第2章 JUST A WAY

第6話 二日目に突入したが、この世界のことが全然わからん!

 

 前々回のあらすじ

 アタシの肉体、頑張った、超頑張った。



 朝らしい。

 アタシの体内時計が間違ってなければ朝五時。

 悲しいかな、軍人気質が染みついてしまってこんな時間に目が覚めた。

 朝四時じゃない分、一時間は長く寝れたから良しとする。


 二人はまだ寝てる。

 なんで同じ部屋で寝てるんですかねぇ……?

 まあいいか、とりあえず、何かしてないと落ち着かないな。

 

 …………走るか。


 静かに極力音を立てないように起き上がる。

 あ、着替えをどうしようか……。

 合うサイズのジャージとかがあったら良かった。

 衣食住で衣が一番最初に来る理由がなんとなく分かった、衣大事だわ。


 太陽はどこ世界でも朝照らす。

 朝の陽射しはどこでも変わらず眩しい。

 

 軽く身体をほぐして、ゆっくりと身体を目覚めさせる。

 調子は悪くはない、異世界にいること以外は案外普通だ。


 最初は歩くよりも少し早いペース。

 徐々にペースを上げていき、ジョギングに近いペースになった。


「そこの韋駄天の娘、そんなに急いでどこへ向かう?」

「行き先など決まってない、風の向くまま」

「……少し忠告がある」

「何?」


 声を掛けられて、足を止める。

 振り向くと占い師のような恰好の老人。

 ……正直、胡散臭さが半端ない。


「お主から良からぬ相が出ている」

「へぇ、具体的には?」

「分からぬ、だが、良からぬことが起こるかもしれぬ」

「……生きてる限り、良いことばかりじゃない、そういう日もある。

 特にアタシは昨日が人生最大のツイてない日だったから、大抵のことは大丈夫」

「ほう、何があった」

「死んだ」

「そうかそうか…………は?」

「それじゃあ」


 ポカンとしている占い師の格好の老人。

 そりゃそうよ、死ぬより最悪なバットイベントは普通ない。

 それと反応からして、詐欺か何かだったんだろう。

 そう、簡単に引っかかるかよ。


 

 ……



 …………



 ……………………

 


 家に帰って水浴びをした。

 シャワーがあればよかったが、そんなものはない。

 水だけだったが、昔はシャワーも浴びれない日とか普通にあったしな。


 濡れた髪の水分をふき取る。

 シャンプーがないからそのうち髪質が変わるだろう。


「ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう? なんだ、いきなり?」

「あれ? 都会では朝起きて、こういう挨拶をするんじゃないんですか……?」


 オルフェちゃん、どこの貴族のお嬢様だよ。

 上品さはあるが、こういう場には合わない。

 堅苦しい挨拶はここでは抜きにしたい。


「普通におはようでいいんじゃない?」

「じゃ、じゃあ、おはようございます!」

「うん、おはよう……ところでその挨拶誰から教わった?」

「えっと、私の師匠です、知らないことがほぼないって言ってたから……」


 ……察するにその師匠とやら性格が悪い可能性が高い。

 会ってもないが、アタシの勘は当たる。カオス理論すら凌駕する。


 今、朝七時くらいか。

 朝飯の時間には丁度いい。

 ……朝ご飯は昨日のマスターのところに行くのであろうか。

 美味い飯は一日の活力になる。


「……随分と早起きだな」

「おはよう、生活習慣上早起きになった」

「…………朝は米派か? パン派か?」

「腹に入ればなんでもいい、美味いならさらにいい」

「…………そうか」


 音もなくすっと現れた。

 もう慣れた、一日もあれば大体慣れるもんだわ。

 さて、異世界だが、米と麦があるのは良い。

 そういや、昨日カナロさんチャーハン食ってたし、チャーハンあるんだな。

 偉いよ。チャーハン美味いから偉い。異世界だけどちゃんとあるチャーハン超偉い。


 ついでにカナロさんはアインを連れてきた。

 首根っこを軽く掴んで……だが、ぐっすり寝ている。

 ……てめぇ、大物気取りか?


「…………朝だぞ、起きろ」

「むにゃむにゃ、あと三年……」

「おまえは三年寝太郎か? 寝過ぎだ……と、言うわけで起こし方を聞きに来た」

「知らん」

「…………どうすればいい?」

「そこらへんに放置しておくのが一番」

「…………そうか」

「えー……」


 ポイっと無造作に投げ飛ばした。

 だが、アインは一向に起きる気配がない。

 どうせ起きても水しか飲まないだろう。

 栄養が偏るというかゼロカロリーだぞ、水は。


 そんなことよりも今は腹が空いた。


「起きた、ご飯、行く」


 ビスタさん、当然のように挨拶はしない。

 ので、挨拶を当然返さない。


「で、今日は何をするんですか?」

「? ビスタ、気が向いたら、働く。今日、やる気ない。ご飯食べたら、帰って、寝る」

「……………そうか」

「なるほどね」

「カナロ、クリスさん、なんでそんなにあっさり納得出来てるんですか!?」

「…………お前は純粋すぎる」


 全てを分かったわけではない。

 一日で分かることなどたかが知れてる。

 だが、こいつはそういう奴なんだろう。


 

 ……



 …………



 ……………………



「らっしゃい!」

「マスター、いつもの、朝ご飯」

「おう、そっちの三人は?」

「えっと、じゃあ、おにぎり定食」

「…………肉チャーハン」

「焼き魚定食、ご飯とみそ汁大盛で」

「毎度! ……昨日はよく寝れたか?」

「はい!」

 

 朝から店をやってる。

 きっと好きなんだろう、こういうことが。


「……隣よろしいですか?」

「スズカ、今日、仕事?」

「私は週6で仕事ですが、何か?」


 随分とおしゃれな朝食だこと。

 トーストに目玉焼きにサラダにヨーグルトってどこのオフィスレディ気取りだ。

 まあいいか、丁度いい。 


「そういえば、あの城には誰が住んでんの? 王様?」


 朝のランニングで気になったことを聞いてみる。

 一番に気になったのはこの街の中央にあるバカでかい城。

 この街で一際、存在感が違う。


「あら? そんなことも知らないのですか?」

「一般教育も行き届いていないド田舎から来たからね」

「あの無駄に高い身体能力は?」


 無駄で悪かったな。

 こちとら士官学校と戦場の最前線で鍛えられてんだよ。

 ……まあ、戦場で戦ってたなんて言ってたら何言われるか分からんからな。

 

「野山を駆け回って、農地を開拓してれば無駄に体力は付くよ」

「な、なるほど……」

「把握した、野山、ダッシュ、農地開拓、ビスタ、無理」

「………………」


 すまん、罪もない純粋な娘とアホを騙してしまったかもしれない。

 カナロさんは……どうやら信じていないようだ。

 だろうね、この人は昨日アインと話してたし知っているんだろう。

 アイツは口が緩くなったからな、前は話し相手がアタシしかいなかったからな。

 喋ったんだろうな、けど、こんなバカな話を信じるのは狂人しかいねぇよ。


 大体死人が別世界に生き返るファンタジーは現地人には通じないもんだ。


「へい! おにぎり定食と肉チャーハン、焼き魚定食ご飯みそ汁大盛、お待ち!」 


 ……旨そうな飯が来た。

 やはり、マスターの料理の手腕はすごい。

 これだけで生き返った価値が少しはあるってもんだよ。



「で、いつものだ」

「これ、好き、マスター、好き」



     !?

 

 『!?』を単体で使うほど驚いている。

 だって、出てきた、その料理は。

 超デカイ飯台に入った。


   寿司だったのだから。


 あれ、本当に……異世界だっけか……?

 というか、朝から寿司……?

 ここ、なんでもありすぎだろ。


『まあ、基本自由なとこだし、好きなようにやればいいじゃないかな?』


 もうこれ、基本どころじゃねぇよ。

 クソダサイファッションセンスの神様。

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