W転生

郁美

第1章 ランキング3位の女

第1話 戦争の終結三日前くらいにアタシは宇宙大帝と相討ちになったんだが?


 ――――かつて戦争があった。


 対峙したのは一つの星と一つの銀河帝国。

 自由の為に独立するか、自由を弾圧し制圧するか。

 戦争は20年に渡り続き、総死者は計測不明。

 一つ言えるのはその戦争で多くが失われ、多くの悲しみが生まれた。


 戦える者なら誰だって戦場に駆り出される。

 『義務教育』という名の『戦闘訓練』。

 幼いころから誰だって『それ』を受ける。

 アタシだってそうだ。ガキの頃からそういうのを受けたわけで。

 物心ついたころには、戦闘機の動かし方は覚えていた。

 

 戦場は本で読むような華やかなさなど一切ない。

 血とオイルと鉄の匂いが染みついたコクピットで任務を遂行する。



 さて、突然だが、アタシこと【クリス・S・ネウコック】は特攻した。

 


 【NT帝国】の宇宙大帝との最終決戦で、ものの見事に。

 自分の命をベットした賭けって大抵成功するじゃん。

 結果はドロー。道連れには成功したがドローだよ、あんなもん。


 いや、自分の命を落としちゃ普通に負けだわな。

 アタシの秘蔵にしていた漫画やラノベじゃ大抵成功していたからな。


「はい、というわけで、君は死んでしまったわけだ」

「……はい、そうですか」

「ゆっるいなぁ……」

「いや、あれは死ぬっしょ、普通に考えて」


 死。

 唐突に告げられたその宣告。

 アタシの目の前にはチャラそうな格好の男。


「申し遅れたが、私は君のいた世界の神だ」


 Tシャツに『神』と名札でデカデカと書かれている。

 ……クソダサイ。

 もう一度言う、クソダサイ。


「まあ、神は神でも人数合わせで神になったような神だ」

「で……アタシの死因は敵の宇宙大帝に特攻したことによる自爆か何かか?」

「お察しの通りそうだ。ま、君が助けようとした世界は割と無事だ。

 正義感が強いのは結構だが、命は投げ捨てるものではないよ」

「正義感? なんすか、そんなんでお腹はいっぱいにはならないっしょ?」

「まさかとは思うが……」

「神様、アタシが無償で人助けする善性の人間にでも見えた?」

「おう……人選ミスったか……

 ったく、このアホみたいなランキング作った奴ら頭のネジ抜けてんじゃねぇのか?」

「ランキング? 何のランキングだ」

「『頑張ってたけど死んだから、まあ別世界になら生き返ってもいいんじゃねランキング』だ」

「ははっ、ふざけてやがる!」

「同感だぜ」


「「ハッハッハッハッハッハッハ!!!」」

 

