第3話 苦虫って…どんな虫なんでしょう?

 僕は竹刀を迫ってきたブラックドッグに一閃。哀れそいつは10メートルくらい吹っ飛んだ。その先にあるのは川。ブラックドッグは中にポチャンした。

 溺れちゃうかな?あ、でも犬って泳げるから大丈夫だよね。例え全身打撲でも…大丈夫だよね。魔物だし。


 エルザを振り返ると…ポカーンとした顔になってた。

 例えるなら→( ゚Д゚)こんな感じかな?あ、中年の人も同じ顔になってる。

 ブラックドッグまで驚いてる、ように見えるかな?


「ななななな、なんですか!貴方は!あの力は!貴方も勇者なのですか?!」


 正気に戻った中年が唾を飛ばしながら叫んでる。汚いなぁ…。飛んだ唾が中年のそばにいるブラックドッグにかかってる。あ、ちょっと嫌そうな顔してる。


「僕は普通の人間だよ。ただちょっとそこら辺の人とは違うかもだけどね。ちなみにこの世界に『勇者』と呼ばれる人は僕の知る限りいないよ。」

「違いすぎます!あれは魔物なんですよ?!普通の犬とは違うんですよ!ただの黒い犬じゃないんですよ!」


 そのまま黒い犬なんて言っちゃブラックドッグが可哀そうだよ。魔物にもプライドがあると思うし、高位な魔物なんて人語を理解したり話したりするんだから。多分。


 呑気に会話しながら僕はエルザと合流する。エルザも我に戻ったみたい。でも何かエルザも色々聞きたいって表情かおになってる。


「レン…あなた一体何者?」


 そう思いますよねーそうですよねー。やっぱりそうなっちゃいますよねー。どうやら僕がやったことは中年さんの話からみるととんでもないらしい。

 エルザはものすっごい疑心暗鬼の目で僕を見てる。


「とりあえず見てもらって分かるように僕も戦力になるから、今はあいつらを追い払っちゃおうか。詳しいことは後程ってことで」

「え?えぇ、分かったわ。呑気に話し込んでる場合じゃないものね」


 僕とエルザはブラックドッグの群れに向き直り、構えをとった。それに気付いた中年がやっと我に戻ったようで反応した。


「どこの馬の骨だが分かりませんがよくも私の可愛いブラックドッグを退治してくれましたね!その恨み、ここで晴らしておきますよ!」


 中年が手を振ると一斉にブラックドッグが襲い掛かってきた。


「じゃ、とっとと片付けちゃいますか」


 僕は竹刀を正眼に構えたあと、一気に振りぬいた。

 

「如月流剣術!木の葉払い!」


 正眼から横一文字に竹刀を払う!迫ってきた5匹くらいのブラックドッグはそのままの勢いで弾き飛ばされていた。ん~ちょっと剣先がブレたかな?


「何をやってるのですか!我が下僕!さっさと沈めてしまいなさい!」


 可愛いと言っていたのに下僕なんて…ちょっとだけ目の前の黒犬に同情する。でも手加減はしないからね。

 背中合わせで戦っているエルザから声がかかった。


「レン…あなたすごいわね…この世界の人間…よね?」

「ま、ちょっと色々あってそこそこ腕には自信があるから」

「ありすぎでしょ…まったく。レン一人でいなせるんじゃないかしら」


 少し苦笑を浮かべながらエルザも黒犬を退治していく。

 ふと見ると、エルザの持っている剣は真剣なので魔物は真っ二つに切り倒される。でも血は出ずにキラキラと結晶となって消えていった。倒した後の処理がいらないのはいいね。


 僕も竹刀で吹っ飛ばしていて、気付いたらブラックドッグは全滅していた。


「なななななな!何故私の下僕がたった二人ごときにやられてしまうんですか!頷けません!納得できません!説明を求めます!」


 目の前には苦虫を200匹近く一気にかみつぶし、それでも青汁100杯飲んで、それでも足りずに世界一臭い缶詰のシュールストレミングの臭いを嗅いで不機嫌になった顔の中年がいた。

 さすがに僕もシュールストレミングの臭いは嗅いだことないけど。

 でも何やら中年は混乱してるみたいだね。宙に浮いてるから竹刀を当てることはできないけど…どうやってこの人倒そうかな。

 …って思ってたら、


「覚えておきなさい!少年!そしてエルザさん!一旦仕切り直しさせていただくわ!今度こそあなたたちを冥府に送ってやりますから!」


 そう捨て台詞を残してさらにさらに上へと昇っていった。上空で魔法陣みたいなものが見えたからそこから自分の世界に転移したんだろう。

 僕たちの廻りには倒されたブラックドッグの姿は見えなかった。ただ草を踏みつけた跡や、魔物ブラックドッグの足跡があったりなど、微妙に戦いがそこであった痕跡が残されていて、さっき起きたことが夢ではないことを実感した。


「お疲れ様、エルザ。何とか撃退できたね」


 僕は竹刀を竹刀袋に収めエルザに話しかけた。

 でもエルザの様子が変だ。なんだろう?鞘に自らの剣を納刀したあと、仁王立ちしてる。もしかしてケガでもしたのかな?


