第4話 可愛い妹のためなら兄は何でもします?

 翌朝。今日は週末で学校が休みだ。しかし早起きする必要はないのだけど、身についた生活リズムに抗うことができずいつも通りの時間に目が覚めてしまった。

 しかし目覚めたときに、見覚えのある自分の部屋でないことに違和感を感じた。自分がどこにいるのか寝起きの頭ですぐに理解できなかったけど、昨晩のやりとりでここがリビングであること、普段寝なれないソファベッドで寝たことを僕は思い出した。


 喉が渇いたので水でも飲もうと起き上がろうとしたけど、どうも腹のあたりと足のあたりが重い。昨日の疲れと寝慣れないところで寝たからなのかと思って目線を下に移すとそこには…


「く~」

「んん…」


 美少女二人が寝てた。どういうシチュエーション?これ。


 

-数十分後-



「それぞれの部屋で寝るように言ったはずの二人が何故ここにいるのか、説明してほしいんだけど?」


 お腹に覆いかぶさるように寝ていて、顔に僕のパジャマのボタンの跡がくっきりと残ってる奈々。

 そして僕の足を抱えて寝ていて、寝相が悪かったのか貸したスウェットの上着がまくれて下乳が見えそうになっていたエルザ。

 僕はこの二人をすぐにたたき起こし、僕の前で正座させて詰問した。


「え…何故って…」


 ボタンの跡と口元によだれがついた奈々がエルザを見る。


「だって…」


 さすがに下乳を見られたからか、いまだに真っ赤になってるエルザが奈々を見つめる。


「「蓮(レン)と一緒に寝たかったから」」

「それを防ぐために別々の部屋にしたんでしょーが!」


 二人そろって予想通りの回答をしてくれたので間髪入れずに僕はツッコミを入れ頭を抱えた。

 でも頭の片隅では『絶対どちらかは下に降りてきて何かしようと企むのでは?』と思ってたからなるようにしてなった、という感じかな。

 …二人そろって仲良く寝ていることは予想外だったけど。


 ちなみに僕は、いつ夜這いもどきに来るのか、来たら追い返さないと…と思いながら寝落ちしたので寝不足気味である。さらに普段寝ているベッドと違って寝心地があまり良くないソファだったからか身体がボキボキとなる。

 そこにトントンと軽い足音で階段を降りて来る音が聞こえてきた。この降りてくる音は…


「あ、おにーちゃんおはよー」

「おはよう、美華」


 美華が起きてきた。僕らがここにいる以上、階段を降りて来る可能性があるのは父さんか美華しかいないんだけど。

 ちなみに美華はいつも着ているうさぎの着ぐるみパジャマだ。うん、我が妹ながら可愛いね。


「みんな早いねー。ななちゃんとえるざちゃんも早起きさんなんだね」

「「あ…あはは…」


 乾いた笑いを残す二人。そりゃまさか早起きした理由が『僕を夜這いしようとして意気投合したらそのまま二人とも僕のそばで寝てしまいました。そして僕に叩き起こされました』なんて言えないよね。


「まさか二人ともおにーちゃんと一緒に寝たいから、夜中にこっそりおにーちゃんのところで寝てた、なんてないよねー」


「「………」」


 にこりと笑いながら語りかける美華。げに恐るべしは我が妹か…


 そして美華は違う爆弾を僕たちに投下した。


「そーいえば朝ごはんどうするー?あたしが作ろうかー?」


 ピシッ!


 瞬間、僕と奈々の表情が固まった。エルザは何も分かってない顔だ。


「大丈夫よ、美華。私が作るから」

「えー、でもあたしも美味しいの作って、おにーちゃんにいいこいいこしてもらいたいなー」


 あぁ、我が妹。その言葉だけで頭をなでてあげるよ。だって、もうになるのはこりごりだから…


「あら、ミカが作っては何かいけないの?」


 ピキィッ!


