第4話 バ〇スは唱えませんがあのセリフは出てきます
「壁よ!守って!」
両手を前に突き出した姿勢の奈々。その奈々に襲い掛かる黒い大群と化した蝙蝠たち。奈々が蝙蝠に飲み込まれる!と思っていた瞬間、蝙蝠たちは文字通り、まるでそこに見えない壁があるかのように何かにぶち当たった。一体何が起きたの?
さらに振り向きざまに奈々はエルザに襲いかかろうとしていた蝙蝠に向かって右手を伸ばして…
「焼けちゃえ!」
奈々の右手から火炎が伸びて蝙蝠を飲み込む。一瞬にして蝙蝠は燃え尽きて消失してしまった。
「なななななななな!何が起きたんですか!少女は魔法使いなんですか?!」
見えない壁や奈々から出された火炎に唖然とした表情を浮かべつつ叫ぶおっさん。エルザも驚愕の表情を浮かべ、僕やエルザに襲いかかろうとしていた蝙蝠でさえホバリングして動きを止めてしまった。器用だね。
でもさ、そんなに奈々の名前を連呼しなくてもいいじゃないか。一回呼べば分かるよ。そもそも敵のくせに奈々の名前を気安く呼ばないでほしい。それも呼び捨てにしてさ。
とりあえず活躍してる奈々を労わないとね。
「奈々すごいじゃないか。いつ魔法を習得したんだい?」
「ん~分かんない。何か頭の中に『お前は魔法も得意なはずだ。思ったままに唱えてみるがいい』とかいう誰かの声が響いて『できる!』って思ったらできちゃった」
「その前にそれ魔法?!」
もちろん今さっきのエルザの言葉を借りれば、魔法の資質と鍛錬で習得できる魔法が、一朝一夕ならぬ一分一秒で習得できるはずがない。何かの拍子で『降って沸いた』のかもしれない。そもそもの『頭の中の声』って誰?
「あのね、ナナの唱えた魔法…というのかしら?私達の世界にはそんな名前のないわよ」
「え?そうなの?」
こんな戦闘下ではあるけど、敵味方ともに動きを止めてしまったのでエルザの声に返事をしてしまった。そもそもの話、エルザの言葉がすごく気になる。何その存在しない魔法って。
「えぇ、炎系の魔法は確かにあるけど、そんな名前や形状の魔法は聞いたこともないわ。そもそも呪文はどうしたのよ。詠唱を破棄してあの力…どういうこと?」
未知の魔法ってことか?いいなぁ…僕も使えないかな。でも奈々が使ったように魔法っぽい名前じゃないのがいいのかな?
とりえあえず僕は試しに頭の中に浮かんだ言葉を唱えてみた。
「アイスメテオ!」
「「「!!!」」」
シーン……
あれ?はずした?何も起こらない。やっぱ魔法みたいな名前だったから?みんなの目線が冷たい。
わー!相当痛いやつだぞ!これ!
「はははは!少年!適当に名称を唱えれば魔法が発動するわけじゃありま『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』せん……よ?なんですか?この音は」
高らかに笑いながら僕を見下すおっさんだったけど、その言葉をかき消すようにどこからか音が響いてきた。何?この音。
そして昼間のはずなのに何故か辺り一帯が暗くなってきた。おや?雲でもでてきたのかな?でも今は結界の中みたいなものだから雲なんて出るはずがないことに思い当たる。
しかし雲が出てきたのかと僕と同じように思ったのかふと上空を見上げるおっさん。そして…その表情は一変した。
「sdftgyふじこlp;@:「」!!!」
あ、言葉になってない。悲鳴のようなものをあげたようだけど僕には『ふじこ』しか聞き取れなかった。懐かしいなぁ…。
おっさんの悲鳴につられて僕たちも上空を見上げ…言葉を失った。
「な!何よ!あれ!氷…の塊?!」
エルザが叫んだ。そう、上空にはダイヤモンドみたいな形をした巨大な-例えていうなら10階建てマンションくらいの大きさの-氷の塊が浮いていた。先端がこっちを向いてる。刺さったら痛いだろうなぁ。
あ、ひょっとしなくても、もしかしなくても僕の魔法のせい?試しに右手を上にあげて動かしてみたら…おぉ~ぐりぐり動かせるよ、これ。先端があっちを向いたりこっちを向いたりする。制御できてるみたいで楽しい~!
