第31話 ミミック VS メテオ

 メテオ?

 そう思ったのと、それを喰らったのは、ほぼ同時だった。


 ドゴォオオオオオオ!


 むっちゃ早い。

 避けてる暇なんてまったくなし。

 かろうじて両手を挙げて受け止めようとしただけでも褒めてほしいぐらいだ。

 けれど。

 すっげースピードで落っこちてくる、巨大な石の塊を受け止めるってもう、何考えてるんだ、私!

 悪手も悪手。

 気付いた瞬間に全速力で逃げる以外に助かる道はなかったのだ。

 私の両腕は一瞬で蒸発した。そう、手で受け止めようなんてまるで無駄。

 メテオは高熱を発しているのだ。

 重くて、熱くて、早くて、おまけに頑丈。

 熱いとか、痛いとか、そんなことを考えている余裕なんてなくて、ただただ、凄まじいまでの圧力が私に襲いかかっている。

 今、その全てを木製の宝箱ボディと、下半身だけで支えているのだった。

「ぐぉおおおおお!」

 かろうじて、均衡は取れている。

 深紅の薔薇で頑丈になっている私のボディは、一瞬で崩壊するなんてことはなくて、メテオの威力をどうにかこうにか受け止めている。

 けど、ジリ貧。

 宝箱がひしゃげていくのがわかる。

 熱で焦げ付いていくのがわかる。

 大地が沸騰していて、自分がその中に沈み込んでいくのがわかる。

 くっそー、なんだこれ!

 どうしろっての!?

 持ってあと数秒。ぐしゃりと押しつぶされてしまう未来がまざまざと見えてくる。

 絶望で目の前が暗くなってきた。

 それは、マグマの海に叩き込まれたような、ダンジョンの奥底で天井が落ちてきたかのような絶望だ。

 って、比喩いらんわ!

 メテオに押しつぶされそうな絶望でお釣りがくるわ。

 てか、私なにやってんだろ。

 こんなの抵抗したって無駄じゃん。

 あっさり潰されちゃえばいいじゃん。

 そしたら、もう苦しまなくていい。

 ゆっくり、じわじわ押しつぶされようなんて、あほらしい。力を抜いてさっさとぺちゃんこになったほうがよほどまし。

 こんな、絶望的な重さに対抗しようなんて馬鹿まるだし!

 ……って、ああくそっ!

 ふざけんな!

 諦めてたまるか!

 たとえ潰されるんだとしても、最後の最後まで抵抗をやめてたまるか!


 ぴろりん!


 すると、何かが聞こえた。


『スキル:自動回復+1を習得しました』


 目の前にはこんな文字が。

 あれ。そういや持ってなかったか。

 深紅の薔薇には勝手に回復する能力があるようだったけど、自前でも使えるようになった?

 ちょっとだけ、ましになったように思えた。

 圧力は変わんないけど、回復速度がちょっと上がったのか、ひしゃげてるのとか、ヤケドとかがほんのちょっとだけ楽になったように思えたのだ。


 ぴろりん! ぴろりん!


『スキル:自動回復+2を習得しました』

『スキル:自動回復+3を習得しました』


 なるほど。

 ピンチの時のほうがスキルに目覚めやすいって感じか。


 びよん!


 と、自動回復がメテオの継続ダメージを上回ったのか、両腕が復活した。

 焼け石に水って感じではあるけど、ないよりはましだ。

 どうにかなりそうな気がしてきた。

 そう。今、生きてるってことだけで、十分にこの場を打開できる条件なはずなのだ。

 おそらくは、インパクトの瞬間がもっとも威力があったはず。

 今は、その残り香っていうか最後っ屁っていうか、消化試合的なターンだ。

「く、ら、え!」

 反撃の狼煙的に、右腕を突上げる。


 じゅわっ!


 とまたしても腕が焼け落ちる。やっぱり私の部位の中だと腕は弱いほうなのだ。

 けれど。腕はまた生えてくる!

「うりゃりゃりゃりゃりゃぁぁああ!」

 右、左、右、左。

 どうなろうとお構いなしに、天に向かって両手を繰り出す。

 当たるはしから、消し飛んだ。全然効いてない。

 くそっ! だめか、打つ手なし!


