空から降ってきた異世界からの女勇者より僕は強いみたいです
飛鳥 詠
第一章 異世界からいらっしゃいませ
第1話 空から少女が降ってきた
人は空から降ってくるのか?
答えは『No』だ。
普通ならば。
しかし僕の答えは『Yes』となる。
何故か?
それは…
人が…それも女の子が空から降ってくることを
僕が身をもって体験したからだ。
◎ ◎ ◎
「エルザ!左!」
「分かったわ!レン!」
夕方の河川敷。僕と赤茶色の髪の毛をポニーテールで結った鎧姿の女の子は、10匹は超えるだろう野犬のようなものと戦っている。
野犬だったら恐るるに足らない。でもね、ただの野犬は目が白くもなく、涎もここまで垂らしてないし、そもそもこんなに殺気を放たない。
そう、それは野犬ではない。異世界から来たブラックドッグという魔物だった。
何故こうなったのか…それは今から3時間くらい前のこと。
◎ ◎ ◎
今日の僕は珍しく習い事がない日だった。正確にはあったはずなんだけどなくなったというのが正解かな。
週末の金曜日。いつもなら剣道と華道の予定だった。でも今日の習い事は急遽取り止めるとお爺様からSNSで連絡がきた。理由は『大人の事情』だって。ずるいよね、大人って。こんなのでごまかすんだから。
僕が大人になったら一度は言ってみたい台詞の一つだ。
『これは大人の事情で…』とかかっこよくない?
なので、放課後になってからのんびり帰宅の途に就いたわけだけど、このまま帰るには勿体無い。万が一、すぐに実家に立ち寄ってしまったらお爺様から『
だから早くもなく遅くもない時間でお爺様のところに顔を出そうと時間を潰すことにした。このさじ加減は難しいんだよね。
ちなみに下校時は必ず実家に寄るようにお爺様から言われている。理由は『ワシにいつ迎えが来てもいいように、1日1回孫の顔を見ておかないとな』だそうだ。
大丈夫、お爺様。70歳を過ぎているけどボケの欠片も見せず、腰も曲がっていない、挙句に年寄り用スマホじゃないフルスペックのスマホを完璧に扱っているあなたはまだまだ長生きしますよ。
僕は学校とお爺様の家の中間にあたる河川敷にきた。この河川敷は遊歩道も整備され、川に至る土手の部分には芝生がある。
廻りを見ると老夫婦が散歩していたり、僕の学校の運動部が走っている。あれはサッカー部かな? 他にも犬の散歩をしてる人もいたり、なかなかにぎわいのあるところだ。
今日の天気は晴れ。秋分の日も過ぎたけど今日は比較的暖かい。15時過ぎた今の時間で昼寝というのには遅いけど、のんびりゴロ寝するにはいいかもしれない。
だから僕は担いできた2本の竹刀袋を横に置き、芝生に寝転んで目を瞑り時間潰しに専念しようとした。
どのくらい経っただろうか?ふと何とも言えない気配を感じ僕は目を開け寝ていた上半身を起こしながら周囲を見回した。
いつの間にか誰もいなくなっていた。いや、人払いされたような気配すら感じる。それも強制的に?
