第2話 僕も戦えます(思ってるよりも強いですよ)

「逃げてー!!!」


 エルザさんが叫び声をあげる。その声にお構いなく、牙をむき出しにしてまっすぐに僕に向かってくる黒い犬。

 うん、犬…だけど犬じゃない。異世界の人が『行け』とか言っていたブラックドッグと呼ばれる魔物。

 とりあえず僕は向かってきたそいつに対して…タイミングを合わせて回し蹴りをお見舞いした。


『ドグッ』


 ものすごく綺麗にクリーンヒットしちゃった。


『キャィン!』


 そして魔物のくせに犬と全く同じ悲鳴をあげて吹っ飛んでいく黒い犬、もといブラックドッグ。まぁ、ブラック『ドッグ』だからねぇ。

 河川敷を相当距離吹っ飛んでごろごろ転がっていった魔物は…あ、遠くで立ち上がろうとしてる。以外とタフだね。さすが魔物。


「「えっ?」」


 あ、中年さんもエルザさんも呆気にとられてる。動物…というか魔物って動物なのかな?まぁ、生物虐待になるから蹴りたくなかったけど、あんなに殺気バリバリで襲い掛かってきたら…ねぇ?正当防衛だよね?ま、立ち上がったから大丈夫だね。


「異世界の少年!何者ですか!あなたは!」

「ちょま!なんでブラックドッグを蹴り飛ばせるの?!」


 蹴り飛ばした瞬間、あんぐりと口を開けて、吹っ飛ばされたブラックドッグを目で追いかけていたエルザさんと中年さんが口々に文句を言ってきた。やっぱ動物蹴飛ばしたらやばかった?とりあえず言い訳をしないと…


「そうは言われても…退治しなきゃ噛まれてたし…痛いし」

「そういう問題じゃないでしょ?!あれは魔物よ?ま・も・の!!犬じゃないのよ?!ものすご~く恐ろしい生物なのよ?!ブラックドッグってドゥミールでは有名で噛まれたら最後、骨まで牙が届いてえぐられるって言われてる魔物なのよ?!あんなに速く迫って来る魔物をなんで蹴飛ばせるの?!それもすっごい見事なタイミングで合わせるようにして!吹っ飛ばされ方が犬みたいじゃない!」


 エルザさんが早口でまくし立ててくる。

 黒犬ブラックドッグだから犬の派生じゃないの?あ、そういう理由じゃないって?速い対象物を何故蹴飛ばせるってことか。

 でもあんなの、タイミング合えば誰でもできるよね?よね?


「な、なかなかやりますね…異世界の少年…こうなったら数で圧倒してあげます!」

 

 額の汗をぬぐいプルプル震えながら中年さんがそう言うと、どこからともなく、さっきよりも多い10匹以上のブラックドッグが現れた。僕が蹴り飛ばした奴も復活して群れの中にいるようだ。 

 僕とエルザさんを円で囲むようにして、じりじりとその円を狭くしている。


「エルザさんエルザさん」

「な?えっ?なぜ私の名前を?」

「あの中年の人が言ってたから」

「ちゅうね…って…ぷっ!」


 中年というパワーワードでエルザさんが吹き出した。魔物に襲われそうになってるのにも関わらず、緊張感のかけらもない会話だなぁ…と僕は思ったけどね。まぁ、言い出しっぺは僕だし、聞かれたものに答えただけだよ?

 関係ないけどエルザの世界にも『中年』って単語があるんだ。じゃなきゃ笑わないよね。まさか!万国共通言葉?!

 そんな僕の考えはお構いなしにエルザさんから


「あなたの名前は?」

「僕は蓮、如月 蓮だよ。17歳の高校2年」

「レンね。改めて私はエルザ。ドゥミール王国の勇者よ」

「よろしくね、エルザさん「"さん"はいらないわ」りょーかい、エルザ」


 お互いに簡単に自己紹介を済ませると…


「じゃあ改めてエルザ。あの犬は今さっきのような物理攻撃なら効くよね?」

「えぇ、レンも蹴って分かったでしょ?でも大丈夫なの?怖くないの?」

「優しいなぁエルザ。まぁ、僕も色々な意味で


 僕らが話していると…


「えぇい!やっておしまい!」


 あ、中年さんがブチ切れた。


「え?普通じゃないってどう「来るよ!」いう意…って!」


 一斉にブラックドッグが襲い掛かってきた。僕は会話を強制的に打ち切ってブラックドッグと対峙した。


 僕とエルザはちょうど背中合わせに立つような形になり、そんな僕らを四方から囲むようにして襲い掛かってくるブラックドッグ。

 エルザは腰から下げていた剣を両手持ちにしている。さすが勇者、サマになってるよね。

 僕は僕で徒手の『構え』の姿勢に入り、間合いに入ってきたブラックドッグを肘鉄や蹴りで肉弾戦に持ち込んだ。


 あ、エルザの左死角から襲い掛かってきてる!


「エルザ!左!」

「分かったわ!レン!」


◎ ◎ ◎


 というのが今から2時間前に起こったことを順に追ったお話し。もちろん今も僕とエルザはブラックドッグとやりあってるんだけど…

 さすがに蹴りや殴りで疲れてきたからを使ってやりたいなぁ…

 ブラックドッグに注意して辺りを見渡すと…あ、あそこにあった。


「エルザ!ちょっと背中留守にするよ」

「えっ?ちょっとどこに?」

 

 僕は犬どもの隙をついて獲物に走る。ごろ寝しようとしたときに置いた竹刀に。


「ほほほ!さすがに逃げ出しましたか。しかし!もう遅いですよ!貴方もここで死になさい!」


 どうやら中年さんは僕が逃げると勘違いしたらしい。うるさい中年さんだなぁ…と思いながら、僕は二振りある竹刀袋の片方から普通の竹刀よりも二回りほど太いそれを取り出して手に取った。。そして後ろから襲い掛かってきた黒犬に向けて…


-それを真横に振りぬいた-


 ブラックドッグは10メートルくらい吹き飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る