 ずしり。


 大地が溶けに溶けて、ずぶずぶと沈み込んでいたけど、固い岩盤にまで到達したらしい。

 これなら!

 大地を蹴る。それにより発生した衝撃を、宝箱ボディを通してメテオに伝える。


 ドガン! みしり!


 ぶっ!


 鼻血! 鼻血出るわ! 鼻ないけど!

 けど、手応えはあった。メテオに一矢報いた感じがする!

 けれど。これじゃ駄目だ。こっちもむちゃくちゃダメージ喰らう。一撃でこっちが瀕死。自動回復がおいつかない。

 で、回復を待ってたら押しつぶされて死ぬ。

 自動回復もこれ以上は成長しないっぽいし。

 ああ、くそ! なんとかなりそうなんだけど!

 と、そこで気付く。

 アイテムがあるじゃん!

 でも取り出せない? いや、フレームが歪んで隙間ができてる!

 蓋の隙間からアイテム出して手に取る。

「ヒールポーション!」

 中身を適当に身体にぶちまける。

 よし! 回復!

 地面を蹴る! ポーション! 地面を蹴る! ポーション!


 みしり、みしり、みしり。


 これは私がひしゃげる音なのか、それともメテオが歪む音か。

 ええい、かまうか!

 もうこれしかない!

 我慢比べだ、おらぁ!


 ドガガガガガガガガガッ!


 地団駄でも踏むかのように、連続で地面を蹴る。蹴りまくる。

 そして反動をメテオに喰らわせる。


 ぴろりん! ぴろりん!


『スキル:震脚を習得しました』

『スキル:七星連武を習得しました』


 なんか派生的に手に入れたけど、この局面で使える気はしない。

 今私がやってるのは、けっきょくは頭突きなのだ。

 そう、宝箱はボディでもあるけど、イメージ的には頭って気もしてる。

 地面を蹴って、生じた力で頭突きを喰らわす。

 それを、馬鹿みたいに何度でも繰り返す。

「だだだだだだだだだだだっ!」

 そして、それをどれだけ繰り返したのか。終わりは唐突に訪れた。


 びしり!


 メテオから音が。

 一度その音が聞こえてからはあっと言う間だった。

 メテオに亀裂が走り、亀裂は瞬時に広がっていき。


 どっかーん!


 と砕け散ったのだ。

 えーっと……やった? やっちゃいました?

 頭上を覆っていた圧力が消え失せて、腰が抜けそうになる。

 まあ、まだ安心できる状況でもない。周囲は地獄絵図と化していた。

 メテオの余波はまだ周囲に渦巻いているのだ。

 森は衝撃波で吹き飛び、大地はマグマと化し、空気は灼けている。

 って、よく生きてたな、私!

 ああ、なんか地面がどろどろだし、周囲より沈み込んでるし。

 とりあえずは、上に行こう。いつまでもここにはいられない。

 すり鉢状になって、どろどろになってる地面をゆっくりと登っていく。

 さすがに堪えた。

 自動回復で回復はしてるはずだけど、どうも本調子じゃない。

 あー、けど、モンスターを通さないって結界はどうなったのかな。

 たぶんだけど、解除されてるんじゃないかな、と思う。

 結界を維持するには術者が中にいないとって話だったけど、普通はメテオの側で生きてられるわけがないんだから、メテオを発動した後は解除して逃げたんじゃないかと思うんだよね。

 どうにか坂を登りきる。

 うん。敵がまだいるのか、結界があるのか、全然わかんない!

 ま、結界の有無はすぐわかるだろうと歩きだしたところで、声が聞こえてきた。

「それで終わったとでも思ったか?」

「はい?」

 きょろきょろとあたりを見回すも、誰もいない。けど、ガレリアとやらの声だってことはすぐにわかった。

「ノートンが殺られたのだ。その程度はやる可能性なら考えていた」

「あのさ? 負け惜しみはいいから――」

「流星雨(メテオシャワー)」

 その言葉の響きにぞっとした私は天を仰いだ。

 何もなかった空に、光点がぞろりと、寒気がするほどの数が一気にあらわれる。

 あ、無理。

 こんなんどうしようもないでしょうが!

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