「ねぇ…レン…」

「は、はい?」


 なんか声色が怖いんですけど…


「今さっき私が言ったこと…覚えてる?」


 えっと…今さっき…って戦っていたときのことかな?

 僕が何も答えずにいるとエルザがこっちに振り向いた。あれ、少し怒ってる?


「あなた何者よ!魔物を簡単にあしらって!ものすごく強いじゃない!人間離れしてるわよ!えぇ、本当に!どうやったらあんなに強いのか説明してほしいわ!そうね!私が納得するまで説明してもらうわ!何よ今さっきの!如月流剣術って!そんなの見たことも聞いたこともないわ!さぁ!説明してちょうだい!早く!早く!!」


 …エルザが壊れてた。そして一気にまくし立ててきた。

 おかしいなぁ…僕間違ったことやったかな?そもそも剣術を『聞いたことない』って当たり前でしょ。エルザこっちの世界の人間じゃないでしょ?とツッコミをしたくもあるけど…


「とりあえず順を追って説明…ってもうこんな時間だ!急いで帰らないと!」

「待ちなさいよ!逃げるの?!」


 エルザさんが怖いです…逃げるわけじゃないよ。帰らないといけない用事があるんだよ…。

 でも一つだけ疑問がふと沸いた。


「エルザ」

「何よ!」

「一つ確認として聞くけど…君、どうやって夜を明かすの?こっちの世界に知り合いはいるの?泊まれるところあるの?」

「……………」


 あ、何も言わなくなった。

 そう、今さっきの中年に異世界転移させられたってことは、望んでここに来たわけじゃないってことだよね。さらにこの世界に前任者がいればそこを拠点にすればいいと思うんだけど、黙ったってことは…


「………ないわよ…悪かったわね」


 あ、ツン化した。 仕方ないなぁ…


「…ウチくる?」

「えっ?」

「行くところないんでしょ?エルザは強いけど、そんな恰好した女の子が夜一人で公園とかで野宿してたら、絶対職務質問されるよ?場合によっては補導されるよ」

「斬り捨てればいいわ」

「ちょま!それ一番やっちゃいけないこと!」


 なんてことを言い出すんだこの子は。大体予想はしてたけど…可愛い顔して考え方が過激だなぁ。


「(考え方が)危なっかしいし、(警察さんの)命が大事だから、(仕方ないから)ウチに来なよ」

「…何か変な言葉が混じってるような気がしたけど、気のせいよね?」

「うん、気のせい気のせい」

「じゃ、じゃぁ、お世話になってあげてもいいわよ」


 あ、今度はデレたけど上から目線だ。素直じゃないなぁ…

 でもね、人の言葉尻や心の声を読むのはやめてほしい。心臓に悪いよ。


「じゃ、とりあえずお爺様の家に寄ってから僕の家に行くよ」

「お爺様?何をしに行くのかしら?」

「まぁ、行けば分かるよ」


 いつもより時間が遅れた。急がないと。

 僕とエルザは連れ立って僕のお爺様の家へと歩きだした……んだけど、なんか廻りの目線がすごく痛いん…げっ!


「あっ!!!」

「どうしたの?大声だして」

「エルザの恰好だ!」


 そう、エルザは赤銅色の鎧姿で腰には剣を携えているから、さすがにこの姿は目立つなぁ。でもどうしようもないな、これ。


「何よぅ、私の恰好がどうしたってのよ?ドゥミールの勇者の由緒正しき鎧よ?」

「いや、そうじゃなくてね。この世界じゃ鎧着てることなんかないんだよ。それこそ時代劇とか特撮とかの撮影じゃないかぎ…そうか!」


 そうだよ、その方法があったよ。

 何が何だか分からないエルザを横目に、僕はカバンからノートを取り出し1枚引きちぎる。そこには太いマジックでこう書いておいた。


『映画撮影中』


 これを持っておけば、少しは奇異な目線も避けられるでしょ。なんたってこの街は撮影所がある街だし、ドラマ撮影とかもよくやってるしね。って前に言ったなこれ。


 改めて僕とエルザはお爺様の家へと歩き始めた。

 あ、エルザの表情が微妙だ。


「何が書かれてるのか分からない…」


 今度日本語教えてあげるね。

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