第23話作戦名は昴
那由多はスバル360から飛ぶように降りる。
絹江と圭介も急ぎ、車内から出た。
絹江と圭介は背中合わせに立つ。
背中に絹江の体温を感じながら、この人と一緒なら負ける気はいっこうにしないと圭介は思った。
「いいか、昴作戦発動だ」
絹江は実に楽しげだ。
これほど不敵という言葉が似合う女性を圭介は他に知らない。
昴作戦とは絹江が星を見ながら、考えた天使への対抗策であった。作戦自体は実に単純なものだが、タイミングと呼吸を合わせることが重要なものであった。
両手で口を押さえながら、瑠菜は信じられない光景を見ていた。
どのような手段をとったのか分からないが、彼らはこの過去の時代に現れた。
まさか、こんなところまで自分を追いかけてくる人間がいるなんて……。
優史にさらわれた時、自殺を選ぼうかとも思った。だが、それはできなかった。
死ぬのが怖かった。
しかし、彼らの姿を見て、あの時、最悪の方法を取らずによかったと心から思った。
「助けて‼️」
肺と喉が痛むほど瑠菜は叫んだ。
心の奥底からの叫びだった。
「今度は逃がさんぞ、その羽むしり取ってやる」
すでに那由多は臨戦態勢だ。
軽く腰を落とし、爪先だけで立つ。
両脇を軽く閉め、呼吸を整えている。
手に持ったおにぎりを一息で食べた。
エネルギーの充填は完璧だ。
「貴様ら……」
殺気満ち溢れる瞳で那由多たちを睨むと優史は光の天使へと姿を変えた。
ばさりばさりと翼を羽ばたかせる。
その体から発せられる光は眩しい。
「作戦通りいくぞ、未来人」
「ああ、絹江さん」
二人は呼吸を合わせる。
「イノウ探偵頼むぞ」
ちらりと絹江は那由多の切れ長の瞳を見る。
「まかせろ」
那由多はスカジャンのポケットから銀の懐中時計を取り出す。
それを力強く握る。
懐中時計が熱を帯びる。
コチコチと動いていた針が止まった。
さきほどまで風に揺れていた草が止まっている。
空を飛んでいるトンビは空中を動かず、停止いていた。
光の天使の羽ばたきも止まっている。
それがこの銀の懐中時計にとりついた機械仕掛けの王の力の一つで最大の能力であった。
時間操作である。
この能力の対価は使用者である那由多の寿命であった。
停止した時間の分だけ、自身の寿命を機械仕掛けの王に支払わなければならない。
この停止した空間で動けるのは那由多が認める人物だけであった。
圭介と絹江は駆け出す。
空を切り、二人は全力疾走する。
まったく同じスピードだ。
彼らの呼吸はぴったり一致している。
血を分けた肉親であるから成せる技といえた。
だが、あまり時間は無かった。
少しずつであるが、天使が動きだそうとしている。機械仕掛けの王の力をもってしても光の天使を停止させるのはほんの僅かな時間にしかすぎなかったのである。
天使が時間停止の能力を解除して動作を取り戻そうとしていた。両腕を上げ、羽ばたく準備をしている。
しかし、圭介と絹江の動きがほんのわずかに速かった。
すでに二人は光の天使の両隣に到着しいていた。
光の翼に手をかけた。
その様子を未だ完全に解除しきれない停止した時の中で天使の本体である優史は、充血で濁りきった目で見ていた。
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