

「覚悟できてなきゃ、こっちが死にますからね。それに戦場に出れば若いも老いも関係ねぇっすよ」


 アインちゃんの雰囲気が変わった。

 戦場に立てば雰囲気が変わる奴もいるが、そういうタイプか。

 軽いように見えて、考えてるところは考えるんだな、感心感心。


「……で、儂の武器で何しようってんだ?」

「? いや、私は重火器が好きであって、実際使うとなると話は別ですよ。

 武器はもっと装備しやすい、普通に手ごろな奴がいいっすね」 

「確かにその通りだ!

 シーザちゃんの作った武器を愛用するやつなんて、あたい様みたいな変わり者しかいないわな!」

「「はっはっはっは!」」

「……主ら、一体何しに来たんじゃ!!!」


 とりあえず、笑ってはみたが怒ってるだろうな……。

 やってること、ただの冷やかしだもの……。


「まあ、とりあえずクリスさん用に武器は何か一つくらい欲しいっすね」

「ほう、そいつはどんな奴だ?」

「一言で言えば、世界をぶち壊したアホですね」


 そいつは最上級の褒め言葉だな。

 わけがわからない奴だと思ったが、そういう方面だったか。

 やっべぇ、少しテンション上がってきた。

 ちょっと戦ってみてぇわ……。

 でも、ルーラちゃんやスズカちゃんには止められるんだろうな。

 二人とも規律に厳しいんだもの……お前らはあたい様の母様かって! くらいには。

 

「……それはどこらへんまで壊せる?」

「まあ、一般的な常識くらいは壊しましたね。

 あの人、セオリーを知っているうえで、あえて非常識なことしてセオリーを覆すくらいっすね」

「ああ、なるほどね、あたい様と同じタイプって感じか」

「お主はまず常識を知らんじゃろ」


 いや、あたい様にもちゃんと常識はあるよ。

 一日三食食べて、寝る前には歯を磨いて、朝は元気に挨拶する。

 ほれ、みてみい。超常識人じゃん、あたい様。


 そんな時だったか。


「おら、クソ職人、鈍ら刃物なんざ、客に売ってんじゃねえ!」

「果物全然斬れずに簡単に壊れちまったぞ!」

「果物斬れねぇから友達の見舞いにも行けねぇよ!」

「クーリングオフの時間だ!!」


 チンピラが4人ほど現れた。

 いや、あたい様がチンピラと言ったのだからチンピラなのだろう。


「あー、アンタらは昨日の……」

「なんじゃ、知り合いか?」

「ええ、まあ、その……彼らの名前は知りませんが、路地裏で私は彼らに木材とかでボッコボコに殴られました。

 いや、文字通りの意味で痛くも痒くもなかったですけどね……」

「ほう……」

 

 身体が硬いんだろうな。

 さて、あたい様も後輩と馴染みに因縁付けられてるんだから。

 少しは動くか。

 でも、手加減するよ。

 というか、手を抜くよ、力の加減出来っかな……。


「おい……あの女って……」

「女にしてはバカデカイ身体にクソデカスナイパーライフル……」

「「ゲェーッ!? 壊し屋ドゥラ!?」」


 なんだか物騒な二つ名が付いたもんだな、とあたい様は思う。

 確かにあたい様は色々とぶっ壊したりしたけども、多少は仕方ない。

 簡単に壊れる方が悪い。まあ、とりあえず、だ…………。


「おう、あたい様の名前が知られてるようでなによりだ。

 で、ここがあたい様の御用達のシーザちゃんの店って知ってそのご無体か?」

「つか、主ら儂の作った果物用ナイフで人を傷つけようとしたってわけじゃな?」

「へっ、金払ったんだから何に使おうと俺らの勝手だろうが!」

「そうだそうだ!」


 逆切れしてきた。

 今のは流石にあたい様でもイラッと来た。

 少し黙らせようかな?

 相手は常識を弁えていないただのチンピラだし、やっちまおうか。

 そう、思ったらすでに2人ほど店の外に吹っ飛んでいた。

 


「あー、物にはそれに見合った用途ってものがあってですね。

 ちゃんと守らないと痛い目を見るっすよ」



 アインちゃん、やるじゃない。

 口よりも先に手を出したな。

 かなり早いな。


「……次は気絶だけじゃすまないと思ってくださいね」


 あ、完全に殺す気でいるわ。

 殺気はないが、その眼を見ればわかる。

 なるほど『目は口ほどにものを言う』ってのはこういうことか。


「お、おい、ずらかるぞ!」

「あ、ああ……覚えてやがれ!」


 チンピラ共、普通に帰っていった。

 いや、覚えておけと言うならば名を名乗ってから帰れ。

 そんなことよりも、シーザちゃんが見当たらんな……。


「おうおう、待たせたな!