 再び僕と奈々が固まる。いけない!エルザ!君は少し黙っていて欲しい!今は安寧なときを過ごしたいんだ。家族の平和がのちには世界平和にだって繋がるんだから!多分。


「聞いて!えるざちゃん!あたしが何かご飯を作ろうとすると、おにーちゃんとななちゃんが作らせてくれないんです!ひどいと思いません?」


 ほっぺをぷっくり膨らませてプンプン顔になる美華。さすが我が妹、怒った顔も可愛いな。エルザは困った顔をしている。

 そりゃそうだよね。何で僕たちが美華に料理をしてもらうのを避けてるのかわからないんだから。でもだまされるなエルザ。美華の作る料理は…


 僕と奈々は顔を見合わせ頷き、エルザに『空気読め』と念を送った。


「そ、そうなのね。でもねミカ。レンもナナもミカが大事だから料理中に怪我をしないようにって意味で作らなくていいのって言ってると思うのよ」

「えー?あたしだってもう中学生だからお料理に挑戦してみたいって思ってたんだけどなぁ…おにーちゃん、ななちゃん…そうなの?」


 ナイスだエルザ!僕たちの何かしらの圧を感じたのか、少し怯えた顔になりながらエルザは美華に言ってくれた。そのフォローに僕と奈々はノることにした。


「そうだよ美華。この間作ってもらったときだって包丁を使う手つきが危なかったよ」

「おにーちゃん…あたしが作ったの卵焼き…」


 しまった!卵焼きに包丁は使わない。フォロー失敗。


「そ、そう!火を使ってるとき火傷しそうになってたわよ」

「ななちゃん…そういってこの前はあたしをコンロから遠ざけていたよね?」


 あれ?フォローもらったのに僕たち段々と墓穴を掘っている?


「おにーちゃんもななちゃんもひどい!あたしに料理を作らせないつもりだよね!あたしだたって作れるもん!難しいのは無理だけど簡単なのなら大丈夫だもん!」


 半泣き状態になってしまった美華。その姿を見て困り果てた僕と奈々。そして事情を知らないエルザが折れた。


「ま、まぁ、ミカも挑戦したいと言ってることだし、ここは一緒に作ってみたらどう?レン、ナナ。危なそうだったら止めればいいでしょうし」

「えるざちゃん…」


 う゛…美華の涙に僕は弱い。そしてエルザの気遣い。僕と奈々はお互いに頷いて折れることにした。


「分かったよ美華。とりあえずみんなで一緒に朝食を作ろうか」

「うん…ありがとーおにーちゃん!」


 泣き笑いの表情の美華が僕にそっと抱き着いてきた。やっぱり僕は美華に弱いな…

 奈々も複雑な表情を浮かべながら美華を説得するのを諦めたようだった。


「さて、それじゃ何を作ろうか。美華は食べたいものがあるかい?」

「あたしオムレツとウインナーがいい!」

「ホテルみたいな朝食ね、いいわ作りましょう」


 エルザは勝手が分からないため見てもらうだけにしてもらい、僕と奈々、美華が動き出す。


「えっと…卵を溶いていけばいい…んだよ……ね!」


 カチャカチャ!


「隠し味に…ちょちょ~い。あ、これも加えて一味入れちゃおうっと」


 ドボン!

 ドババババ!


 オムレツを作るため美華に溶き卵を作ってもらってるんだが…

 ちょっと待って。ただ卵を溶いてるだけなのに…何?今の言葉と何か入る音は。

 恐る恐る美華に確認しようと…


「あ、ウインナーもボイルしないとね!沸騰したお湯にウインナー入れて…お塩と…ウインナーに味付けるために…これも!」


 ザラザラザラ!ポチャン!


 待った待った待った!何を入れたの?塩って?スパゲティ作ってるんじゃないんだよ?それに入れる量の音が違わない?隠し味レベルじゃないでしょ!

 そして最後の『ポチャン』って?!


 美華のそばにいるはずの奈々を見ると…固まってる?状況を確認するため奈々に聞こうとしたけど…小声が聞こえる?

 

「あは、あはは…卵に麦茶…タバスコ……」


 壊れてた。どうやら現実逃避していらしい。

 僕はせめて、できあがったものを人が食べても死なないものであることを祈るしかなかった。

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