第6話 素敵…惚れちゃう…(誰?)
僕の竹刀の剣先で相手の剣の切先を受け止めたまま、僕と暗黒騎士はにらみ合っていた。
「え?え?どうなってるの?」
「な、なんだよ、それ。俺の必殺の一撃を受け止めるだけでなく、切先同士をぶつけて止めるなんて…どういう技だ、そりゃ!」
エルザは何が起きてるのはよく分かってなく、目の前の暗黒騎士は震えてるように見える。そりゃそうだよね、竹刀は確かに剣より先端の太さはあるけど、それを剣先にピタリと合わせて、それで相手の剣を止めちゃうなんて。自分でやっててすごい技だと思うよ。
「て、てめぇ!何者だ!」
…な~んか同じような台詞を今さっきも聞いたことあるし、答えたこともあるなぁ。同じこと答えるのもちょっと面倒くさいなぁ。
「ねぇ、今度は僕から攻めてもいいよね?」
「「えっ?」」
そりゃ、やられっぱなしは僕だって嫌だよ。少しくらいはやり返したいしね。だから一応お伺いをたてたわけだけど…
だからといって何でエルザまでそんな間の抜けた顔をするかなぁ?僕間違ったことは言ってないよ?
返事を待とうと思ったけど、先方さんは結構攻めまくってきたから僕から何も言わず攻める権利もあるはず。うん、ちゃんと許可を求めたよ。許可はもらってないけど。
僕が竹刀を引いて構えを取ると同時に、暗黒騎士も我にかえって剣を構えようとした。でも、その動きは僕より半歩ほど遅れていた。戦いのときに少しでも気を抜くのは命取りになるよ。
だから…
僕は竹刀を右肩に担ぎ上げ、剣を構えようとした暗黒騎士との距離をゼロ距離にし、左肩から斜めに袈裟切りをお見舞いしようと振りかぶる。
「そ、そんな木で覆った剣なぞ効くはずないわ!俺の剣で受け止めて…」
僕はその声に構わず左肩に振り下ろした。そして…
『バキッ!ビキビキィ!』
構えていた剣が折れ、黒い鎧にひびが入る音が響き渡った。
いくら鎧を装着していたとはいえ、その鎧にひびが入る衝撃だ。骨の何本かいったかもね。一応手加減はしたつもりなんだけど。
「うぐぁぁぁぁ!!!」
暗黒騎士が兜からちらりと見えるだけでも分かる苦悶の表情と呻き声をあげた。やっぱ痛いよねぇ、それ。でも僕は手を緩めないよ。
返す軌道でその黒い兜を撥ねる。真一文字に振った剣筋は見事に兜ごと、暗黒騎士を吹き飛ばした。おぉ、よく飛んだなぁ~5メートルくらいは吹っ飛んだぞ。
吹っ飛んだ暗黒騎士はジャングルジムに当たって、弾かれて滑り台の上に落っこちてそのまま滑って砂場に落ちていった。何という新しい遊びだ。良い子は真似しちゃダメだよ。
あ、でも結構な勢いですっ飛ばしたけど、死んではいない、よね?砂場に落ちたあと、ピクリともしないけど。
「…………」
ふと振り返ると唖然とした表情のエルザ。ん?何かおかしいかい?