そして視界に飛び込んできたのは…
-空から人が降ってくる光景だった-
「えっ?」
実は僕はまだ寝ていて夢を見ているのだろうか?夢なら人が降ってくることも…ないか。
寝転んでいた僕の10m程先に向かって人が上空から降ってきている。でもその速度は遅く、例えるならフワフワと落下傘をつけているような形でゆっくりと空から降ってきていた。僕は起き上がり、落下地点に向かって歩き出し…そして降ってきた人を所謂『お姫様抱っこ』状態で受け止めた。
腕の中にいる女の子は意識がなかった、死んでいるのかと思ったけど呼吸はしてるので気絶してるだけみたい。
その人を見てまず思ったのが『綺麗な人』だった。歳は僕と同じくらいかな?赤茶色の髪の毛をポニーテールにしていた。気を失っているのか目を閉じていたけど、その顔は一言で言えば『可愛い』より『美しい』だった。
しかしその身なりは異質だった。何故なら彼女は髪の毛に近い赤銅色の鎧を身に纏い、腰には剣をぶら下げていた。
その赤銅色の鎧は刀みたいなものによる傷や焦げた跡もあるし、鎧や小手で覆い隠されていない綺麗な白い腕なども傷だらけだった。まるで物語のキャラクターが大激闘をおこなった後みたいだ。
何?何かの撮影?と僕は思ってしまった。僕の住んでいるところは特撮の撮影所があり、この河川敷もよく撮影がおこなわれていたから。
もし撮影だとしても空から何の仕掛けもなく人が降ってくることの説明がつかない。
「う、う…ん……」
腕の中にいる女の子から声がした。意識が戻ったのかな?鎧から女の子の顔に視線を戻すと目を開けていた。まだ焦点はあってないようだけど。
あ、もちろん鎧を見ていただけであって、身体を見ていたわけじゃないよ?そもそも鎧のせいでスタイルなんかわからないし!って誰に言ってるんだろう。
僕は彼女の意識を呼び戻すためにも声をかけることにした。
「君、大丈夫かい?」
「え?えっと…あれ?私は……」
「君は空から降ってきたんだよ。僕は「奴は?!奴はどこ?!」って…はい?」
僕の声で意識をはっきりした彼女は腕から転げ落ちるように地面に転がった。そしてすぐに立って警戒するかのように廻りを見渡す。
「何がいったいどうしたの?奴って誰?」
聞かずにいられないでしょ。目を覚ましたらいきなりだし。そもそも君の名は?あ、僕も彼女に名乗っていなかったからお互い様か。
「違う…ここはドゥミールじゃない…私は…あいつに飛ばされたの?」
その彼女は辺りをぐるぐると見た後に驚いたような表情を浮かながら何か独り言をつぶやいていた。
「もしも~し?君、大丈夫かい?」
僕はもう一度彼女に声をかけy「そこの貴方!ここはどこ?」…ってまた?僕の行動よりも前に質問された。せわしないなぁ。あとせめて助けたお礼の言葉は欲しかった…かな?とりあえずかけられた質問には答えないと。
「ここは東京の練馬区だよ。どうやら撮影とかの役者さん…じゃあないみたいだね」
「トーキョー?ネリマ?聞き覚えがないわ…間違いない…私は飛ばされたのね」
僕の答えに対してぶつぶつと『転移させられた』やら『魔法防御も…』やらまた何か独り言をつぶやいている様子。おーい、僕の質問の答えに「しぶとく生きていましたか。さすがエルザさんですね」って…おいおい。
なんか今日の僕の考えや言葉は誰かに被せられるなぁ……ん?って今言ったの誰?
目の前の女の子が僕を憎憎しげに凝視している。いやいや、僕は何もやってないから…違う、目線が僕を通り越して上を見てるような。
振り返ると人が浮いていた…え?浮いて…る?!何か今日の僕は驚いてばっかだな。
二度見三度見しても変わらない。人が浮いていた。足がちょうど僕の目線の高さにあるくらいに。ワイヤーアクションじゃないよね?そもそも屋外でセットもないからワイヤーアクションなんて無理だよねそうだよね。どうやら僕は少し混乱しているようだ。
「…パールバイヤー…貴様!」
「おやおや、口のきき方がなってないですね。目の前にいるこちらの世界の少年も驚いていますよ」
「少年って…僕のこと…ですか?」
どうやら僕を話題に出しているらしい。
宙に浮いた灰色のローブを着た中年の人は僕が普通に答えたことにピクリと眉を動かした。
「ほほぅ、驚きましたよ異世界の少年。私を目の前にして全く臆することないとは」
「ん~驚いてますよ?だってタネも仕掛けもなく浮いてるんですから」
「ちょっと!貴方!逃げなさいよ!殺されちゃうわよ!」
エルザと呼ばれた女の子が僕に向かって叫ぶ。う~ん…別に怖くもないし足も竦んでないんだけど、何かここで逃げるという選択肢が思い浮かばないんだよね。
「ほほほ!いい度胸していますね、異世界の少年。その敬意を表して…」
まぁ、間違いなくこの女の子も目の前の中年もここではない世界、すなわち異世界から来たって予想できるんだけど…なんか見知らぬおっさんに『異世界の少年』呼ばわりされるのはなんかムカつくなぁ…。
僕にはちゃんと
「少年!貴方も冥府へ送ってあげますよ!」
中年が手を挙げた途端、僕に向かってどこからか現れた黒い犬みたいなのが襲い掛かってきた。野犬?違うな…あれは異世界の魔物?
『ガァゥ!!!』
「逃げてー!!!」
エルザさんの声が響いた。
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