第7話 ゴーイングマイウェイ! だが、お前らはどこへ向かうのか?
前回のあらすじ。
異世界にもあるチャーハン偉い。
「ごちそうさま、ビスタ、帰る」
「毎度! って仕事せずに帰るのかよ!」
「仕事、昨日やった、報酬、20倍になった!」
寿司を食い終えたビスタさんはマジで帰った。
いや、寿司が出てきたときはかなり驚いたが……
「マスターは料理スキルはそこらへんの料理人の比ではないので……」
「ハハッ! 褒めてもなにも出ないぞ!」
料理スキル云々ではなく、知識量の問題だろ、これ。
修羅場を潜り抜けていたどころか、このマスターのそもそもの戦場が違うのでは?
まあ、色々あったんだろう……誰にだって秘密の一つや二つはあるんだからな。
それに世界から秘密がなくなってしまったら、悲しみの方が増えると思うからね、アタシは。
「あの城は今はただの観光名所ですね」
「ただの観光名所ね……了解した」
今は、か。
まあ色々とあったんだろうね。
城とは権力の象徴だが、壊さない辺り暴君ではなかったようだ。
「うぃーす、おはようさんっす。
いやぁ、起きたらベットからリビングにワープしてて驚いたっすよ。
あったかいとこよりも冷たい床の方が落ち着くのはそういう習慣っすかね。
で、目が完全に覚めたら皆いないからさらに驚いたっすよ。
あれっすか『アインは置いてきた、修行はしたが危険の方が大きそうだ』って奴っすか?
いや、それよりも私まだなんも修行もなんもしてねぇっすよ」
「おはよう、朝からよく回る口だこと」
「…………まったくだ」
「とりあえず、駆けつけ一杯、マスター水くださいっす」
「おう! 2億Gな!」
「バカたけーっすよ!」
「ははっ、ジョークだぜ!」
……マスターのノリがいい。
ノリがいいので、樽で水を持ってきた。
人生を超楽しんでるのが、良くわかる。
――――ああ、この人はものすごく頑張ったんだろうな。
全てが分かるわけはない。
好きなことを楽しみ、好きなことして笑う。
ここまで来るのに一体どれほど対価を払ったのだろうか?
まあ、とりあえず……
「ご飯おかわり」
「まだ食うのかよ!」
「代謝はいい方だから、動けばプラマイゼロ」
「まあいいぜ、いい食いっぷりの奴は見てて気分がいいからな!」
「…………なら、俺もチャーハンのおかわりを貰おうか?」
「カナロさん、顔に似合わず負けず嫌いっすね」
「…………俺は食べたいから食う、クリスさんは関係ない」
なるほど、わかった。
カナロさん、チャーハンが好物なのか。
今日はそれがわかっただけで十分だ。
表情まったく変わらん、ポーカーフェイスにもほどがある。
「あのう! 今日は何をするんですか!」
「一先ず、皆さんには冒険者としての新人研修を受けてもらいますね」
「…………それで指導するのはアンタか? マスターか? 今はいないあの男か?」
そういえば、あのおっさんたちがいない。
クエスト? そんなのに行った感じなんだろうか?
