第5話 キャー!イケメン!でも残念なイケメン辞典
「それじゃお爺様。稽古は改めて明日ということでお願いします」
「うむ、明日は今日できなかった分も含め、鍛錬するように」
着替えたエルザと僕は自宅へ帰ることになった。外に出ると夕日は西の空に見える。もう夕方の時間になっていた。そりゃあれだけ戦ってたら時間も経っちゃうよね。そのあとでお爺様の家だったし。
ちなみに物騒な剣は布でぐるぐる巻きにして大きい筒に入れておいた。さすがに抜き身のままだと通報されちゃうしね。
そしてエルザの格好は今さっきの赤銅色の鎧姿ではなく、白のブラウスに紺色のジャンパースカート姿で、髪の毛以外を見たら今風の女の子に見える。
ジャンパースカート姿になって分かったけど、エルザはスタイルが良い。今までが鎧姿だったから分からなかった、というのはあるけど、結構出るところは出てて、ウエストもくびれてる。僕だって男です。ちょっと見入っちゃったよ。
身長も僕よりちょっと小さいくらいだから165cmちょっとかな?ちなみに僕は172cm…って誰も興味ないか。
女の子でそのくらい身長があってスタイルも良く、さらに美人だから自然に目立つと、道行く人がすれ違うたびにエルザを二度見三度見していく。僕だって同じ立場だったら振り返るね。
「あの子美人~」
「モデルさんじゃない?」
「でも見たことないなぁ…今からデビューする予定なのかも」
「隣にいる男の子も美形だよね」
「美男美女のカップル…素敵」
街中を歩いているとそんな女の子の声が聞こえてくる。ん?僕の話題も出てる?気のせいか。
「ねぇ、レン。何かものすごく視線を感じるんだけど気のせい?」
気のせいなんかじゃないですよ。みんなエルザを羨望の眼差しで見てるだけです。
「…たまに殺気も感じられるんだけど…」
そ、それは嫉妬です!エルザのスタイルが良いことへの嫉妬の眼差しだから斬りかかっちゃダメだからね!あ!布から剣を出そうとしないで!
女の子からはそのうらやましすぎるスタイルへ。そして男からはそんな可愛いエルザと一緒にいる僕への、それぞれの嫉妬の眼差しを受けながら僕らは自宅へと向かった。
「また?」
「そのようね…また来たみたいよ」
既に夜の入口という感じで辺りは薄暗い。街中を抜け、場所は住宅街の中にある広い公園を横切っているところで、僕らは先ほどの嫉妬とは違うもの、殺気を感じて足を止めた。
ふと空間が歪むような感じがした。空間が歪むってすごく表現が難しいね。でもね、そう感じたんだから仕方がない。
「空間停止の魔法?!」
エルザが叫んだ。ということは…敵、だよね。
そう思っていると…
「貴様がパールバイヤーを苦しめたやつか!」
いつの間にか黒い兜、黒い鎧、黒い手甲…装備する甲冑すべてが黒い人(兜から見えた顔はイケメンで、さらにイケボ!)が目の前にいた。
あ、もちろん僕にそんな趣味はないですから。
「ヴェラヴィスタ!」
紹介ありがとうエルザ。どうやら目の前の人はヴェラヴィスタって名前みたい。でも威圧感は半端ない。この人…強いかもしれない。
「HAーHAーHAー!あのパールバイヤーの大量の黒犬を退けたと聞いてな!是非手合わせしてもらいたく来てやったぞ!WAHAHAHA!」
…前言撤回。強いのかもしれないけど…なんか残念そう…
僕が何も言えずにいると、隣のエルザが剣を取ろうとして…腰の辺りで手が空ぶってる。そりゃそうだ。エルザの獲物は布でぐるぐる巻きになってて僕の背中にあるのだから。
ふと気になったことがあったのでエルザに聞いてみる。
「エルザ、パールバイヤーって…誰?」
「ちょっと!何言ってるの!今さっき戦ったでしょ?!あの黒犬使いよ」
「あ~あの中年さんの名前か。で、今回はヴェラヴィスタっていうのか」
「そうよ、早く私に剣を渡して!」
「待って、今回は僕一人でやるよ」
「え?でもヴェラヴィスタは暗黒騎士なのよ?!強いのよ?めっちゃ!」
…『めっちゃ』ってどこで知ったんだ?
