ヘアースタイル
「俺さ明日美容院行くんだよね。」
「そうなんだ。なんかやっぱ女はツーブロ好きみたいよ。」
2人はいつものようにキャラメルマキアートとココアフラペチーノを頼み、合計1000円にも満たないそのお代と引き換えにカフェの一角を3時間は陣取っていた。始めは真剣に大学の課題に取り組んでいたものの、飲み物が温く薄くなっていくように集中も続かなくなっていた。
「まじか、俺ツーブロにしたら女の子集まって来すぎて『わっしょい、わっしょい』って祭りみたいになるかもしんね。お前も一緒にやろうぜ!そしたら俺たちの祭りよ!雄太修平祭り!」
はしゃぐ雄太を見て、修平は女性たちの担ぐ神輿に乗ってモテ男がはしゃぎまくるというある映画のワンシーンを思い出す。
「なあ。修平はどんな女の子がタイプなんだよ。」
修平は雄太よりもクールにふるまっているが、考えることは雄太と変わらない。どんなタイプかという質問に、自分好みの女の子を思い浮かべ思わず頬が緩む。
「そうだなあ。髪は長い方がいいかな。せっかく女の子に生まれたんだからそこは伸ばしてほしいよね。」
「やっぱそうだよなあ!」
雄太もテンションが上がる。
「色は?俺は茶色くてゆるく巻いた感じのがいい!」
修平はそれを聞くと顔をしかめ、
「いやいや茶髪は無理!なんか男の目気にしてそうじゃない?俺はもっと清楚な子がいいの。」
雄太はそれを聞かずに入り口の方を気にしている。目を細め、はっとしたかと思うと、
「あ!ひろ子ちゃんじゃない?やっぱかわいい子いると思ったんだよなあ。」
とつぶやいたかと思うと、大声で「ひろ子ちゃーん!」と叫んだ。
雄太のいきなりの行動に咄嗟に修平は前髪を治す。
近づいてきたひろ子が雄太に話かける。
「びっくりした~。何してんの?」
「え?俺たち?課題してるけど、めんどいわ~。ひろ子ちゃんは?」
「あ、さっきまでそこでデモがあって、参加してきたの。」
と買い物にでも行ってきたかのようにひろ子は話す。
雄太は興味なさげにへー、と答えた後、
「そんなことより、この後一緒にご飯でも行かない?」
その誘いにひろ子は首を振り、美容院に行くと答えた。
「え?美容院?トリートメントとか?」
「ううん、今年流行りのピンクブラウンにするんだ。」と嬉しそうなひろ子に、ずっと黙っていた修平は思わず、
「え!茶髪にするの?そんなことしなくても、ひろ子ちゃんモテるよ!黒髪のままでいいって!」
それを聞いたひろ子は不機嫌になり、じゃあ、と店を出ていった。
「・・・なんか怒って行っちゃったんだけど。」と雄太が修平を見ると
修平は「茶髪とか男のことしか考えてない女だな。」と吐き捨てた。すると、雄太も続けて、「たしかに。よくみたらここにいるやつら茶髪ばっかじゃん。男好きかよ。」と言い放った。
すると、店内にいる女性全員がぐるりと首を回し、雄太と修平を睨んだ。
店内は一瞬にして静寂に包まれる。
「なんなんだよ!」驚いた雄太が恐怖のあまり声を荒げる。
「なに見てんだよ!お前も何見てんだよ、なんだよ、お前もなんだよ。」叫ぶ2人のもとに、女性たちは立ち上がりジリジリと近づいてくる。
「何だよ、来んなよお前ら!!」
「俺まだツーブロしてないんだけど?」
「やめろよ!やめろって、」
「「うわぁああああああああ!」」
女性たちが手を伸ばしてきたかと思うと2人は宙に浮いていた。女性たちの手によって、座った姿勢のまま椅子ごと胴上げのように持ち上げられていたのだ。それはまるで神輿のようだった。
女性たちは椅子を上下に揺らし、何かをつぶやき始めた。最初は聞き取れなかったその声は次第に大きくなっていく。
「「「「ファッションじゃボケ!ファッションじゃボケ!・・・・」」」」
次第に遠のく意識の中で修平と雄太には同じ言葉が浮かんでいた。
「雄太修平血祭り」
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