しかし、新人研修か……前は士官学校からいきなりほぼ実戦だったからな。
そういう、のんびりしたのを経験したことがないからな、アタシらは。
ゆったり。
のんびり。
……こういう朝は、この後が忙しい。
人生そんなもんだよ。
「っし! あたい様の勝ちっ!!」
「また負けたー!」
勢いよく店の中に入ってきた女二人組。
競争でもしていたのか、先に入ってきた方は右手で大きくガッツポーズ。
負けた方は相当悔しがっていた。
…………何か賭けでもしていたのだろう。
「まーた何か賭けてたのか?」
「負けたら今週の掃除当番ね」
地味。
ひたすらに地味だ。
「そっちのデカいのがドゥラで、遅れてきたのルーラ」
「デカい言うなっ!」
「遅れたのはすまないと思っているが、それ以外の紹介の仕方はないの!?」
「いや、毎回スタートで出遅れるのは事実じゃん?」
デカい方はアタシよりもデカイ。
いや、アタシは成人女性の平均身長よりも高いくらいだ。
そして、眼を引くのは背中に背負ったスナイパーライフルだ。
……スナイパーライフル……あ、銃ありなんだ、この世界。
もう片方は普通。
普通に美人で普通に気品がある。
うん、アタシの語彙力のなさに絶望しそうだ。
まあ派手な奴が隣にいると相対的に地味になるって奴だよ。
「はっはっ! また地味だと思われてるなっ、優等生!」
「……地味で結構、下手に目立つよりも利口な生き方だと思うよ」
「利口な奴は普通こんなとこいねぇよ」
「マスターがそれ言うの!?」
「事実だかんな~~」
ゲラゲラと笑いながらもマスターは2人を紹介した。
先輩に当たるので、敬意は払うべきであろう。
…………上下関係は大事だからな、そういうところはしっかりしておきたい。
だが、あの不思議ちゃんは別だよ、あれはそういう関係でいないほうがいい。
「ところでカッコイイ銃のお姉さん!」
「おっ、あたい様か? どうした新入りの坊主?」
「その銃! どこで買ったんですか!?」
「おお、坊主は銃に興味あるのかい!?
いやあ、ここの奴らこの重厚感の良さとトリガー引く時の解放感が分からん奴が多くてなっ!」
「わかるっす、銃は剣よりも強いっすからね!」
アイン、そういや重火器好きだったな。
前に装備は火力が出る方がいいとか言ってたしな。
急所に当たれば変わらんだろうよ、大きいのも、小さいのも。
「そっちの坊主は昨日、カイトのおっさんと引き分けたぞ」
「え、マジ? あのおっさんと? すごっ!」
「いや、まあ、途中で乱入がなければ負けてたっすよ」
「それでもあのおっさんはここでも強い方だしな。
んじゃあ、スズカ、この坊主の新人研修はあたい様が直々にやってやるよっ!」
「へ………?」
片手でひょいとアインの首根っこを掴んで運んで行った。
アインを軽々と持ち上げた時点でまあ只者じゃないことは分かった。
まるで連行されるように運ばれていく……あばよ、アイン。
「んじゃ、そこのムッツリとロリと……うん、よくわかんない奴はルーラちゃんに任せた!」
「ちょっ…! 私が三人も見るの!?」
「大丈夫、あんたはあたい様よりも教えるのは上手いから! うん、適材適所!」
……アタシを『よく分からない奴』呼びするのがお決まりなのだろうか?
きっとこの世界でのアタシは『異物』なのだろう。
まあ、そういう扱いならそれでも構わないがな。
「えっと、お願いします!」
「……ええい! もう! 一丁やったりますか!」
ものすごく真面目な人なんだろうな。
こういう面倒事もなあなあで引き受けてしまう辺り真面目なんだろうか。
「まあ、うちのギルドでもかなり大雑把で無茶苦茶なドゥラと組めるのはルーラくらいだもんな。
いや、問題児は大勢いるけども、その全員と上手くやれるのはルーラしかいねぇわ」
「ええ、ルーラさんには面倒事を押し付けとけば大抵なんとなりますからね」
おい、今さらっと酷いこと言ったぞ。
こいつ、やっぱりクソ眼鏡だったわ。顔がいいのに性格が悪い。
「…………よろしく頼む」
「うわ! 貴方、目つきと言うか雰囲気怖っ!」
「……………………そうですか」
カナロさんに向かって放たれた火の玉ストレート。
多分当人も気にしているんだろう。
心無しか少しばかり落ち込んでいるようにも見えたが気のせいであろう。
アタシだったらノータイムでぶん殴ってたかもしれない。
だが、ここは出来る限り穏便に済ませたいね。
しかし、新人研修か、一体何をするんだろうか。
と、少しばかり期待しているアタシがいるわけで。
今の心境は結構複雑だったりする。
「私たちの新人研修は採取クエスト!」
ああ、これはまたベタなことをするんだな!
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