第4話祖母からの贈り物
絹江との会食から三日が過ぎた頃、父親から祖母が亡くなったとの連絡があった。
慌ただしい通夜と葬式が終わり、独り暮らしのアパートに帰るとある荷物が届けられていた。
差出人は原絹江とあった。
祖母からだ。
荷物は古い革製のトランクであった。
中身はインバネスコートにソフトハット。それにロイド眼鏡であった。
そして一枚の古い紙幣が添えられている。
聖徳太子が印刷されたものだ。
遺産というのはこのことだろうか。
少しだけであるが、拍子抜けした。
錬金術師からの遺産というからには、どれだけ凄いものかと思っていたからだ。
ただの絹江さんの愛用品ではないか。
それと古い紙幣。
物は試しとコートの袖に腕を通してみると不思議とぴたりとあうのだった。
ソフトハットをかぶり、ロイド眼鏡をかける。
洗面台の鏡の前に立ち自分の姿を見る。
サイズはぴったりだったが、やはり祖母のようににあっていない。
祖母の着こなしは反則級だったのだ。
それに比べて自分はどこか着せられているような気がする。
絹江さんのようにいかないか。
颯爽と闊歩する祖母の姿を思い出しながら、圭介は苦笑した。
圭介は鏡を見る。
鏡の中の自分と目が合う。
びりびりと脳内に静電気のようなものが駆け抜けた。
少しだけ痛む頭をおさえながら、もう一度鏡を見るとその中の人物はだまって圭介を見ていた。
その姿は自分自身のはずだが、どこか他人めいていた。
「ようこそ。新しい観察者。この世は奇怪に満ちている。それらを共に見ていこうではないか。我らは常に悪を望み、善をなす者だ」
鏡の中の人物はそう言った。
驚愕し、あらためて鏡を見るとそこにはもと通りの自分だけが写っていた。
何度か鏡の前で動いたりしてみたが、決して話かけたりはしなかった。
あれは幻覚だったのだろうか。
だとしても幻覚にしてはあまりにもリアルだった。
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