第3話 ところで謎肉ってなんの肉?


 前回のあらすじ

 なんか元魔王みたいな奴と出会った。



 初めての異世界の飯が旨い。

 食ったことのない肉だったが、触感としては鶏肉に似ている。

 出来れば鶏肉であってほしいが、胃袋に入ってしまえば関係ない。

 ちゃんと消化できて栄養になれば虫だろうが食えるしな。


「悪いね、助けてもらった上に飯まで奢ってもらって」

「いえいえ、困った時はお互い様ですって」

「んじゃあ、水おかわり」

「あのう、アインさん、さっきから水だけでいいんですか?」

「私は水さえあればエネルギーは生み出せますのでお気になさらずに」

「はぁ……」


 超エコロジーだ。これから食費ほぼ0で済むな。

 いや、そんなことよりも……。

 

「…………」


 眼光が鋭い。

 めちゃくちゃ観察されてる。

 話をこっちから振るべきだな。


「それで、オルフェちゃんとカナロさんはこの街でギルド活動のために来たわけだ」

「はい!」


 この金髪ロリの名は『オルフェ』ちゃん。

 見た目はロリだが、意外にもしっかり者だ。

 うーん、合法ロリだ。

 礼儀正しい上に素直でお人好し……うーむ、絶対過去になんかあったタイプだ!


 で、序盤にエンカウントしたこのラスボス。

 もとい、『カナロ』さん。いや、カナロくん?

 アタシよりも年下だとは思うが、その雰囲気がマジで……やばい。

 こういってしまえば元も子もないが……怖い。

 普通にしててもなぜそこまでオーラを出しっぱなしに出来るのだろうか?

 静かになんかの肉が入ってるチャーハンを喰らっているが、怖い。 


「カナロさん、ちょっと怖すぎっすよ」

「そうか? ……確かにそうかもしれんな」


 アインは馴れ馴れしい。

 久々の人間ボディだからテンションが上がっているのだろう。

 自分の関節が動くだけでテンションが上がる奴だからな。


「で、お二人は……恋人さんですか?」

「ありえないっすね」


 オルフェちゃんのあまりにも純粋すぎる質問に吹き出しそうになった。

 だが、それよりもあまりの即答にアインの目をナイフで潰してやろうとも思ったが、行儀が悪いだろう。

 

「じゃ、じゃあ、なんであんなところに?」

「……働ける場所を探している。出来れば住める家も。

 ここから遠くの場所からこの身一つとコイツで来たのでな、まずは生活拠点がほしい」

「就職活動の一環っす」

「……あんな就活もあるのか」


 ないです。

 あんなん、異常に回りくどい乞食行為だよ。

 そう言おうとしたが、就活ということにしておこう。


「……アタシらのいた国では『働かざる者食うべからず』という諺がある、この飯代はいつか必ず返す」

「いえいえ、そんな……」

「断るな。アタシの気が済まない」


 しかし、料理が美味い。

 にも関わらず、この店にあまり客入りが少ない。

 穴場スポットという奴なのか?


「……マスター、肉チャーハンおかわりだ」

「おう、兄ちゃんいい食いっぷりだ、そこの嬢ちゃんは謎肉の丸焼きおかわりか?」

「謎肉? これのこと? へぇ、そうなんだ……で、これ何の肉?」

「それは企業秘密だぜ~~」


 ああ、肉じゃないのかもしれないのか……。

 すごい調理技術だ。


「あのう、マスターさん、私たちここで待ち合わせをしてるのですか? 時間になっても……」

「おう、そのことか……いい食いっぷりの客がいて少し遅れそうだわ」


 お、このパターンか。

 確かにこの店主の醸し出すオーラは士気を上げるような上官みたいだ。

 おっさん? いや、この人どうせ年上だろうけどもなんと表現したらいいかわからんわ。


「マスターさん、あなたは一体……?」

「オレかい? オレはギルド・SS会のギルドマスターだ、で、今はこの店の店主(マスター)だ」


 ああ、やっぱりかー……。

 だろうなとはうすうす感じていた。

 周りの客がギルドメンバーと言った感じだろうか?

 何人か、その筋のオーラが漏れている。

 空腹で頭が回らなかったが今は随分回るようになった。


「聞いてた話では来るのは二人だったんだが?」

「えっと、師匠の紹介状で来たのは私とカナロで、こちらのクリスさんとアインさんは就職活動で……」

「そうかそうか! 『ウチは来るもの拒まず!』でオールオッケーだぜ!」

「そうっすか! じゃあマスター、水おかわり、リッターで!」

「…………お前、そのうちお腹壊すぞ?」


 話が早い。

 これは上手く行く。

 きっととんとん拍子で上手くいきそうだ。


「そうはいきませんよ、マスター」


 うわぁ……これは面倒そうな人か出てきた。

 メガネが良く似合う秘書的な雰囲気のバーテンダーの格好した人が出てきた。

 右手の人差し指でメガネをくいっと上げて、凛とした表情でアタシら二人を観察するように見る。


「え~~いいじゃん、今更二人くらい増えても、スズカちゃんだって楽しい方がいいだろ?」

「人数が増えるのは別にいいとして……その二人はここで命を懸ける覚悟はあるかしら?