 シーザリオさんの試作第三号器!

 名付けて突撃槍型超長距離砲『APファネイアー』!!!

 その火力をその身をもって味わいやがれ!!!

 …………って、もう終わった? 終わったのか!?」


 奥から現れたが、時すでに遅しだよ。

 槍なんだか銃なんだかわかんねぇ武器作りやがって!

 やっぱ、シーザちゃん馬鹿だろ!!

 いや、大馬鹿だよ!!

 いいぞ、もっとやれ!


「終わったっすよ、ってか、なんすか、そんな隠し玉持ってたんすか!!?」

「ああ、試し打ちにちょうどいいかなって思って……見てくかい?」

「はい! うお、これはまた一段と変態チックな……!」

「クハハハ、褒めよ、崇めよ、儂の傑作の一つを!」

「これ欲しいっすね、クリスさんに丁度いい武器っすね」


 いや、あたい様が言うのもなんだが、これ超扱い辛そうな武器だよ。

 こんなん使える奴は変態を通り越して、ド変態だよ。

 ギリギリ持ち運べる重さ、実践ならまず初動で遅れる。

 初動で遅れてもギリギリで間に合うのはルーラちゃんしかいない。

 でも、ルーラちゃんは銃も槍も使いこなせないからね、仕方ないね。

  

「…………そいつをここに連れてこい!」

「いやぁ、クリスさん来るかなぁ……

 多分、来るとは思うっすけども、私と価値観が大分違うっすからね。

 まあ、明日にでもここに来るように声かけてみますわ」

「儂が『連れて来い』、と言った、二度も言わすな」


 ……こうなったシーザちゃんは面倒だ。

 あたい様が七日ほど約束をすっぽかした時にぶちぎれて危うく殺し合いに発展しそうになった。

 あの時はルーラちゃんがいたから、なんとかなったものの、今思えばヤバかったな。


「了解っす、でも、来るとは限らないっすよ?」


 よし、ここはあたい様も手を貸すか。

 大変なことになる前に一肌脱いどきますか。



 ……



 …………



 ……………………

 


 初日の研修の翌日。

 つまり、研修二日目だ。

 いや、研修二日目の予定だったというべきか。


 アタシは昨日はあの後、マスターとクソ眼鏡に報告して、飯食って、家帰って寝た。

 そして、今日また朝五時に起きて、またランニングしてる最中に……。


「よっ、昨日の朝以来だな!」

「どうも、昨日はうちの馬鹿が世話になったみたいで……」

「はっはっは! あたい様は面倒見が抜群にいいからな!」

 

 昨日のバカデカスナイパーライフルの女が現れた。

 こんな朝早くから、大変後輩思いな良い先輩だこと。

 ただ……アインを片手で持ち運んでいることを除けばな。


「色々とツッコミたいところはあるが、どういう状況ですか?」

「お前がいなかったから、こいつに色々と聞こうとしたけど、中々起きなかったから連れてきた」


 朝六時だもんな。

 低血圧には地味にきつい時間帯だ。


「ってことはアタシになんか用ですか……で、要件はなんですか?」

「お前とシーザちゃんが殺し合いをおっぱじめる前に止めに来た。

 こいつは人質で、今からあたい様についてこい、以上だ」

 

 今の一言で分かった。

 この人、確かにルーラさんの言うとおりに超大雑把だ。

 説明を端折りに端折っているから、重要なことが何も伝わってこない。


 シーザちゃん……昨日、アインが言ってた武器職人か。

 無茶苦茶な武器を作ってるらしいが、アタシは当たれば何でもいいからな。

 アタシは武器は正直なんだっていい、銃だろうと剣だろうが使えればいい。

 だが、無茶苦茶な武器作ってる奴と殺し合いなんざ、普通はしたくないわな。


「オーケーオーケー、完全に理解したわ」

「理解が早くてあたい様も嬉しい、それじゃあ着いてこい」


 背中にスナイパーライフルを背負い、片手でアインを掴んでる女を追いかける。

 うむ、朝に誰かと一緒に走るのも随分と久しい気がするな。

 


 最初に走り始めたのはあの子だったか。

 次第にアタシが付き合い始めて、どんどん人数が増えていった。

 だが、ある日を境に一人、また一人と減っていった。

 

 最後の二人。

 あの子とアタシだけが残った。


 いつの日か走ってるのはアタシだけになってた。

 それでも走っていた。


 まあ、そんなわけで『スタミナお化け』だとか呼ばれていたようだ。

 放っておけ、それがアタシの走る道だ。

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