「何遊んでるのよ!これ蓮がやらかしたんでしょ!」
奈々が半ギレ状態で僕に怒鳴る。まぁ、多分そうなんだろうけど僕だってこんなことになるとは予想もしていなかったわけで。
そもそもなんで僕にも魔法が使えたのかは分からない。僕にも資質があったってことかな?あとでエルザに確認しないと。
でもね、奈々と同じで僕も魔法の鍛錬はしていないし、使えるなんて思ったこともない。ちなみにその確認しようとしたエルザは口をあんぐりと開けている。あ~ぁ、そんな顔じゃ美少女が台無しだよ。
そうこうしている間におっさんは正気に戻ったようだ。怒りのためか真っ赤になりながら僕に怒鳴る。
「ちょっ!少年!あの氷どうにかしなさい!私が潰れちゃうじゃない!」
前言撤回。正気じゃないようだった。敵に対して『潰れるからどうにかしろ』なんておかしいでしょ。だって、おっさんを倒すために魔法を使ったんだから。まぁ、こうなるのことは予想していなかったけど。
「とりあえず動かすことができるみたいだから落としちゃいますね、そっちに」
僕はにっこりと笑いながらおっさんに言った。その言葉に真っ青になるおっさん。赤くなったり青くなったり色々と表情が変わって楽しい人だなぁ。
廻りを見たら奈々とエルザが呆気にとられた顔をしていた。話をどんどん進めてしまったことに呆れられたかな?
でもそろそろ習い事の時間だし、終わらせないと、ね。
「じゃ、改めて…フォールダウン!アイスメテオ!」
これも正しいかどうかは分からないけど、何か掛け声があったほうがそれっぽいので、上げていた腕を振り下ろすと同時に叫んだ。そして巨大な氷は切っ先をおっさんに向けて勢いよく降下しはじめた。
「あ……あああああああああああああああ!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
おっさん壊れるの図。廻りの背丈が高い木々をあっという間に凍らせながら迫る巨大氷塊。どうやら人間…あ、おっさんは魔族かもしれないから人間かどうかは分からないけど、本当の恐怖を感じた時は何もできなくなるみたいだね。足がすくんで動けないみたい。
「…転移して逃げればいいのに…」
僕がボソリと零した言葉をどうやらおっさんは聞こえたらしい。凍り付く寸前…いや、少し髪の毛が凍っていたかもしれない。『ひぃっ!』とか言いながら姿を消した。
刹那。
大音響とともに氷塊は地面へと落下して廻りを凍り付かせて…ってこのままだと僕たちが危ない!
「フレア!」
僕はまた右手を前に出しながら適当な魔法を唱えた。なんか強そうな名前なら氷塊を溶かしたりどうにかできるんじゃないかな?って思っただけなんだけどね。
「何よぉ!またそんな魔法?!知らないわよぉぉ!」
エルザの叫びが聞こえてきた。うん、放った僕もそう思う。
思ったよりも氷塊は大きかった。けど僕の追加魔法もそれなりの威力はあるようだった。
だったんだけど…これは熱い…。氷塊が厚いんじゃなくてフレアの魔法が熱すぎて周囲が熱くなってきた。
さらに氷に熱湯をかけると水蒸気がもうもうと立ち昇るのと同じで、氷塊からものすごい勢いで煙が出てる。熱と水蒸気で超高湿のサウナ状態だ!これはヤバい。
「リフレクションシールド!」
さらに僕は追加の呪文を唱えた。僕たち3人は透明なドーム状のバリアのようなものに囲まれた。結界の中に張るバリアってどうかと思うけどね。
熱波が僕たちに襲いかかり見る間に何も見えなくなってしまった。もちろん僕たちはバリア内にいるから熱さは伝わってこない。
「ねぇ!これ大丈夫なの?嫌よ?こんなので儚く散るなんて!」
「多分…大丈夫じゃない?レンが張ったものだし、なんでもありみたいな感じだし
「エルザ、半ばやけっぱちになってない?そりゃ僕だって驚いてはいるけどさ」
