第2話 Q.異世界に来たけど何するの? A.路地裏でゴロツキ共とバトル!


 前回のあらすじ。

 アタシのいた世界の神様のファッションセンスがクソダサだった。


「異世界転生してもなんか思ってた転生先とは違うわ……」

「良かったですね、宇宙規模の戦いはなさそうな世界で」

「地獄よりかは幾分マシと考える」

「あ、地獄行きは決定事項なんすね」

「まあね」


 ベンチに2人座り込む。

 アタシらの今後の生活に必要な衣食住のうちに食べるものと住める場所がない。

 住み込みで働ける場所を探す……就活なんざしたことないけどもやるしかない。


 あの自称神様のにやけた顔が頭に浮かぶ。


「アンタ、就活したことある?」

「無いっすね、私はどこにでもいる普通の高校生でしたから……」

「そっか……」


 悩んでいても仕方ない。

 手持ちに金もなけりゃ、食べ物もない。

 生き抜くために必要なものは大体知ってる。

 士官学校で上官にしこたま鍛えられたせいで身についてしまった成果だ。


 無論、それでこの世界で無双できるか、クソの役にも立たないかは運次第だ。

 まあ、いざとなればそこらへんの草でも食ってアタシは大丈夫だがな。

 アイン? 知らん。まあ、それはさておき……

 

「こういう時は冒険者ギルド的なもの行かない?」

「あー……あるんすかね、そんなファンタジー?」

「まあ、普通の街に見えても自動車とか走ってないし……ワンチャンあれば……」

「なるほど、それはありうる」


 人通りはある。

 馬車も走っている。

 ただ自動車が走っている様子がない。

 ついでに言えば飛行機も電柱もない。

 パッと見、電気というものが通ってないようにも思える。


 本(ライトノベル)の読みすぎだろうね。

 そういう知識はまあ一般人程度にはある。さて 


「路地裏に行くぞ!」

「おお、これが有名な不良に絡まれたり、絡まれてる娘を助けたりする奴っすね!」

「好きでしょ?」

「まあ、誰かさんのせいでそういう知識は叩き込まれたからですね」


 ……真面目だった男子高校生にそういう知識を叩き込んだ奴がいるらしい。

 まあ、大体アタシなんだけどね。電子書籍って便利だったわ。

 アインの空いてる容量にアタシの趣味を詰め込んだからな……。



 ……


 …………


 ……………………



「へっへっへっ……こんなところに来るなんて命知らずですかァ~~?」


 うわぁ……マジでいたわ。

 どこにでもこういう輩はいるもんなんだね。

 数は五人か。得物はナイフだろうね。

 こういう路地裏では小回りは効くからな。さて……


「どきな、三下ども」

「そうだそうだ邪魔っす、我々が金やら貴重品やらを持ってるでも思ってるんですか?

 お馬鹿さん方なんですか? …………と、補足しておきますね」


 煽る煽る。

 一目見て分かったが、こいつらは雑魚だ。 

 そういうオーラがバンバン出てる。


 いなすのも簡単だろうが、ここは誰か来るのを待とう。

 ……そういうの憧れるじゃん。こっちは女の子(二十歳越え)だぞ!


 数十分後。


「やめてーらんぼうしないでーだれかたすけてー」


 誰も来ないから、声量を上げてみたが、来る気配がない。

 こういう台詞は一度は言ってみたかったが、やる気が出ない。

 弱すぎる……なんだ、根性がないな。


 一方、アインは反撃すらしてない。

 鉄壁すぎてノーダメージだ。いや、ナイフで刺されて、逆にナイフが刃こぼれしてる。

 そこら中に角材がバッキバキに折れたものが転がっている。。

 アインの人間ボディ、ガワだけが人間なのだろう。物理的に超硬い。

 ……こっちはスタミナ任せの避け戦法だってのにずるい。

 ノーガードでノーダメージって主人公でしか許されねぇぞ!


(クリスさん、そろそろ倒してしまってもいいですか?)


 そんな視線でアタシを見るな。

 アタシだってちょっと……いや、かなり飽きてきたんだから。

 でも、今のアタシらにはこの世界の情報がない。

 だから、優しそうな奴に助けられてこの世界のことを知る。

 

 そんな時だったか……。


「貴方たち、待ちなさい!」


 来た来た、待ってましたよ! この瞬間を!

 声のする方を向いてみる…………少女だ。

 金髪混じりの栗毛で背の低めのロリだ!

 超ファンタジーっぽい服して、身の丈に合わない杖を背負ったロリだ!!

