第二章 勃発 女の戦い?
第1話 訪問!如月家
本当、何で今日は学校から帰るだけでこんな目に遭うんだろうか。
空から女の子が降ってきて、それを追ってきた中年と黒犬と一戦交えて、さらに黒い騎士さんが僕に襲い掛かってきたのをあしらって、しまいにはいけない世界の入口を垣間見たような気がする。
あれ?最後は違うか。
何はともあれ、やっと僕とエルザは自宅へとたどり着くことができた。ふ~長かった。家の中、二階にある一つの部屋からは明かりが煌々と点いているのが分かった。父さん頑張ってるんだろうな。
「ただいま~」
僕は家の中に入「おかえりなさ~い!おにーちゃん!」ろうとしたら何かが飛んできて僕にダイブした。
長い黒髪を左右でおさげにした女の子。僕の4歳離れた妹で、中1の
典型的なお兄ちゃんっ子で僕にすごく懐いている。もちろん僕だって美華のことは好きだから飛んできた美華を抱きしめてあげる。
そして…
「今日は遅かったのね。ご飯にする?おかずにする?それともお・み・そ・し・る?なんて♪もう夕飯の準備はできてい…る……隣にいるのどなた?」
美華の後ろからエプロンをした、少し茶色がかったセミロングの髪の毛をバレッタでまとめている女の子が歩いてきた。よく見知った顔。いつも見る顔。
ただ出迎えの言葉の前半と後半で温度差が激しい。満面の笑みで出迎えてくれた前半に対して、後半は一瞬にして鬼神のごとくの表情になってた。怖い。
そして、何番煎じか分からないけど、食べ物しかないネタはやめなさい。だからといって、『それともわたし』ネタはもっとやめておいてね。美華への教育に悪いから。うん。
僕の家である如月家は、僕と父さん、母さん、美華との4人家族である。母さんは商社で働いており国内外出張がよくあるため、食事から洗濯など家事全般を隣に住んでいる奈々がわざわざ毎日来てやってくれているのだ。
最近は美華も家事を少しずつだけどやりだしてるけど、奈々にはまだまだかなわない。
僕も食事なんか少しは作れるし、最悪カップ麺とかなんでもいいと思って、毎日来なくていいと伝えたけど、奈々いわく
『そんな不衛生な食生活してたら倒れるでしょ!蓮だってまともな料理なんて目玉焼きしようとしたらスクランブルエッグになっちゃったものしか作れないんだし!おじさんだって忙しいし作れないんだから!そもそも美華が栄養失調になったらどうするの!私が作ってあげるわ!』
そんな感じで勢いに負けて、我が家の第二の母となってしまった。
もちろん、美華なんかは小さいころから奈々を姉のように接していたから毎日来てくれることに大喜び。
『おにーちゃんとななちゃんが結婚したら本当のおねーちゃんになるね』
とてもものすごい爆弾発言を投げてきたことがある。
そしたら奈々は、
『えとえとえとえと、私は美華のことが心配だから如月家に来てるのよ?れ、蓮のことはちっともさっぱりどうでもいいんだから!』
ツンデレ爆発。ついでに思考も言動も爆発状態になって壊れた。
そんなこんなで如月家の胃袋から生活までほぼ全てを支えてくれる幼馴染の奈々だけど、今はとても不機嫌だ。理由は明快。僕が女の
そして当のエルザは、
「ここがレンの家かー。はぇーほーふー。」
と意味が分からない言葉を吐きながら興味深々な様子で僕の家を眺めて、奈々の様子にほとんど気付かない。いや、気付いてないフリをして胡麻化してる。何か言いながらチラチラと奈々を見ている。バレバレですよ、エルザさん。
「おにーちゃん、このきれーでななちゃんのライバルになる女の人はだれ?」
ピキッ!
そんな音を立てて如月家玄関周辺の時間が止まった。美華よ…言ってはいけないことを…。場の空気を変えないと!変えないと…
「あーとりあえずお腹すいたから、ご飯食べながら色々と説明してもいいかな?」
「ふん!だ!用意してあげるわよ!ちゃんと聞かせてよね?そのきれいな女の子との関係を!」
「レン、私も色々と聞かせて。この目の前にいるツンツンした子とちんまい子の関係を」
「おにーちゃん、もてもてー」
帰宅早々に疲れた…。
◎ ◎ ◎
「で、そのエルザさん「エルザでいいわ」あ、ありがとう。で、エルザは違う世界から飛ばされてきて、エルザを追ってきた敵と蓮は戦ったってことでいいの?」
奈々の二行で片付いた説明。たかがこの内容を何時間もかけてやっていた僕とエルザ、そして作者っていったい…
ちなみに今日の夕飯は鯵の開き、じゃがいもとにんじんなど根菜の煮物、冷奴、キャベツとかいわれのサラダ、ネギとキャベツの味噌汁、それと炊き立ての白米だ。
奈々は料理が得意である。特に煮物系を得意としていて、このじゃがいもなんてホクホク、口の中に入れるとホロリと崩れてしまう。だからといって味は芯まで染みており、甘辛い出汁と良く合う。これだけでご飯何杯でもいけてしまう。
「ななちゃん!
「はいはい、美華、落ち着いてゆっくり噛んで食べなさい」
「はーい!」
「む、この赤い実は美味しい…味がすごい染みてる」
「人参でしょ?じっくり弱火~中火で煮ると味が染みて美味しくなるわよ」
「美味しすぎるわ…本当。ナナは料理上手なのね」
「ありがとう、エルザにも料理教えてあげるね」
何この団らんとした雰囲気。一触即発状態だった奈々とエルザも食卓を囲んだら同性のためか意気投合。和気藹々と会話しだしている。
「ん~何か娘が増えた気がしていいね、これは。蓮、そう思わないかい?」
そう話しかけてきたのはこの家の主であり、僕の父親の
職業は…ライトノベル作家。
話に聞いたところによると、高校時代からWeb小説への投稿をしていたらしいけど鳴かず飛ばずを繰り返していたらしい。
大学時代は課題に明け暮れて投稿はしていなかったらしいが、卒業後に一般企業に就職したけど
そして一般企業を退職し、今では売れっ子ライトノベル作家となって日夜執筆に明け暮れてるってわけ。
「とりあえず父さん、エルザの件だけど…」
「ん~分かってる分かってる。私の客人として迎えておけばいいんだろう?」
そう、僕が考えていたこと。エルザの処遇について。
こっちの世界に知り合いがいないエルザは、このままでは露頭に迷ってしまう。文化も違う世界に一人取り残されたら…どうなるか予想に難くない。
今さっき本人が言ったように、親切心で話しかけてくれた人、悪意ある人関係なしに一触即発、最悪の場合殺してしまうかもしれない。とりあえずこちらの世界での常識が足りないのだ。
その点、ライトノベル作家である父さんの客人として近所の皆さんに周知できれば、剣や鎧などの奇抜な恰好も稀有な目で見られなくて済む。あ、当然近所の皆さんは父さんの職業は知っているからね。
ひょっとしたらエルザの故郷の話が、父さんのネタとして提供できるかもしれない。そうしたら父さんの執筆欲もアップする。
さらにエルザは衣食住、父さんからこっちの世界の常識を教えてもらうという、人間には基本的要素も満たされることになるので、一石二鳥ならぬ一石三鳥を僕は目論んでいた。
唯一懸念していた同性同士の仲、美華や奈々との関係は見たところ今のところ良好みたい。これならしばらく何とかなるかな?
僕はそう考えながら夕食を続けた。
でもそれは非常に甘い考えだということにこのあと気づかされるのだった。
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