「「全然驚いているように見えないんだけど!」」
最後の言葉だけ奈々とエルザの言葉が見事にハモっていた。ん~僕だって驚いたよ?魔法なんて唱えられたんだからね。なんか物語の中の勇者みたい。
そんなことを話してしばらくしていたら、熱波は過ぎ去ったみたい。そして僕たちを囲んでいたバリアも消えてなくなった。
本来、この一帯は住宅街の中の公園。でも目の前に広がる世界は家も公園の遊具も何もかもなくなり 辺り周辺焼け野原と化している。
その光景を目にした奈々とエルザは言葉を失っているようにみえた。
「ね、ねぇ…戦う前の結界って張られたのよね?これって現実の私たちの街じゃないわよね?」
「そのはずなんだけど、パールバイヤーが撤退したのに一向に解除される気配がないわ」
「ねぇ!それってひょっとして?!」
エルザが言うには普通、結界は張った術者が解除したりその場にいなくなったり、絶命したりすることでなくなるらしい。中年のおっさんはギリギリで撤退したにも関わらず結界が解除された様子がない。
ひょっとしたら僕たちが気付いてなかっただけで、実はおっさんが撤退と同時に結界は解除されていて、そうとは知らない僕はアイスメテオを落下させちゃった?そしてそのあとにフレアを放った?そんな怖い想像がよぎった。
そう、奈々が言いかけた言葉。もし既に結界消えている状態だったらこの辺りにいた人たちは……そう言いたかったのだろう。
「ちょちょっちょ!蓮どうしよう?!」
「ひょっとしたら…最悪の事態になっちゃってるかもしれないわね」
奈々は慌てふためき、エルザは半ばあきらめの表情を浮かべている。目の前に広がる光景が僕たちの街だと思っているからだ。
僕は考えた、というか感じていた。この光景は…うん、間違いない。
「リリースワールド!」
「「えっ?」」
僕は右手を前に出し呪文を唱えた。その言葉に奈々とエルザは驚いているようだ。
「今見てた世界は結界内の仮初の世界だよ。だから解除の呪文を唱えたんだよ」
「何よその呪文…私知らないわよ…レンったらやることなすこと私の知らないことばかり…うらやましいわ」
あ、エルザが拗ねながら顔を赤らめている。奈々は呆気にとられた顔をして行く末を見守ってるようだ。
僕が感じていたのは周囲に漂う魔力量。エルザがどのくらいの魔法術者が分からないし、奈々は偶然かお告げかで魔法を唱えられただけだから、魔力量を感じられたかどうか分からない。
でも僕には感じられた。今目の前に広がるのは偽りの世界。術者が作り上げた仮初の世界だって。
そう、結界が消えた場合とそのままの場合の周囲の魔力量が全く違うことを僕は理解していた。いや、正しくは理解させようと『誰か』がしてきたので無理矢理理解した。
その『誰か』が言うには、結界が張られている場合は維持するために魔力量が周辺に膨大にあること。しかし結界が消えた場合はその残滓だけが残りいずれ消えてしまうこと。
今の周囲の状況は魔力が相当漂っていた。だから結界が張られたままと僕は判断したんだ。
ちなみに僕に語り掛けている『誰か』は何者か分からない。今さっきから僕の脳に直接語り掛けてきてるんだよね。
ひょっとしたら奈々が魔法を使えるようになった『誰か』と同じなのかもしれない。
そうこうしているうちに僕の右手が光を発し、その光はどんどん大きくなって辺り一面を包み込む。
「まぶしっ!レン!見えないわよ!」
「あぁぁ、目がぁ、目がぁ~~あああああああ~~~」
奈々…ここであの名作の台詞を言わなくていいよ。君は大佐か。
そう言いながら僕も目がくらんでしまうので、目を瞑っているわけだけど。
そして光が晴れた先は…いつもの街の光景が広がっていた。あ~よかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます