第4話 蓮、いや蓮様!

 紆余曲折あったけど、やっとお爺様の家へたどり着いた。

 本当に『紆余曲折』あったよ…異世界から来た人が陥るイベント全てこなしたからね。


 たとえば…


 『なに!この金属でできた馬は!』→バイク

 『なに!この金属でできた箱は!』→車

 『なに!今さっきの箱よりたくさん人が入ってる!』→電車

 『なに!上にあるこの線と棒は!』→電線と電信柱

 『なに!このいい匂いは!お腹が減るじゃない!』→ケバブの屋台

 『なに!この歩きやすい地面は!ただ固すぎるわ!』→アスファルト


 …もう疲れたよパト〇ッシュ…

 そんなこんなで、僕は身も体も精神もズタボロになったよ。

 でも、お爺様の家ではそんな態度はできない。気力を振り絞り、意識をはっきりさせて僕は望むことになった。


「ここなの?」


 エルザが訪ねてくる。


「そうだよ、ここが如月本家の屋敷。僕のお爺様が住んでいるところだよ」


 目の前に広がるのは古き日本家屋の見た目は巨大な武家屋敷。周囲は高いブロック塀が覆い、周辺の道路から中を見ることはできない。

 城門のような構えで侵入者は許さない、といった感じだ。


「レンのお爺様は城主か何かなの?」

「普通のお爺様だよ。あ、でも普通ではないかな?」

「??」


 分かったような分からないような表情を浮かべるエルザ。まぁ、おいおい説明していこうかな。


 僕が門のそばに来ると音もなく自動的にスルスルと門が左右に開かれていく。慣れてない人から見ると驚くだろうなぁ、この光景「なに!これ!何かの魔法?!」あ、驚いてる人がここにいた。

 種も仕掛けもなく門の上にカメラがあって、僕であると顔認識したから自動で開いただけだからね。


 ちなみに例えば僕が不審者に脅されて門の前に立った場合、僕の表面温度をサーモセンサーで感知して、極度に緊張していたり、体温がおかしい場合は開かないようになっている。そして門の上から投網のごとく不審者に網がかかる形になってる。


 こんなことは確か過去に何回かあったなぁ。僕を脅そうとした輩は、網にかかってその後は僕は知らされていない。

 あと、同級生でも僕をいじめようとして金を巻き上げるために実家に連れてこさせられたけど、同じように投網されてすったもんだの挙句、翌日いきなり転校していったような気がするけど。詳しいことは覚えてないや。


 それはさておき、門をくぐると…両脇に黒服を着た人がずらりと並んでいた。まぁ、いつもの光景なんだけどね。


「「「「「「「「「「お帰りなさいませ!!!蓮様!!!」」」」」」」」」」


 毎度この演出はやめてとお爺様にはお願いしてるんだけどなぁ…ほら、エルザの頭が処理しきれなくなって固まってる。


 並んでいる黒服連の奥から二人、歩いてくる人が歩いてくる。もちろん僕の見知った人だ。


「お帰りなさいませ、若。今日はちょっとだけ遅かったですね」


 やっぱり黒服を着ていて、背の高いサングラスをかけた人が挨拶をしてくれた。この『家』の『若頭』である長月ながつき当麻とうまさん。僕が小さいころから面倒を見てくれている、兄貴みたいな人だ。


「ただいま当麻さん。ちょっとだけゴタゴタに巻き込まれちゃって」

「なんだ?その『ゴタゴタ』というのは。そして隣にいる珍妙な格好をした女子おなごは誰だ?蓮、ちょっと説明してもらおうか」


 そう言ってきたのは白髪だらけで、頭髪と同じ色の顎鬚を伸ばしている老人。御年70歳を超えてるにもかかわらず背筋はピンと伸び、その目力めぢからは今まさに目の前にいる僕に襲い掛かろうかという勢いがある人物。

 僕のお爺様であり、ここ、『如月組』の組長である如月きさらぎ 文郎ぶんろうである。

 そう、僕の祖父の実家はこの辺りを牛耳るヤクザなんです…

 

「彼女はエルザ。父さんのです。道に迷っていたので僕と一緒に今から父さんのところに行くつもりです」

「ふむ、りくの客人か。それならばその面妖な格好も合点がいく。しかし目立ちすぎだな。着替えがあるから着替えていくがよい」

「ありがとうございます、お爺様。で、もう一つの質問である『ゴタゴタ』は、エルザが道に迷っている時、その格好からちょっとやからに絡まれてしまっていて…その相手をしてただけです」


 僕はお爺様に聞かれたときのためにを答えた。うん、筋は通ってるよね。あながち間違ってもいないし。

 でも女の子用の着替えが常備されてるって…どうやらここには僕がまだ知らない闇があるらしい。


「蓮、ひょっとして『力』を使ったのか?」


 お爺様の眼光がさらに鋭くなる。普通の人だったらこれだけで相当怯んじゃうだろうな。


「いえ、習い事程度の力しか使っていませんので大丈夫です」

「うむ。『力』を使うと後々面倒なことになるからな」


 僕は横にいるエルザをチラリと見た。あれ?なんか固まってるように見える。いや、目が点になってた。肘で小突いて小声で話しかける。


「どうしたのエルザ。何か心ここに在らずだけど?」

「え?えぇ…ちょっと…」


 エルザの様子が少し変だ。ひょっとしてこの黒服たちの状況に気圧された?でも勇者だよね?おかしくない…か。エルザも女の子だし。

 …そういえばエルザっていくつだろう?僕よりも年上かな?


「客人よ。その身なりは些か目立ちすぎる。服を用意させるから着替えてから陸のところに向かうが良い。その長物も布で巻くなりしてやろう」


 お爺様がエルザに改めて着替えるよう話しかける…でもエルザはやっぱりぎこちないままだった。ん~どうしたんだろ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る