第2話 雷注意報発令チュウ
奈々の姿が掻き消え、そこには奈々に襲い掛かっていた黒犬たちが倒れていた。廻りからから見たら一体全体何がどうなったのかは分からないと思われるだろう。
そして消えたと思っていた奈々は元いた場所とは少し離れたところに立っていた。
「へ?何が起きたんですか?我が下僕たちがいきなり倒れたんですけど!」
「どういうこと?ナナが…ナナの動きが…」
おっさんが何か喚いている。そしてエルザは何が起きたのか少しは把握できているようだった。
少しくらいの武術の心得がある人だったら、奈々が何をしでかしたか目で追えたはずである。もちろん僕にも何が奈々に起きたのかは全部見えていた。
奈々は黒犬たちが襲い掛かってきた瞬間、回し蹴りを一回転しながら食らわしつつ、当たらなかった黒犬には着地後に当身をするという動作をやってのけた。その時間はほんのコンマ何秒だろう。
常人ではあまりにも動きが早すぎて姿が消えたようにしか見えないはずだよ。ということは、おっさんは奈々が見えてないようだったから、黒犬を使役することしかできない常人ってことかな?
「奈々!お見事…と言いたいところだけど、着地点がぶれたね。少し動いてるよ」
「えー?これくらい誤差の範囲じゃないの?」
「ちょっと!あなたたち!一体何者なのよ!少年だけじゃなく少女までもおかしな人間なの?!」
「いやいや、3mもずれてたら誤差じゃないよ。誤差はせめて50cmだね」
「うわー蓮からしたら私もまだまだってこと?きっついわね」
「でもナナのあの動きからして、そのくらいしかずれてないのは凄いことだと思うわ」
「ありがと、エルザ。ほら!勇者からお墨付きもらったわよ」
「いやいや、僕からしたらもっと精進が必要だよ」
「こら!そこの少女!私を無視しないで質問に答えなさい!」
「「「私(僕)たちの会話に口を出すな!」」」
「ひぃっ!!!」
横から五月蠅いからつい怒鳴っちゃった。それも僕と奈々とエルザのハモリ付で。って誰が横から口を出してきたんだっけ?あ~おっさんのこと忘れてたよ。
「おのれおのれおのれおのれおのれ!!!エルザさん!異世界の少年に少女!この私をここまで侮辱したのは貴方たちが初めてですよ!」
「ごめんなさいおっさん。すっかり奈々のことで忘れてたよおっさん。決して無視したわけじゃないんだよおっさん。だから仕切り直しといこうかおっさん」
「ぐはぁっ!」
ここは一応素直に言い訳と謝罪しておこうとひたすら謝り倒したら…怒鳴っていたおっさんがいきなりダメージ受けてぷるぷる震えながらうずくまってる。何で?僕何かした?
「…レンは精神"口"撃もできるのね…恐ろしいわ」
エルザが僕に対してそう言った。ん?なんで?僕は謝っただけだよ?
「蓮に悪気がないのがヤバいわね。ほら、おっさんを見てごらんなさい。地味にダメージ食らってるわよ、あのおっさん」
「ナナ…それ追い打ち」
奈々の言葉を聞いた途端、おっさんは真っ白になっていた。ん~心ここにあらず?
ちなみに奈々が何故ここまで強いのか。それは僕と同じく習い事をしているためだ。ただ、僕と違うのは色々な習い事をしているわけじゃない。如月流柔術という柔道・合気道・護身術等々を織り交ぜた、お爺様が考案した独自の柔術を習っているのだ。
そもそも如月流柔術の生徒は僕と奈々だけである。中学生時代に僕が習っていたところに奈々が後から習い始めたかたちだ。
その理由が『蓮が習っているなら私も習う!蓮と組手して絶対勝つんだ!勝って……ごにょごにょ』と最後は聞き取れなかったけど、何か目標があるらしい。
それこそ血を吐くような稽古…は奈々には無かったなぁ。僕は毎回毎回吹っ飛ばされて全身傷だらけだったけど。そのたびに奈々に『よくあんなにやられて死なないわね。ま、死んだら困るんだけど』と介抱されてた。
死んで困る理由を聞いたら『えっとえっと…そ、そりゃぁ、蓮を負かすために習ってるんだから…こんなところで死んじゃダメよ!うん!あの目標だってあるんだし!』と分かったような分からないような理由を並べられた。とりあえず奈々にとって僕は目標らしい。
そうこうしているうちに精神ダメージからいつの間にか復活したおっさんが僕たちを憎悪の目でにらんでいた。今までの中で一番殺気が感じられる。
「さすがにここまでコケにされて私もさすがに本気を出さなきゃいけないようね!」
「頼みの黒犬がいなくなったパールバイヤーに何ができるというの?」
エルザのその言葉を聞いてニヤリとおっさんが笑った。エルザヤバい。それ言っちゃいけないフラグだと思うよ。
「どうやらエルザさんは私が下僕を使役させるだけと思っているようね。でもね、私のジョブは下僕を操るテイマーじゃないのよ?」
おっさんの廻りの気がざわめくのが分かる。今までの軽いノリじゃなくなったのは確かだ。どう出るのか分からないからちょっとだけ危険かも。
「出でよ!我が眷属!サンダーウルフ!」
そう叫びおっさんの廻りの時空が歪むのが見えた。下僕の次は眷族なんだ。そして出てきたのは…
「……また黒犬?」
「蓮、さっきの黒犬とはちょっと違うみたいよ」
「そうね…黄色い縞々が入ってるわね」
そう、おっさんの廻りには数十匹に及ぶ黒と黄色の縞々がいかにも狂暴そうな狼が現れていた。でもその狼…何かバチバチしてる気がするのは…ひょっとして?