 

 ごめん、アタシのストライクゾーンからは外れるわ、惜しい!


「5対2で! しかも素手の相手に武器を使うなんて! 人として恥ずかしくないんですか!?」


 ……非常に申し訳ない気分になった。

 超舐めプして時間を稼ぐだけ稼いで現れたロリから吐かれたド正論。

 

「ハァハァ……なんだ、テメェは……!」

「状況……わかってんのか!」

「ガキが……しゃしゃり出てくんじゃねぇ……!」


 …………すまん、ゴロツキ共。

 アタシたちがスタミナを削りすぎて全員が息切れしまくってる。

 

「如何にも三下の台詞ね!」


 ………………本当に申し訳ない。

 ヘロヘロになって頭が回らないんだろう。

 ゴロツキ共、最初の方はもっとキレた台詞回ししてた気がする。


 さて、このロリ。 

 見た目はロリだが、戦いになれば力を発揮するタイプなのであろう。そういうオーラがある。

 ……2年半以上最前線に放り出された結果、そういうのが大体分かるようになったは幸か不幸か。

 

 ともあれ、流れは悪くはない。

 他に人の来る流れではない。

 魔法ぶっぱか!? ここで魔法ぶっぱしてピンチ脱出か!?

 ちょっと魔法少女っぽい雰囲気があるし、きっとそうであってほしいなぁ……。


 そんな時だったか。

 『ソレ』は突如として現れた。


 近くにいたゴロツキの一人を蹴り飛ばして、頭から壁に突き刺さした。

 いや、蹴り飛ばしたのかどうかも分からないが、きっと蹴り飛ばしたのであろう。

 そうしておく。


 ……さて、アタシが何故『ソレ』と呼んだのかというとアタシから見て、明らかに……。

 

「駆け出したと思ったらこんなところで人助けか?」


 纏うオーラが人間のソレではなかった。

 雰囲気でわかる。こいつは只者じゃない。

 纏う雰囲気が歴戦の兵士と遜色がない。

 

「そう、私に助けを求める声が聞こえたから!」

「……そうか」


 長く伸びた黒い前髪の隙間からちらりとこちらを見た男。

 ……いや、男と言ったが、男であってるはず。

 便宜上、男ということにしておこう。

 背筋がゾクリと凍り付いたような感覚がした。

 

 一線を画すとはよく言うものだが、こいつはモノが違う。

 自然災害とかそういった類のものだろう。

 アタシの生物としての勘が生存本能を刺激する。


「それでどういう状況で、どっちが『お前の敵』だ?」

「さぁてね、アンタはこの状況見て、どっちが弱いか分かる?」

「……雑魚が5人……いや、あと4人と訳が分からんのが1人と得体の知れんのが1体と言ったところだが?」


 はい、どう考えてもヤバい奴です。

 せめて『初見です』くらいのフランクさで来いよ。

 冗談通じないんだろうな、コイツは。


「お、おい、ずらかるぞい」

「お、おう……」

「お。覚えてやがれ~~」


 ゴロツキ共、マジで三下な台詞吐いて帰ったぞ。

 あと覚えておけと言ってもな、名前を名乗れ。


「逃がすかよ」

「やめといたほうがいいっすよ」


 アインの上段蹴りと男の上段蹴りが交差して、風が起きる。

 おい、あんま面倒なことを起こすな。


「……殺気が無いな、人間か、お前?」

「かつて起動兵器だった元人間っすよ」

「ちょっと何言ってるかわからんな……やはり意味がわからんな、ここは」


 さて、こういう混沌とした状況をどうするか?

 ロリがあわあわしている。どうしたらいいのかわからないって顔で視線があちらこちらに飛ぶ。

 

「アイン、ストップだ。そこのお兄さんも少し落ち着いてほしい」

「……そっちの美人さんは少しは話が通じるようだな」

「世辞か?」

「…………」

「お世辞っすよ、クリスさんは贔屓目で見て中の上っすよ、客観的に見たら中の……」


 回し上段蹴りが綺麗にアインの顔面に入った。

 うむ、完全に不意を突いただけあって綺麗に入った。

 だが、右足が痛い上に手応えがない。


「なにすんですか?」

「ツッコミ」

「ボケたつもりはないっすよ?」

「知ってる」


 アインの軽口が未だに懲りない。

 ……大分腹立ってきたな、アタシはカルシウム不足か?

 いや、カルシウムどころか……色々と足りなくなって……。 


 盛大にアタシの腹の虫が鳴り響いた。



「……お腹が空いてきた……」


 

 意識が遠のいていった気がした。



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