 久々に笑った気がする。

 戦場で笑うことなんてなかった。

 戦い、勝ち、生き残り、美味しいご飯を食べて、寝て、また違う戦場の救援に向かう。

 それを繰り返していくだけの日々。


 一番、落ち着く場所と言えば……


「コイツ……直してほしいんだけど?」

「おっ、お前さんの相棒か?」

「いやぁ……アタシもこいつに何度も助けられた。

 最後だって……アタシの無茶に付き合わせたみたいなもんだし……

 コイツがいなかったら、何度命を落としていたか……幸運のエースなんざ言われてたらしいけど大半は……」

「知ってるぞ、AIが書き換わったと思ったら突然妙な事を喋りだす機能まで付いて」

「そうそう、アタシが食べるための金稼ぎのために入った軍でもらった旧型戦闘機だったはずなんだけどね」

「いやあ最初の君の操縦技術と言えばクソの極みだったからね」

「なんで知ってんの? いや確かにアタシの操縦はクソの極みだったけども!」

「神だからね」


「「ハッハッハッハッハッハッハ!!!」」


「よし、直った!」

「はや!?」


 自称神を名乗るだけはある。

 一瞬だった。

 残骸だった【ソイツ】を瞬きする間もなく一瞬で直した。


『………………ここは、何処っすか?』

「現実と死後の世界の狭間らしい」

『……そうっすか、こういうところに来るのは二度目っすね』

「二度目? なるほど……そういうことか」


 旧世代型戦闘機。

 アタシはソイツを『アイン』と呼んでいた。

 ただの『AI』に五十音最後の『ん』を付けて、それで『アイン』だ。

 名前がないと呼びにくかった、それだけ、だ。


「ソレ、元は人間だぞ」

「……マジ?」

『マジっすよ、前世の記憶の一部を持って転生したら戦闘機だった。

 ……これはこれで何か一つ小説の話のネタになりそうっすね。

 貴女と最初に出会ったくらいに話した通りっすよ』

「ゴメン、半ば冗談だと思って、流してた」

「ひでぇ」


 ここは素直に反省しておこう。

 今度生まれ変わったら、無茶苦茶な話でもとりあえず聞いておこう。

 はい、反省会終わり。


『いや、確かに交通事故で死なない身体にはなりましたが、戦闘機って……』

「交通事故じゃ死なないっしょ?」

『交通事故ではっすね……どちらかと言えば事故起こす側っすよ』

「残念、戦闘機は公道を走れないので交通事故も起こせませんでした」


 アタシの常識。アインの常識。

 妙なずれがあると思ったらそういうことだったのか。

 納得した。


『というか、なんで私を直したんすか?』

「…………アイン、アンタは言ったよね。

 『貴女と俺は一蓮托生。死ぬまで付き合ってやる』って」

『確かに言いましたが、あくまで【死ぬまで】だと言いました、ここからはもう無効っす』

「神様、アタシは生き返るんだよね?」

「まあな、まあ生き返る先は俺の管轄外だがな」

「だ、そうだ……つうわけでこれからも付き合ってください、お願いします」

『……クリスさん、貴女が頭を下げれる人だったんですね』

「あ?」


 アタシだって正直知らんとこに一人で行くのは正直言って……不安だよ。

 つか…………。 


「アンタ、アタシをなんだと思ってたの?」

『操縦技術がクソの極みのサブカル大好きなダメ軍人』


 ぶん殴ってやった。

 確かにその通りだが、こうもストレートに言われるとなんかムカついた。

 もう3年くらいの付き合いになるし、その間アタシの愚痴に付き合わせたし……。

 それでも……うん、ムカついた。

 殴った右拳がかなり痛い。キックにすればよかった、と殴ってから気付いた。

 

『大丈夫ですか?』

「アンタが人間の身体だったら、数メートルは吹っ飛ばしてた。

 その反動分くらい程度には痛いわ、確実に腕折れたわ」

『折れてはないっすよね?』

「……」

「ああ、ソイツには人間ボディくらいやるよ。

 『頑張ってたけど死んだから、まあ別世界になら生き返ってもいいんじゃねランキング』2位の特典の一つだ」

『はい?』


 すると、アインの身体が青年くらいになった。

 銀色……いや、鉛色? もしくは鉄みたいな髪色。

 

「これが……私っすか?」

「久し振りの人間の身体はどうだい?」

「そうっすね、関節が動くありがたみが良くわかりますね」

「うーん、感想が独特!」


 アインの人間の身体。

 アタシよりは背が高い。男の子だから当然なのか?

 それと顔は……整ってはいるが、残念なことにアタシの好みからはほんの少しだけ外れる。

 惜しい。


「それで君らの行先だが……」

「ちょっと、なんで私がクリスさんと一緒に行く運びになってるんですか?」

「彼女の3位の特典、『好きなモノを一つ持っていける』。それが君だからね」

「私をモノ扱いっすか」

「いや、なんでアインの方が順位が上なのよ」

「それを決めたのは俺じゃないからな。文句なら他の神に言いな!」

「つか、1位誰よ!」

「君らが頑張って倒した宇宙大帝さん。

 『選考理由:一代であそこまでの帝国を築き上げたのは間違いなく頑張ってた』

 だ、そうだ」

「あー……確かに」 

「それなら……仕方ないっすね……」


 二人で納得してしまった。

 確かに言われてそうだな、アタシたちとじゃ功績が段違いすぎる。

 ぽっと出で相討ちになった奴と宇宙の9割方を支配に成功した皇帝。

 支配も視方を変えれば、統治に変わる。

 そういうことなんだろうね。 


「まあ、基本自由なとこだし、好きなようにやればいいじゃないかな?」

「神様、私の頑張った特典『人間ボディ』だけですか? 何かすごい技能を貰えないんですか?」 

「何か、か……何がいい? おっとそこの3位ちゃんに聞かれたくないならミュートさせるぜ?」

「ミュートさせてください」

「OK!」


 何も音が聞こえなくなった。

 アイツ、なんか恥ずかしいことでも願っているのだろうか?

 こちらにやたらと視線を送っている。

 それを神様がニヤつきながら聴いている。


「……それで頼みます」

「うんうん、それくらいなら余裕余裕」


 二人の声が聞こえてきた。

 内容は全く聞こえなかったが、別にいいか。

 聞くのはちょっと野暮ってものだろう。

 

「さて、じゃあ行くとしますか」

「ああ」


 これからきっと大変になるだろう。

 まあ、アタシが戦わなくていい世界ならいいがな。

 そういえば……



「ランキング1位の宇宙大帝はどうなった?」

「ランキング1位さんは色々断って天国に向かったぞ」

 

 え、そんなのもありだったの?


「2位じゃダメなんですか!」

「2位じゃ駄目だぜ」


 アイン、テメェ!




 ……


 …………

 

 ……………………



「ねぇ……」

「なんすか? さっきのことで怒ってんすか?」

「それもあるけども……」

「けど?」


 一面に広がる無機質な建物群。

 聳え立つ巨大なビル。

 整えられた歩道や車道。

 行きかう平和面の一般ピーポー共。


 本でしか読んでないような景色がそこに広がっていた。


「なんか思ってた、異世界転生とは違う気がする!」

「確かに!」


 

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