第3章 今回説明会話が多いです なので本文短めに
「暗く狭い空間より這い出し空を舞う獣よ…空間を切り裂く力で我が意のままに!エアカッター!」
おっさんが唱えた途端、蝙蝠の翼が鋭利な刃物のようになり、そのまま突っ込んできた。間一髪の差で僕らはそいつらを避けることができた。
蝙蝠は僕たちを通り過ぎた後、そのままホバリングをし続けてる。蝙蝠ってホバリングできるんだ。初めて知った。
でもさ、ちょっと待って。これ魔法?翼が刃になった蝙蝠が突っ込んでくる物理攻撃じゃないの?普通は風系とか空気系で切り裂く魔法って、かまいたちのように見えない刃が突っ込んでくるのがセオリーなんだけど。
「…というわけなんだけど、おっさん的解釈はどうなの?」
僕はおっさんにそのことを直接聞いてみることにした。
「蓮、あんたねぇ…戦いの最中に敵に質問なんて緊張感の欠片もないことをやらないでよ」
「だって変だと思わないかい?あれじゃ魔法じゃなくて蝙蝠アタックだよ」
「言いたいことは分かるけど…レン、ナナの言う通りだと思うわよ」
僕らは戦闘中だというのに言いたい放題の口論をはじめた。だって今聞かなきゃいつ聞くの?今しか聞けないでしょ!今でしょ!だっておっさんいなくなっちゃったらその疑問に答えてくれる人いなくなっちゃうんだよ?
「異世界の少年…」
あ、おっさんがこっちを見てる。眼力が今さっきより鋭い。僕空気読まなかったかな?
「おっさん呼ばわりするのは嫌だけど…あなたはなんてお利巧なの?!そう!そうなの!そこ一番大事なところなのよ!」
「はっ?」
「えっ?」
「…そうなんだ…」
おっさんが高らかに僕を褒めたたえ始めた。何この展開、全く予想していなかったんだけど。
「いいこと?私は今さっきも言ったようにテイマーとしての力があるわ。だから下僕であるブラックドッグを大量にテイムさせて貴方たちを襲うことができるのよ。でもね、本当はソーサラーとしての力の方がテイムの力を上回るのよ。今まで戦ってきた相手は下僕だけの攻撃で全滅しちゃったりして私のソーサラーとしての実力は発揮できなかったの。しかぁし!今、私は真のソーサラーの力をここに開眼させるのよ!手始めにこの通り、まさに空飛び襲い掛かる刃物と化した我が眷属をあなたたちに襲わせているわ!これも間違いなくソーサラーの力!えぇ、そうよ!この無敵の力を手に入れた私の力なのよ!だから分かるかしら。この選ばれた真ソーサラーとしての私の……」
どこかでおっさんのやる気スイッチを入れてしまったらしい。とりあえず長い演説はまだまだ続くようだった。もちろん僕は聞きたいところだけは聞けたので、それ以降は無視することにした。
しかしおっさんの言い分を聞くも、どうしてもこれがソーサラーの力とは思えない。テイムさせた魔物に自身の魔力を与え、魔物自身の属性攻撃を繰り出してるだけだって。
もっとも僕が今まで思っていたソーサラーという職種の解釈が違うのであればこれが正しいのかもしれないけど。
さて、このあとどうしようかな。蝙蝠を叩くのは簡単なんだけど厄介なのはあの刃と化した翼。僕も魔法が使えれば楽勝なんだけどなぁ…
「ねぇねぇエルザ。魔法って簡単に使えるもの?」
「はぁっ?!何言ってるの?使えるわけないじゃない。魔法っていうのはね、まずは魔法を使えるかの資質を確認することからはじまるの。そこで使えると分かったら何年も鍛錬に鍛錬を重ねて修行して、やっと初期魔法が放つことができるのよ。だから『使いたいわね、はい使えますよ』とそう簡単に魔法なんて唱えられないの。そもそも詠唱が必要なんだから」
「エルザ…長いわよ」
エルザもおっさんに負けじと長かった。でも今回は奈々のツッコミが入って中断された。よかった。
「だってそうなんだから仕方ないわよ。私だって火属性魔法は使えるけど、水属性魔法なんて初期の初期しかできないんだから」
「そうなんだ…なかなか難しいんだね」
「…ちょっとあなたたち」
「そもそもレンとナナは異世界の人間なんだから、魔法が使えるなんてことはありえないわ」
「え~?つまんないなぁ~。やっぱ憧れちゃうよ、魔法」
「そうね、私もどんな魔法があるのか知らないけど、1回は使ってみたいわね」
「奈々が使ったらへろへろ魔法しか唱えられそうにないと思うけどな」
「こら!散々私に説明を求めておいて、無視するとは上等ね」
ん?僕らの会話に割り込もうとしてる声が…気のせいかな?ま、いっか。
「そんなことないわよ!私だって蓮に負けないくらいに鍛錬してるだから。隠された実力があっても不思議じゃないわよ」
「いやいや、奈々が魔法を唱えたらへっぽこ魔法しか出てこないって」
「むっきー!ちょっと蓮!それは言い過ぎよ!ひょっとして精進したら爆裂魔法が唱えられるかもしれないじゃない!」
「それはどこかの素晴らしい世界の人のアークウィザードが使う魔法でしょ」
「…レン、ナナ…それいいの?大丈夫なの?」
「あなたたち!もう知らないわよ!私を無視し続けてどうなっても!あなたたちを蝙蝠の餌食にしてあげる!」
「あれ?誰か蝙蝠が何かとか言った?」
「知らない。なんか外野がうるさいけど、多分固有名詞出してないから私たちのことじゃないし大丈夫じゃない?」
「そういうものなのね…でもね、さっきからあの中年の人がうるさいけど、蓮、いいの?」
「「えっ?」」
奈々の声に改めておっさんのいる方向へ目を向けると…
そこには大量の蝙蝠(羽に刃付)がたくさんいた。まさに黒い絨毯、そこかしこからキーキーと蝙蝠らしき鳴き声。さらに刃と化している羽が羽ばたくたびにカチカチと音まで聞こえる。うわ、これだけ集まると気持ち悪いわこれ。
「ここまでコケにされた屈辱を晴らしてあげる。覚悟するといいわ。綺麗にみじん切りにしてあげるから」
おっさんはニヤリとして僕たちにゆらりと手を向けた。呪文詠唱準備ってやつだね、これは。
「……あれ?」
奈々が小さな声をあげた。ん?どうしたんだろう?何か気になるところがあったのかな?
「ちょっとレン!あの大群が来たら…!」
「そうだね、ちょっと痛そうだね」
「そういう問題じゃないでしょ!あの鋭利な羽で急所を切られたら致命傷よ!」
「あのね…ひょっとしたらいけるかもしれない…私」
「「えっ?何が?」」
見事に僕とエルザの声がハモった。そして僕らの会話をよそにおっさんは呪文詠唱を完成させた。
「散り散りになっちゃいなさい!エアカッター!」
一斉に黒い大群と化した蝙蝠が襲い掛かってきた…けど、奈々が立ちはだかった。
そして…両手を前に出して…
「壁よ!守って!」
魔法みたいなものを唱えた。えっ?これ魔法?
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