「いきなさい!我が眷属!暗き闇より生まれ出し獣よ…雷鳴を身に帯び我が敵を叩け!ライトニングジャベリン!」
おっさんが呪文らしきものを呟き叫んだ途端、狼が放電した。その雷の束は一つになり、大きな雷撃となって真っすぐに僕たちに向かって飛んできた。
「あれ?これあの噂の10万ボルト?!」
「何言ってんのよ!蓮!国民的ゲームに出てくる雷撃系なんとかチュウを敵に回すようなことは言わないで!」
「会話の内容がよく分からないけど、避けないと危険よ!これ!」
雷撃が僕たちに『横方向から落雷』する寸前、ギリギリのタイミングで三方に飛びのいた。
その瞬間…
『ドガバキグシャバリバリバリバリ!!!』
何とも言えない破壊音を轟かせてつい数秒前まで僕たちがいた場所に雷は落ちた。そこには黒く焼け焦げた穴が空いていた。
あ~あ、ここ公園なのに…こんな大きな穴空けちゃって…。結界張ってあるようだけどちゃんと戦闘が終わったら元に戻るのかなぁ…。
そしてまったく関係ないけど、雷って目の前に落雷すると爆発音みたいだよね。
「ふふふ…うまく避けたようですね。でも今度は外しませんよ?」
「ちょっと質問だけどいいですか?おっさん」
「だからおっさん言うな!……へっほん!何かね?異世界の少年よ」
一瞬だけどおっさんのカマ言葉がなくなったようにみえたけど、よっぽど『おっさん』ワードが気に障るらしい。使いどころに注意かな?
で、おっさんが僕の質問に答えてくれそうだから聞いちゃおうっと。
「今のって雷系の魔法?」
「ふふん!その通りよ!少年!私はテイマーの実力もあるけど、本当はソーサラーなんだから。あのサンダーウルフを媒介として落雷の魔法を唱えたのよ。言うなればサンダーウルフ以外でも魔法の素となる魔物を媒介にすれば水系、土系、火系、風系とか、色々な魔法が使えるのよ!媒介にする魔物の属性の数だけ私は魔法を唱えることができる!魔物の属性の種類だけ様々な魔法が扱える!これこそテイマーとソーサラーの複合!超ソーサラーなのよ!」
悦に入ってるよおっさん。こっちから聞いてもいないことを全部話してくれた。でもそのおかげでいくつか分かったことがある。まずこのおっさん、ネーミングセンスが壊滅的にないってことかな?何?超ソーサラーって。そしておっさんはそこまで強くないんじゃないかなという疑問が僕には沸いた。
そもそもの話、魔物の属性を媒介にするってことは、おっさん自身は属性魔法を唱えられないってこと。あくまで僕の予想だと、おっさんの力はテイマーの付加機能みたいなものでは?しかしながら魔力が莫大にあればテイムする魔物も増えたり、その魔物が発する魔法が強大になるかもしれないので脅威なのは確か。
今の段階ではそこは分からないから強いか弱いかって言われると何とも言えないけど。もちろん相手を過小評価して返り討ちに遭うのはごめんだから要注意ってことで。
「ということで、エルザさんに異世界の少年少女。この辺で幕を引かせてもらうわね。来たれ!エアバット!」
おっさんが叫ぶとそこにはたくさんの蝙蝠が現れた。エアバットって呼んでたから…風系かな?
「暗く狭い空間より這い出し空を舞う獣よ…空間を切り裂く力で我が意のままに!エアカッター!」
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