第5話 家政婦…もとい妹は見た…じゃなくて美華

 あたし如月 美華。13歳の中一。

 誰ですか?『この厨房』なんて言ったの?そんなこと言う人機雷ですよ?

 ん?字が少し違うみたい?それにその言葉は国民的作品に出てきたバニラアイスが好きな人の口癖みたいですって?気のせいですよ、気のせい。

 あまり気にする人がいたら機雷でちゅど~んです♪


 えっ?そもそも一番最初の出だしだって某国民的セーラー服を着たお姫様がドンパチする作品の主人公が言うのに似てるっていうんですか?

 そんなこと言う人には…美華ちゃんアタックが炸裂しちゃいます♪

 どんなアタックかは…秘密です♪


 あ、話が脱線しちゃったみたいなので続けますね。

 でもでも脱線ってすごい大変な事故ですよね。車輪がレールから少しずれるのも脱線ですけど、レールから逸脱して転覆しても脱線事故ですよね。

 何が原因で脱線が起きるか分からないけど、気を付けないといけないですね。


 …何を話そうとしてたんだっけ?そうそう!大好きなおにーちゃんのこと!


 あたしのおにーちゃんはかっこいいです。そして強いです!あたしの自慢のおにーちゃんです!強い!カッコイイ!世界一!です!ん?強いを2回言ったような気がしたんですけど、気のせいですね。


 そしてあたしにはおねーちゃんもいます。ななちゃんは本当のおねーちゃんじゃないけど、しょーらいはおにーちゃんと一緒になっておねーちゃんになる予定です。


 うぅん、予定『でした』が今は正解じゃなかもしれないです。

 何故かというと、ななちゃんがお嫁さんになれないかもしれないことが起きました。お父さんのお客さんでおにーちゃんと一緒に昨日おうちに来たえるざちゃんです。


 えるざちゃんは変な恰好と、日本じゃウィッグじゃないと再現できないアニメやマンガのキャラクターみたいな赤い色の髪の毛してました。

 まんまアニメから飛び出してきたみたいな姿…まるでような感じがしたんです。


 そしてえるざちゃんがおにーちゃんを見る目は…好き好き光線を出してました。だからえるざちゃんもおにーちゃんのお嫁さんを狙ってるんだと思います。

 え?中一のあたしにまだそんなの分かるわけない?ふん!あたしだってそのくらい分かりますぅ。だって、えるざちゃんのそれは奈々ちゃんがおにーちゃんを見るときの目と同じだったから。


 多分、あたしがおにーちゃんを見るときも同じような目なんだろうなぁ…あたしだっておにーちゃん大好きだから。

 兄としても、一人の男の人としても…


 はっ!今の内緒!絶対内緒!おにーちゃんやななちゃんにバレたら大変!『よろん』が黙ってないみたいだから!絶対言っちゃダメだからね!あたしとの約束!


 でも昨夜のななちゃん…相当切羽詰まってたんだろうなぁ。何たっておにーちゃんと一緒に寝るなんて言い出すんだから。

 だからあたしも負けじと言っちゃった。

 

『あたしとおにーちゃんがいっしょに寝て、ななちゃんがあたしのへやで寝るのはどう?』

『あたしも久しぶりにおにーちゃんといっしょに寝たいし、いっせきにちょーでしょ?』


 おにーちゃんといっしょに寝られるのは妹の特権だし、おにーちゃんもあたしのこと好きだからいけると思ってた。

 でもおにーちゃんの好きはあくまでも『妹』として好き…分かってる…いけないことだって。叶わない願いだって。


 あたしとおにーちゃんは兄妹…決して一緒になることができない…だから幼馴染として知ってるななちゃんがおねーちゃんになってくれれば、あたしは堂々とおにーちゃんと一緒にいられる。

 そう割り切ったはずだったのに…えるざちゃんが出てきたからあたしの『おにーちゃんはいつまでも大好きなおにーちゃん』計画にズレが生じてきちゃった。


 『敵を欺くにはまずは敵から』って言うから、こうなったらえるざちゃんの秘密を調べよっと。

 ※もちろん正しくは『敵を欺くにはまず味方から』です。言葉も違えば用途も違うのは美華マジックということで。



 えるざちゃんが来た翌日、というか今日の話。おにーちゃんとななちゃんとえるざちゃんはお散歩に出かけていった。

 仲良く、というよりななちゃんに引きずられるようにだったような気がしたけど。


 出かける前に朝ごはんを久しぶりにあたしが作って振舞ったら、おにーちゃん涙流しながら食べてくれた!そんなに美味しかったのね!だからおにーちゃん大好き!