 ……あとマスター、今の時間はスズカちゃん呼びはやめてください、セクハラですよ」

「名前呼ぶだけで!?」


 命を懸ける覚悟か……。

 戦場でそれが当たり前だったけども、ここで何をするのかわからんけどやっぱり命懸けなのか……。

 

「まあ、その辺りは私はクリスさんと一蓮托生っすから、判断は全部任せるっす」

「…………」


 露骨にぶん投げてきたな。

 一度死んだからな、アタシの命の価値など今はここではそこらへんの犬よりも軽い。

 

「……アタシらは一日を生き抜くだけで毎度毎度命を懸けてる。

 それに今は返さなきゃいけない恩が出来た以上、やるしかない。

 そして、なによりマスターの作る飯が旨いのが最大加点ポイントだ!!」

「スズカちゃん、雇うぞ、この二人!!」

「……紹介状がない以上テストくらいは受けてもらいますよ」

「あー筆記テストならパスで」

「同上っす」

「筆記テストはしない……そういうのは嫌いだから」


 あ、この人、嘘が付けない脳筋委員長タイプだ。

 真面目すぎるが故に融通が利かないようだ。

 

「で、そのテストするのは貴女?」

「それは……」

「その男の方をテストするなら俺がやろうか?」


 声の方を向くと大柄な男がいた。

 

「坊主、『漢』ってのは女に自分の意志を丸投げしないんだぜ?」

「「「でた! カイトさんの『漢語録』!!!」」」」


 随分と慕われてるおっさんだ。周りに何人か取り巻きがいる。

 豪放磊落を地で行ってるような屈強なおっさんだ。

 確実にわかるのはアタシとアインに性格的に合わないだろうこういうノリは。


「坊主、『漢』とはなにか! 言ってみろ!!」

「うーん、【ピー】コがでかい奴のことっすかね?」


 おい、やめろ馬鹿。


「それもある! 他には!!」

「……私が思うに大切なものを守れるような強い人のことっすかね」

「坊主、お前は強いか?」

「そこそこに……それを試すんじゃないっすか?」


 台を挟んで立つ二人。

 あー……これ、アームレスリング勝負だ。


「さあ張った張った! カイトのおっさんが勝つか!

 ニューカマーの坊主が勝つか! 今のオッズはおっさんが1.5倍と坊主が2.2倍! それ以外が20倍!」


 マスターのノリがいい。

 さながら鉄火場を仕切る人だ。

 いや、いきなり酒場を賭博場の空気に変化させる辺りやり手だわ。

 しかも、結構妥当なオッズだ。


「カナロ、クリスさん、どっちが勝つと思う!?」

「…………興味ない」

「そうね、身内贔屓でアインと言いたいけど、あのおっさんは相当よく見える」


 さて、どっちに賭けようか。

 いや、賭けるものなんて今一つしか持ってないがな。

 ……持ってたとしてもそれ以外に全額ぶっぱなすがな。


「もう締め切るぞ! 他に賭ける奴はいないか!?」


 やはり、ここはおっさんのホームである。

 手堅いがおっさんの方に人気は集中している。

 アインはそこそこに入ってるが……案の定だが、『それ以外』に賭ける奴はいない。

 

「マスター、この報酬、『それ以外』に全掛け」


 一人だけいた。

 和装っぽい服装なんか台頭している黒髪の少女だ。

 さっきまでここにはいなかったが、いつ湧いてきたんだが……。


 うわぁ、なんかアタシに近づいてきた。

 美少女……そう言って差し支えない。

 あと顔が近い。

 

「初顔」

「…………」

「あなた、同じ側の人間」

「…………」

「あなた、何者?」

「…………さあね、アタシだって知りたいわ」


 ………相当な不思議ちゃんだ。

 刀、美少女、黒髪和装、不思議ちゃんときたもんだ、属性盛りすぎだ。

 で、遠慮なくアタシの隣に座っていた。

 そりゃ動揺はするよ……いや、アタシじゃなくてカナロさんが。

 結構揺らいでるのが表情ではなく出てるオーラで分かる。

 

「あの貴女は?」

「『ビスタ』、このギルドのメンバーの一人」

「ビスタさん、さっきの報酬って?」

「報酬はお金、お金、大事だから沢山増やす」

「はあ……でも、こんな増やし方は……」

「? お金、稼ぐのに綺麗も汚いもないよ?」


 顔に似合わずかなりのリアリストだ。

 いや、リアリストというよりもどこかネジが外れてそうだ。


「ビスタちゃん、帰ってきたらまずは報告をしてと何度言ったら……」

「した。したけど、スズカ、ビスタのこと、見てなかった」

「うーん、それは………マスターが大体悪い」


 うわぁ、この眼鏡、人のせいにしやがった。

 こんな美少女が近くにいたら普通は気付く、アタシでも気付く。


 いや、マスターのせいにしたというか、この眼鏡、あのマスターのことしか見てなかったな。


 ははぁん、これはアレだな。

 悪いね、こりゃアタシの早とちりだったわ。

 


「…………始まる」



 一方、会場のボルテージはかなり上がっていた。 

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