「な、ななな…な、なななななあー!」
あ、またエルザが壊れた。
僕は振り抜いた竹刀の様子を確認する。少しだけ弦が割れちゃったかな?でも折れてはいないみたい。上出来上出来。
「何よ!あれ!すっ飛んでいったわよ!たかが木の棒ごときで吹っ飛ばして非力に見えるのにそんな馬鹿力であいつは強いはずなのに!」
うん、ちょっと落ち着こうか。言いたいことは分かるけど何言ってるか分からない。そもそも竹刀は木の棒じゃないからね。
僕がエルザに向かって歩き出した途端、ものすごい殺気が背後からした。あっちは…暗黒騎士が吹っ飛ばされた方角だ。良かった、生きてたみたい。
砂場を見ると、禍々しいオーラを背後に暗黒騎士が立っていた。兜は吹っ飛ばされたときにどこかにいったらしく、今は完全に素顔が見えてる。金髪でやっぱりイケメンだった。顔に似合わず口調が悪いって…なんて残念な暗黒騎士。
「小僧!貴様!許さんぞ!俺様の最終秘技で葬ってくれるわ!」
どんどんとオーラが増していく。そのオーラが折れた剣に集約されていってる。見ていると折れた部分がボワッとして、剣の形になってる。あれ?結構ヤバイ技じゃない?まともに喰らったらちょっと痛いかも。
「死ね!Dead or Death!!」
ちょっと待って。意味が分からない。そのオーラよりもその技名について異議を申し立てたい。何?その『死か死』って技名。他の選択肢ないの?例えば『Dead or Life』とか、『Die or Live』とか。
そもそも何でやっぱり技名が英語なの?異世界ドゥミールは英語が公用語なの?あ、でも日本語喋ってたなぁ。
そうこうしているうちに黒い塊となって暗黒騎士が文字通り飛んできた。まさに黒いミサイルのように。
「に、逃げてぇぇぇぇ!!!」
エルザの今日何回目かの悲鳴が結界の張られた公園に響き渡る。危なそうだからちょっとだけ本気出すかな。
僕は迫ってくる黒の塊と対峙し、そして…寸前で僕は上に飛んだ。暗黒騎士よりも高く。
「如月一刀流 落斬」
突っ込んできた暗黒騎士の上から僕は上段からの一太刀をお見舞いした。それは寸分の違いなく彼の背中を打ち付けた。
『ボグッ!』
「っ!!!」
鈍い音。そして声にならない呻き声。恐らく背骨とあばらが何本かいったはず。僕の落下の勢いそのままで彼の身体はそのまま地面にたたきつけられた。
暗黒騎士の鎧の背中部分は完全に割れ、他の部分もクモの巣状にひび割れていた。その暗黒騎士は白目を剥いたまま気絶していた。無理もない、相当な衝撃だっただろうから。
「終わったよ」
僕はエルザを振り返って伝え「何!その超人的な強さは!あいつはこう見えても五大将なのよ!強いはずなのよ!それをいともたやすく倒しちゃうなんて!レン!貴方強すぎるわ!惚れちゃうわ!もう疼いて仕方ないわ!」ようとしたら捲し立てられた。
そして何やら変な言葉も聞こえてきたけど気のせいってことにしておこう。特にどこが疼くとか…ね。
周りを見ると空間の歪みはなくなっていた。暗黒騎士を倒したからかね。でも、このぶっ倒れたのはどうしよう?持ち帰ってくださいなんて言おうにも単身で来ただろうからいないだろうし。
「ふふふ、なかなかいい腕をしているな少年」
…また何か来たみたい。もう疲れたんだけど。
声がした方向を見ると…やっぱり黒い鎧と黒いマントに身を包んだ人影があった。もちろん敵、ですよね。そうですよね。
僕は竹刀を身構えようとした。
「安心しろ少年。今日は戦うつもりはない。願わくばその少年が倒した騎士を引き取っていきたいのだが、構わないか?」
「あ、ちょうどどうしようか迷っていたんですよ。どうぞどうぞ。ご自由にお持ち帰りください」
願ったり叶ったりだ。ちょうど粗大ごみの日がいつか考えようとしたところだったから。
哀れズタボロ(にしたのは僕だけど)イケメンさんはお持ち帰りされることになりました。でも彼らの世界に801《やおい》はないよね?ただ連れ帰るだけだよね。百合なら僕でも許容できるけど。
そうこうしているうちにもう一人の黒い人は、ズタボロの黒い人を小脇に抱えていた。すごいな、大の大人を小脇に抱えるなんて。やっぱやお…なんでもないです。
「では、こいつは連れて帰る。改めて手合わせするかもしれないがそのときはやりあおうぞ」
いや、遠慮しときます。是非そのまま帰ってこちらに来ないでください、と声を大にして言いたいのを我慢した。
そして目の前で魔法陣が浮かび上がると黒の二人の存在が掻き消えた。
「ふ~、やっと終わった。エルザは大丈夫?」
エルザは顔を真っ赤にして立っていた。どうしたんだろう?後に出てきた黒い人に気圧されたちゃったかな?
「……すてき…濡れちゃう…」
僕を見ながらうっとりした目のエルザがそこにいた。
…誰に何をどう思ったのかは聞かなかったことにしよう。
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