第9話奇妙な共同生活
それからしばらくは奇妙な共同生活が続いた。
ルナは日中ほとんど出歩くことはない。
昼間はほとんど圭介のアパートで過ごしていた、
彼女が本格的に活動するのは日が沈んでからであった。
「私は日の光が嫌いなのだ」
とルナは言って、ソファーに寝転がり、テレビを見ていた。
仕事で家を空けるとき、ルナは家でゲームをしているか、アニメを見ているか、本を読んでいるかのどれかであった。
昼間、家にいるからといって彼女が家事をすることは一切なかった。あることはのぞいて。
他になにか一つぐらいしてくれてもいいじゃないかときくと、妾は女王だから良いのじゃと言い、スナック菓子を食べた。
ルナが唯一する家事といえば、コーヒーを淹れることだけだった。
ルナの淹れるコーヒーは実にうまかった。
どうして、コーヒーを淹れるのだけはうまいのかときくと、二年ほどこればかりしていて体がおぼえているのだと答えた。
毎日このコーヒーを飲みたいと圭介は思った。
ハロウィンの出会いの日から数日が過ぎた。
翌日は仕事が休みだということもあり、圭介はルナとともにショッピングモールに出掛けることにした。
彼女は当然のことながら自分の衣服というものを持っていなかった。
圭介のジャージを着て過ごしていたのだが、それではやはり不便だということで衣類を購入しにいくことにした。
圭介自身はルナが、ぶかぶかのジャージを着ている姿は決して嫌いではなかった。いや、むしろ好みであった。
「買い物か、楽しみじゃ」
嬉しそうにルナは言った。
夕日が沈み、圭介たちはとあるショッピングモールにいた。
その日は平日だったので、客はそれほどいなかった。
ファストファッションのショップで圭介たちは服を選んでいた。
ワンピースや下着、靴にいたるまで一式買いそろえた。
もちろん、代金は圭介持ちだった。
ルナは一文無しだから仕方がない。
それなりの出費であったが、どこか彼女との行動を楽しいと思うようになっていた。
サーモンピンクのワンピースに茶色い靴を履き、試着室から出てきたルナを見たとき、圭介は思わずおおっと感嘆の声をもらした。
それほどの美しさであった。
ルナはその声を聞き、どこか照れた笑いをうかべた。
「ありがとう、圭介」
と言った。
ある程度買い物をすませた圭介たちはフードコートで食事をとることにした。
「なにか食べたいものある?」
と圭介はきいた。
「カレーなるものを所望する。ネットで見て一度食べてみたいと思っていたのだ」
子供のような目でルナが言うので、フードコートにあるカレー屋に並んだ。
圭介はカツカレーを頼み、ルナは野菜カレーを頼んだ。
空いているテーブルを探し、そこに座る。
「これは美味じゃ」
カレーを一口食べ、ルナは少女のようにはしゃぎながら言った。
たしかにスパイスがきいていて、フードコートにある店にしてはかなりのクオリティだった。
「隣、いいかな」
見知らぬ声がする。
圭介が了承する前にその声の主は圭介の隣に腰かけていた。
トレイにはチャーシュー麺とカツ丼が乗っていた。
それがドンとテーブルの上に置かれる。
銀色のスカジャンを着た、ボブカットの端正な顔立ちの女性だった。
切れ長の瞳が魅力的だ。
身長は150センチメートルほどだろう。
かなり小柄だ。
少女のような大人のような不思議な魅力を持った女性だった。
その女性は勢い良くチャーシュー麺をすすった。
気持ちのいい食いっぷりだった。
「あんた何処かで……」
と圭介はきいた。
もぐもぐとチャーシュー麺を食べ、スープを一気飲みした。
一瞬にして完食した。
「神宮寺那由多、探偵さ」
唇にのこるスープを手の甲でぬぐい、その女性は名乗った。
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