第10話 アテンドTHE大化改新(10)
十
残る選択肢は、もうひとつしかない。
昼休み。静かな教室の一角で、俺は真剣に考えあぐねた末そんな結論に至っていた。
「どうしたの、またまた深刻な顔して」
「なんだ、またかー。思春期だなぁ、大雅も」
「いや、たしかに思春期だけどな……。そういうことじゃないっての」
連日の香辛料漬けで舌が狂って、しかめ面で齧るカレーパンは無味。もうこれで三日目、しっかり感じるのはカロリーだけだ。親父が言うに、そこそこ売り上げはしたけれど、ピークを見誤って量産しすぎたらしい。
「うーん、あおちゃん。今度はなんだと思う?」
「あれじゃねぇの、実は大雅はヒーローで、世界の命運をかけた戦いがあるーとか」
葵が適当な物言いをする。が、ある意味では当たり。高校生活をかけた戦いが控えている。
「あー、五人組戦隊だったら青っぽいよねー、大雅」
「あはは、そうだな。気だるげなんだよなぁ、いつも。なんでもできるくせして、本気出さないみたいな」
「……なんの話だよ、ふざけてたらカレーこぼすぞ」
俺は二人の会話に終止符をつける。なんとか最後のひとかけ、カレー風味の揚げパン粉を胃に収めきって、立ち上がる。
赤のシュシュで、一人歌うあの変な女子がいるうちに別棟へ行かなければいけない。あの紙の行方を知っているとしたら、もうあの子しかいなかった。
「ん、どこか行くのか?」
「……ちょっと職員室。課題忘れたから、さ」
今日もきっといると確信していた。今思えばあの状況、一人で昼ごはんを食べていて、突発的に歌いたくなったのだろう。そして、別棟で一人でいるからには彼女は友達がいないということだ。だったら、今日もいるはず。いわばあの場所は、誰にも踏み入られない彼女だけの牙城。
あの暴力的な歌も、卑屈な少女の叫びと考えたら合点がいく。
だが今日は逃げも隠れもしていられない。
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