 でもななちゃんは食べてくれなかった。まるで怖い物を見るかのような眼差しであたしの料理とそれを食べるおにーちゃんを見てた。

 どうやらあたしの料理の腕はななちゃんに比べればまだまだみたい。いつかはおかーさんやななちゃんみたいに上手に作れるようになりたいな。もっと頑張らないと!


 おにーちゃんたちが出かけてすぐにあたしも出かける用意を大急ぎでした。もちろん追いかけるため。おにーちゃん好き好き光線出しまくってる二人が一緒だと、おにーちゃんのてーそーが一大事!ここはあたしが阻止しないと!


 どうやら公園でお話しするみたい。あたしはおにーちゃんたちからは後ろにあって、微妙に声は少し聞こえるだろう位置にあるブロック塀の陰から三人を見ることにしたんだけど…

 お、思ったよりも声が聞こえない!なんかボソボソお話ししてたりするのは聞こえるんだけど!


 でもところどころ聞こえる…強い、とかまもの?とか?え?まものって何?煮物ならあたしでもできるけど、えるざちゃんに料理でも教えるのかな?


 そうこうしててらぶらぶな話にもにもならないっぽいし、あたしも飽きたからそろそろ帰ろうかな?って思っていたら、公園の周囲の雰囲気が変わった気がしたの。

 言葉で伝えるのは難しいんだけど、例えるなら『ここから出るのも入るのも禁止!』みたいな感じ?


 何々?何が起きたの?ふとおにーちゃんとえるざちゃんを見たらすごい真剣な顔になってるし、ななちゃんはあたしとおんなじで何が起きたのか分からないって顔してる。


 そしてあたしは見た。空に亀裂が入ってそこから黒くて長い羽織物を来た男の人が現れるのを。その人はおにーちゃんたちを見ると言った。


「ふふ、昨日ぶりね、エルザさん、少年」


 『少年』って言い方されてるからおにーちゃんの名前は知らないみたい。そしたらえるざちゃんのお知り合い?

 一言二言会話してたら…いきなり男の人が怒り出した。っていうか、おにーちゃんたちが怒らせたような感じがしたけど、そしたら黒い大きい犬が出てきておにーちゃんたちに襲い掛かった!


 はわわ!あたしちょっと巻き込まれちゃった!逃げようとしたら多分バレちゃう。ひっそり息を潜めてここにいるしかないかな…あの犬怖そうだからこっちに来ませんように!


 そうこうするうちにえるざちゃんが上に手をあげたら…剣が降ってきた。って剣?!どういうこと?これは特撮か何かの撮影?お父さんが一枚噛んでる?でもおにーちゃん黒い犬に対して本気で蹴る殴るしてるよね?動物愛護団体から苦情が来るレベルで。


 でもおにーちゃん、動きが鈍そう、というか動きづらそう。あ、ななちゃんがいるからだ。ななちゃんをかばいながら犬を倒してるんだね。これも愛の成せるわざ!


 あたしは逃げることも忘れておにーちゃんたちの戦いを見てた。もちろん見つからないようにして。


おじーちゃんのところで修業してるせいか、おにーちゃんはもう強かった。途中からななちゃんもビシバキやって強かった。あれ?いつの間にななちゃんもそんなに強くなったの?


 でもあたしが目線で追いかけてるのはえるざちゃん。剣を使って黒い犬をばしばしと退治していく姿。


 かっこいい!凛々しい!お姉さま!


 あたしも将来大きくなったらえるざちゃんみたいに強くてやさしくて、ないすばでーな女の人になりたい!もうえるざちゃんのそばではぁはぁしたい!その大きな剣を振るってるとは思えない綺麗な手であたしのほっぺを触って細めた目であたしを見下ろして『美華…いけない子』とか言われたらきゅんきゅんしちゃう!そしてそのままお姉さまの顔はあたしの顔に近づいてきて…


『ドガバキグシャバリバリバリバリ!!!』


 雷の音であたしは現実に戻った。あれ?どうしてたんだっけ?確かえるざちゃんを見てて『かっこいいなぁ~』って思ってたら…あれれ?どうやらあたしは『トリップ』して『いけない世界の入口』にいたみたい。あぶないあぶない。危うく百合さんの世界にようこそするところだった。

 

 あ、おにーちゃんとななちゃんには内緒よ?あたしだってそんな趣味は持ってないけど。でもでも~中一とくれば色々なことに気になるお年頃♪そういう話で友達の間で盛り上がるんだから。


 でもよくこんなタイミングよく雷が落ちるなぁ~。おかげでこっちに戻ってこれたんだけど。そう思ったら違ってた。あの羽織物のおじさんのそばには今さっきの黒いのとは違う、黄色と黒の犬がいた。かの有名な電気ネズミを思い出させる、いかにも『危険ですよ』を醸し出す警戒色の犬だからアレが何かをしたんだろうなってことは分かった。


 あんなすっごい音の雷に打たれたら死んじゃうよ。まだあたしは死にたくない!おにーちゃんともっとお出かけしたいし、おにーちゃんと同じ高校にも通いたい。

 大学生になっておにーちゃんと一緒に暮らして、そしたらおにーちゃんは働いてるから、あたしは先に帰ってご飯作って待ってるんだ。


 そしておにーちゃんに『ご飯にする?胃薬にする?それともせい〇がん?』って甘~い生活を送るのにぃ!


 あたしは皆がバトってるところから、そ~っと、そして急いで逃げ出した。ホントやめてよね。まだまだ14歳なんだから!これから恋も愛もいちゃいちゃもおにーちゃんとするんだからぁ!


 バチバチって雷の音がするのを背中で聞きながら、一目散にこの場から走り出す。途中、目に見えない何か膜のようなものが邪魔して弾き返されるような感じがしたけど冗談じゃないですよ!

 こんなのに邪魔されて死ぬくらいなら無理やり突き抜けてやる!そう思って助走をつけて勢いよく走り抜けたら『パリン』と音がしたような気がした。多分だけど通り抜けたんだと思う。


 一体何が邪魔してたんだろう?振り向くと空間に人が何かを通り抜けたような形をした穴がぽっかりと空いてた。え?何この空間?あたしがぶち抜いた穴?

雷で危険なのにも関わらず見ているとその穴はじわじわと大きくなっていく。さらにさらに!穴の先、あたしが元いた先にはなんか大きな氷の塊まで見える?!あれを削れば何杯かき氷ができ…じゃない!


 直感的に『これはいけない!この穴どうにかしないと!』と思ったけどどうにかなるの?試しに空間を撫でたら…あれ?スーッと音もなく穴は閉じていった。


 気味が悪いな~と塞がった穴と逆方向に振り向くとそこには平和ないつもの街が広がっていた。塞がった穴のあった場所を見ても、やっぱり平和な街が広がっていた。

 あれ?おっかしーなぁ…おにーちゃんたちの姿もどんぱち音も雷も聞こえない?氷の塊も姿形がない?どーして?かき氷は?


 雷!そうだ!逃げないと!あたしは現状を思い出して再び一目散に走り出した。


 まずは身の安全を図れって地震が来た時も言ってるしね。あ、今は雷か。でも天災みたいなものには変わらないよね。変なものに邪魔されたみたいな小さいことには構っていられない。早くお家に帰ろう!そしておにーちゃんとななちゃんとえるざちゃんを待つの!


 3人が帰ってきたら何も知らない顔で言うんだ。


「おかえり」って。



 っていうか、怖くて聞けないよー!

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空から降ってきた異世界からの女勇者より僕は強いみたいです 飛鳥 詠 @a_aska

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