第24話それが罪に対する罰

「一気に引きはがすぞ、未来人」

「了解、絹江さん」

 二人は呼吸を合わせ、光の翼を後方に引き剥がす。

 べりべりと嫌な音がし、光の天使の部分だけが引き剥がされた。

 そのまま二人はその光の天使を地面に叩きつける。

 光の天使がもとのとりついた人間に戻ろうとするが、圭介と絹江は渾身の力で押さえつける。

 天使はじたばたと激しく動くが元に戻れない。


「那由多さん、今だ‼️」

 圭介のその声を聞き、那由多は熱く熱を帯びるその懐中時計をスカジャンのポケットにしまう。

 

 時間が動き出す。


 瑠菜は見た。

 光の天使と分離した優史の細い体を。

 彼は驚愕の表情で自身の手のひらを見ていた。

 光輝き、自分の力の源であり、偏執した愛情を注いだ相手を縛りつける力が失われた姿であった。


「行け、イノウ探偵‼️」

 絹江が叫ぶ。

 

 那由多の息が荒い。

 機械仕掛けの王の力の後遺症でかなりの体力を消耗している。

 だが、自分の体などかえりみず、さらに竜の王の力を使用する。

 スカジャンの竜の瞳がギラギラと輝く。

 スカジャンにとりついた竜の王が那由多に力を与える。

 那由多の身体能力が百倍に上昇した。

 陸上選手のスタートダッシュの姿勢を取り、地面を蹴った。

 一秒も満たない時間で那由多は光の天使の元にたどり着いた。

 拳を握り、後方にひく。

 それを最高速度で優史の下腹部めがけて叩きつけた。

 鋼鉄のメイスを叩きつけられたような衝撃だ。

 城門を打ち砕く力と同等である。

 優史の細い体は簡単にくの字にまがり、空中に舞った。

 数メートル空中に飛び上がると地面に落下し、唾液と血を吐き出しながら地面を転がっていった。

 何度か無様に痙攣し、この憎むべき男は動かなくなった。

「これが貴様の罪に対する罰だ」

 冷たい目で動かなくなった元天使を見ながら、那由多は言った。


 圭介と絹江によって押さえられていた光の物質は跡形もなく消えていった。

 恐らく、取りついていた男が力なく意識をうしなったため、現実世界に存在できなくなり消失したと思われる。

 圭介と絹江はハイタッチする。

「うまくいったな」

 はあはあと熱い息を吐きながら、那由多は言った。


 二人は微笑む。

 ぽんと圭介の背中を叩き、絹江は軽やかな笑みを浮かべる。


「悪を望み、善をなす……」

 惨めに倒れる優史の姿を見て、圭介は言った。

 彼の体は那由多によって傷だらけになっている。

 その原因の一旦は圭介にもある。

 圭介は悪とはいえ、人を傷つけた。それが業だというのなら、背負っていこうと思った。

「それが私らの正義だ」

 圭介の心のうちを読んだのだろうか、絹江は言った。

 

 瑠菜は圭介の胸に飛び込み、抱きついた。

「ありがとう、こんなところまで私を迎えにきてくれて」

 涙ながらに瑠菜は言った。

「そうだよ、君を僕たちは迎えにきた」

 圭介は答えた。

「絶望しなくてよかった。生きていて良かった」

 その瑠菜の肌と涙の温もりを圭介は一生忘れることは無いだろう。

  

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