第2話 女三人寄れば姦しい

「えっと…私も蓮の家に泊まる!」


 発端は奈々のこの言葉だった。

 理由は簡単、エルザがこの家に寝泊まりするようになるからだ。


「だっておかしいでしょ!年頃の男女が一つ屋根の下に寝泊まりするなんて!なんか間違いがあったら……ど、どうするのよ!」


 奈々よ、君はすっかり頭から抜け落ちてるだろうが、この家にはまず父さんがいる。そして美華もいる。まかり間違ってもは起きないと思うけど。

 そして僕は少しだけ奈々にいじわるをしてみたくなった。


「奈々、『間違い』って何?」

「ま、間違いは……間違い…よ。ほら、男女が一つの部屋ですることなんて…ひとつしか…ないじゃない……その……ごにょごにょな……ことよ」


 最後の方は聞こえなかった。奈々もがんばったんだ。多分。


「だからね、美華もいるし父さんだっている。エルザも別の部屋で寝てもらうことになるから何も起きないよ」

「え?レン、一緒に寝てくれないの?」


 ピキッ!


 あ、奈々のこめかみに青筋が…

 エルザ…お願いだから起爆剤投下はやめてほしい。せっかく円満解決できそうだったのに。


「エルザは使ってない母さんの部屋で寝てもらう。異論は認めない」

「え?私はどこで寝るの?」


 どうやら奈々は『僕の家に泊まらない』という選択肢はないらしい。


 僕の家は二階建ての一戸建ての4LDK+S。

 一階がリビングと水廻り。二階には僕の部屋と美華の部屋。そして父さんと母さんの部屋、父さんの執筆用書斎がある。

 父さんと母さんの部屋が別々にあるのは、お互いの生活サイクルが違うため、睡眠の邪魔をしないためのもの。

 ちなみに夫婦仲は良好だからね。


「奈々、お願いだから自分の家に戻って自分の部屋で寝てくれ…話がややこしくなる前に」

「嫌よ。私だって蓮と一緒に寝たいもの!」

「「「!!!」」」


 父さん、美華、エルザがそれぞれの表情を浮かべた。何この僕だけへの羞恥プレイ。

 父さんはニヤニヤ、美華もニコニコ、エルザは少し不貞腐れてる。

 そもそも奈々は爆弾発言したことにあまり気付いてない。自分がどれくらいの規模のナパーム弾を放ったか。


「今さっき言ったことが特大ブーメランになってるぞ、奈々」

「い、いいじゃない!お隣同士なんだし!小さいころから一緒だったんだし!お風呂も一緒に入った仲だし!今更隣に蓮が寝てたってドキがむねむねすることなんてないんだから!」


 はぁ~と僕は大きなため息をついた。お風呂にっていつのことを出してるんだか。こうなると奈々は考えを曲げないことは長い経験から知っている。

 言っておくけど、奈々と一緒にお風呂入ったのなんて幼稚園の頃だからね。

 しかしドキがむねむねって何?。怒気がムラムラの間違いじゃないかい?ほら、隣にいるエルザから漂ってくるよ。怒気ムラが。


 仕方ない、僕は折衷案を出して折れることにした。


「分かったよ…僕はリビングで寝るから奈々は僕の部屋使っ「嫌!一緒に寝る!」っておい…」


 折衷案は3秒で却下された。どうしろと…


「分かったわ。私とナナが一緒に寝ましょう。お互い同じ部屋ならそれならいいでしょ?」


 エルザが『これでどう?』的な笑みを浮かべてる。まぁ、これが落としどころかな。これで一安心…


「あたしとおにーちゃんがいっしょに寝て、ななちゃんがあたしのへやで寝るのはどう?」

「「「えっ?」」」


 ここまで黙っていた美華がニコニコ顔で助け船を出してくれた。うぅ、いい妹を持ったよ。本当兄思いのいい子だ、美華は。


「あたしも久しぶりにおにーちゃんといっしょに寝たいし、いっせきにちょーでしょ?」

「むむ!それでもいいんだけど…何か腑に落ちないような…」

「偶然ねナナ。私も何故か『これはいけない』と頭で警鐘が鳴ってるわ」


 奈々とエルザは僕と美華を交互に見てそう意見の一致をみたようだ。何故だ?僕と美華は仲が良い兄妹だ。これ以上にベストな選択肢はないぞ?


「あのね、美華。あなたももうすぐ14歳よ?中学生なの。いくら兄妹でも一緒のベッドで寝るのはそろそろ卒業しないといけないの」


 奈々がお姉さんぶって美華に言うが、我が妹はどこ吹く風。


「でも~ななちゃんとエルザちゃんはおにーちゃんといっしょに寝ようとしたんでしょ?だったらあたしだっていいはずだよ?」

「「うぐっ!!」」


 妹に正論で言い負かされていた。二人の頭に特大ブーメランが頭に突き刺さってるのが見えるよ。

 弱いぞ二人とも。頑張れ!高校二年生…ってあれ?


「というか、エルザって何歳?僕とほとんど変わらないと思うけど」

「女性に年齢を聞くのは失礼じゃない?蓮」


 いや、さすがに二十歳を超えてる女性にずけずけとは聞かないよ?そこまでデリカシーを溝に捨ててないよ。同い年くらいだから聞いても大丈夫だと思って聞いてるんだから。


「あら、言ってなかった?私は19歳よ?」

「「年上じゃん!!」」


 見事に僕と奈々の声がハモッた。


「あら、二人とも年下だったのね。だったらここは年長者である私の意見が尊重されるのかしら?」


 妖艶に微笑むエルザ。君もそんな表情できるんだね、というか美華の前でそういうのは教育上悪いからやめてくれないかな?


「う゛う゛う゛~~~~」


 あ、奈々が唸ってる。これは勝負ありか?

 でも待てちょっと待て。そうなると僕は自分の部屋でエルザと一緒に寝るのか?それは勘弁してほしい。でも年長者はエルザだし…


「あ~現在のこの家で年長者は私なんだけどね」

「「「あ゛…」」」


 今まで黙っていた父さんが発言した。ごめん、すっかり忘れてた。


◎ ◎ ◎


 深夜。


「私です」


 電話の相手はすぐに出た。


「奴らが動き出しはじめました」

『分かっておる。しかし思ったより早かったのぅ。してどんな状態だ?』

「とりあえず力は使わず今回は退けたようです」

『うむ、奴らの活動が活発になるかどうか…もうしばらく様子見といこうか』

「わかりました」


 終話。

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