いやいや、ツッコミどころはそこじゃない。暗黒騎士ってことは強いんだろうなぁ…多分。性格は残念みたいだけど。
「うぉい!俺様を無視してこそこそ話をするな!どっちでもいいから早くかかってこいよ!」
「あ~すみませんね~準備までもう少し待ってください」
呑気に答える僕。多分この人は待ってくれる。なんとなくだけど。
「いいんだぜ?二人同時でも…な?」
そのイケボに殺気が籠っていた。うん、多分強いね。
僕はエルザの剣などの荷物を降ろし、自分の細い竹刀を手に持った。今回はこっちだな。
「大丈夫なの?!ねぇ!あいつ結構「ちなみにエルザとどっちが強い?」」
エルザの問いに質問で返す。いきなりの質問、そしてその内容に面食らうエルザ。多分彼女はあいつと手合わせしてるはずだ。エルザと同等かどうかで強さが分かるだろう。
「多分…互角だと思う…勝ったこともないけど、負けたこともない」
「うん、ありがとう。参考になったよ」
僕は明るく返事をして暗黒騎士と向かい合った。っとちょっと気になることがあるから質問質問。
「あ~お待たせしました。ちなみに聞きたいんですけど、空間停止の魔法って僕たちだけが動いてて、廻りの時間は止まっているいるで間違いないですよね?」
「間違いねぇ。俺とお前とあの女勇者だけの時間だ。まぁ、結界に近いな」
やっぱり。そしたら多少暴れても大丈夫かな?
「よっしゃ行くぜ!いきなりくたばるのはナシだからな!」
と言い放ちながらものすごい速さで突っ込んできた。あ、結構速い。
『ガキンッ!!』
僕は竹刀でその速攻を受け止める。ちょっと重いなぁ…
「「えっ?!」」
また声がハモって聞こえた。
一人はエルザから。もう一人の声の主は…
「お、お前…俺の剣を受け止め…たのか?」
目の前の暗黒騎士からだった。黒い兜だけど顔の部分は空いているので、その表情と声には驚愕の色が見て取れる。
「う~ん、結構重かったね。少しだけしんどかったよ」
剣を受け止めたことに対してなのか、飄々と返事をすることがバカにされたと思ったのか、どちらにしろ僕に腹が立ったのだろう、目の前の暗黒騎士からさっきよりも殺気があふれ出てきた。
「バカにすんじゃねぇ!今度は……どうだ!!」
嵐のように剣が僕に襲い掛かる。前から、横から、上から、また前から…当たったら致命傷になりかねない。そんな勢いだった。
けど僕は剣で勢いを逃がしたり、ステップで避けたりする。もちろん一発も当たらない。
「なんでだ!なんで当たらねぇ!俺様の剣が掠りもしないなんてどういうことだ!」
「そりゃ力技で来る人とまともにやりあわないよ…っと」
僕は避けながら返事をしてやる。うん、まだ余裕だな。
しかしこの人、随分と性格が脳筋だね。考えることも出てくる言葉も、この戦い方も。
「てってめぇ!!ふざけんじゃねぇ!!」
冷静に分析されたことに相当腹が立ったらしく、暗黒騎士は間合いをとって構えをとる。あ、これ『来る』よね。
「っ!レン!!!それヤバイの!逃げてぇぇぇ!!」
「遅ぇ!いくぜ!ヘヴィタンクアタック!」
今さっきとは比べ物にならないくらいの速さで、僕に剣を突き付けながら突っ込んできた。さながら重戦車、というより重ロケットみたい。
どうでもいいけど何で技の名前が英語なんだよ!英語しゃべれるんかい!
「ふははは!死ねぇ!」
黒い塊となって吹っ飛んできた暗黒騎士。僕は…持っている竹刀を正眼に構えて…
「如月流剣術!針央突き!」
前に剣を突き出した。刹那、激しい衝突音。巻き上がる土煙。
「れぇぇぇぇん!!」
土煙が晴れるとそこには…
竹刀の剣先と暗黒騎士の剣の切先同士が突きつけたまま立っている僕らがいた。
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