第25話探偵の系譜
倒れている優史の体を簡単にかつぐと那由多はセダン車の中に放り投げた。
ドアを怪力で破壊し、中からは決して開けれないようにした。
絹江はその隙にジュラルミンケースから紙幣を一枚とり、ポケットに入れた。
「記念さ」
絹江は圭介にウインクする。
「さて、後始末だな」
手をパンパンと払いながら、那由多は言った。
「悪いが、とある所に寄ってもらえないか。この時代ならあの人を頼ってみようと思う」
那由多が言った。
「あの人って」
興味津々な表情で絹江はきいた。
「私の師匠筋にあたる人物さ」
と那由多は答えた。
那由多の案内で東京都内のあるレンガ造りのビルに到着した。
かなり年季のはいった建築物であった。
那由多の話では東京大空襲も耐えた建物だということであった。
これまた年老いたエレベーターに四人は乗り込んだ。金属の軋む音を発しながら、エレベーターは到着した。
エレベーターを出ると、きょろきょろと那由多は周囲を見た。
にやりと那由多は微笑んだ。
目的の扉を見つけたようだ。
古い木の扉が見える。
ドアノブは獅子のデザインであった。
コンコンと那由多はノックする。
呼び出しのブザーがないのが雰囲気があっていいなと圭介は好意的に思った。
ガチャリと音がし、ドアが開く。
紺色のスーツを着た、端正な顔立ちの青年が出迎えた。
「神宮寺さんですね。高橋さんからお話はうかがっております。どうぞ、中にお入り下さい」
青年は落ち着いた口調で言った。
「お邪魔します。小林さん」
那由多は青年に言った。
四人は広い応接間に案内された。
家具は落ち着いたアンティークの家具で統一されていた。
一人掛けのソファーに黒色の仕立て生地の良い背広をきた粋な人物が腰かけていた。
立ち上がると背が高いのがわかった。
那由多よりも三十センチ以上の差があるだろう。
それにかなりの美男子であった。
性別問わずに思わずみとれてしまう。そんな美貌であった。
その男は右手を差し出す。
那由多はその手を力強く握った。
美貌の男はにこりと人を魅了する笑みを浮かべた。
「あら、良い男だね」
その様子を見ていた絹江は正直で単純な感想をもらした。
不覚にも圭介もその男から視線を外せずにいた。
瑠菜も絹江と同じような状態であったが、この目の前の男には憧れは抱いても嫉妬は抱くことはなかった。
「お目にかかれて、光栄です。明智先生」
那由多は言った。
「どうぞ、お掛けください。未来からのお客人」
那由多が明智と呼んだその男は低い、よく響く声で言った。
「明智って、まさか……」
柔らかなソファーに腰かけながら、圭介は言った。興奮のため、声がうわずっていた。
「そうだよ。かつて東京が帝都と呼ばれた時からの名探偵明智小五郎先生さ。」
「名探偵かどうかは分からないが、この東京でずっと探偵をやらしてもらっているだけだよ」
控えめに探偵明智は言った。
小林青年が那由多たちの前にティーカップを置いた。ティーカップからは紅茶の良い香りがした。
にこやかな笑みを浮かべながら、明智小五郎は那由多の話をきいた。
「よろしいです。その三億円は私が秘密裏に返却しておきましょう」
明智は言った。
「ありがとうございます、明智先生。後始末を頼んで申し訳ないです」
那由多が珍しくすまなそうな表情で言った。
「なに、かまわないよ。実に興味深く、面白い話を聞かせてもらったからね。で、その犯人はどうする」
と明智が問う。
「あの男はこの時代に置いていきます。それもあの男の罪に対する罰の一つです」
そこだけは冷淡に那由多は言った。
「わかったよ……」
明智小五郎はそう言い、静かに紅茶を飲んだ。
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