第30話 襲撃
まずは、一番強そうなのを倒した。
残りの奴らもそこそこは強そうだけど、まあなんとかなるでしょ。
問題は二つ。
敵がばらけてるので、まとめて爆裂ってわけにはいかないってこと。
それと、私は魔将軍なんたらを吹っ飛ばしながら、囲みを抜けた形になってるけど、スアマちゃんはまだ囲みの中だということか。
ま、冷たいようだけど、スアマちゃんは無視する。
ここで下手に守る姿勢を見せると、人質にされちゃうかもしれないし。
モンスターと人間が一緒にいて、つるんでると思われる可能性は……それなりにはあるかもだけど、守りながら戦うよりは速攻で片付けるほうがいいはず。
それに、結束の絆の指輪で、スアマちゃんのダメージは私が肩代わりすることになるからたぶん大丈夫。大丈夫だよね? 試してないから、どんなことになるのかわかってないけど。
「うりゃあ! ミミックハイキック!」
ダッシュで猿っぽいモンスターに近づいて、蹴りを繰り出す。
どごん!
猿の頭がふっとぶ。
これなら爆裂は使うまでもない。というか乱戦で爆裂使うと、スアマちゃんが巻き込まれそうなので、今回は極力使わない。
次!
またダッシュ。けど、若干のタイムラグ。
そう。当たり前の話だけど、移動に使う足で攻撃するというのは、若干不便な話ではあるのだ。
走りながら蹴るのはけっこう難しくて、腰の入った蹴りを放つには一瞬立ち止まる必要がある。通りすがり爆裂脚なんてことをやったこともあるけど、あれは相手がよっぽど油断してないと通用しないはず。
さっきの魔将軍ほげほげへの攻撃を体当たりから始めたのはそれが理由だ。いきなりの蹴りは通用しないと本能的に思ったのだよ。
次の敵は剣と盾を持った蜥蜴男。
さっきの猿はまだぼんやりしてたけど、こいつはもう確実にこっちの動きに反応してる。
けどまあ、あれだ。
「ミミックミサイル!」
私の頑丈さをなめるな!
盾で防御? そんなの関係ない!
地面を蹴り、加速。
まっすぐに蜥蜴男に突っ込む。
がしん!
盾めがけて宝箱ボディで突撃。
防御なんて崩せばいい!
蜥蜴男が踏ん張る。けど、勢いを殺しきれずに、盾が跳ね上がる。
「おらぁ! ミミックニーキック!」
片手で蜥蜴男の首を掴んで前傾させるとともに、膝を腹へと炸裂させる。
ぼん!
蜥蜴男の背中側が破裂。
そして、そのまま蜥蜴男をぶん投げる。
豚男は蜥蜴男を喰らってそのまま撃沈。
「とぉ! ミミック踵落とし!」
飛び上がり、ケンタウロスの馬部分に上から襲いかかる。
お前、的がでかすぎんだよ!
弓を撃とうとしてたけど、私のほうが早い。
馬の胴体は私の斧のような踵の一撃であっさりと両断だ。
ガキン!
む。背後から攻撃された。
視点を背後へと移せばカマキリ男が。今のは鎌か。ま、どうということもなかったけど。
「ミミックバックキック!」
腰を入れて背後へ蹴りを繰り出す。カマキリ男は鎌をクロスして防御しようとしたけど、蹴りは鎌をへし折りながらボディへと炸裂。
カマキリの細い身体はあっさりとへし折れた。
ここまでやると、敵も実力差に怖じ気づいたのか、ワードッグとスケルトンが背中を向けて逃げ出した。
「ふふっ! 私から逃げられるわけがなかろう?」
あ、なんか変なテンションになってる。
ダッシュで、逃げた奴らの前へと回り込む。
うん。こいつらは雑魚中の雑魚だな。
「お、おまえ! 何者だ! その強さはなんなんだ!」
「まあ、何者かと聞かれても答えは毎回同じ。通りすがりのミミックです!」
ちょんと蹴る。
敵はたいした攻撃じゃないと安心してるようだけど。
ま、スアマちゃんからは離れてるから大丈夫だろう。
「爆裂脚!」
どっかーん!
二匹まとめて粉々に。
「ハルミさん! 大丈夫ですか!」
敵が全滅したので、スアマちゃんが駆けよってくる。
「うん。これぐらいの奴らなら楽勝だね!」
お、ちょっとレベルが上がったかな。
魔将軍ふがふがはそれなりの経験値だったんだろう。
「けど、ここが青陣営になってるなら、もうここにいる必要はないかなー」
何が起こってるのかはわかんないけど、私一人で取り返すとかそういうもんでもなさそうだし。
奥のほうに行けば、私ではかなわないようなのが出てくるかもしれないから、ここはさっさと移動だね。
「来てそうそうだけど、やばそうだから帰るね」
もちろん、スアマちゃんにも異論はない。
ということでとっとと引き返す。
幸いそう森の奥まで進んだわけでもないので、外に出るのは簡単なはず。
簡単なはずだった。
「あうち!」
唐突に衝撃を喰らって、私はひっくり返った。
まったく警戒していなかったから、予想外のダメージに面食らう。
でも、それが攻撃だとしてもまったくもってたいしたことのないものだった。
「ハルミさん! 大丈夫ですか?」
「え、うん。大丈夫は大丈夫なんだけど……」
尻餅をついたままきょろきょろとあたりを見回す。
もうちょっとで森の外にある街道に出られるという地点で、特に何があるというわけでもない。
けど、何もないのに攻撃を喰らうなんてのは怪しすぎる。
私は周囲をさらに注意深く観察したんだけど、やっぱり何かあるようには思えなかった。
「スアマちゃんは何か怪しい気配とか感じる?」
「気配ですか? 特には……」
スアマちゃんも一緒になってきょろきょろとしてくれるけど、二人の目をもってしても何も見つけることはできなかった。
うーん。怪しいのは怪しいんだけど、じっとしてるわけにもいかないよなー。
「ま、ちょっと慎重にいこうかな」
起き上がり、ゆっくりと歩きだす。
ごちん!
するとまたもやの衝撃。けど今回は何かくるかと身構えていたから無様にこけるなんてことはない。
「ん? んんん?」
衝撃を感じたあたりの空間に手を伸ばす。
ぺたり、ぺたぺた。
何かがあった。見えない何かが。
手当たり次第にそこらを触っていくと、どうやらそこら一面に壁のようなものがあるらしいことがわかった。
「あの、ハルミさん、何を……」
「なんか、ここら辺に見えない壁が……って、スアマちゃんは平気なの?」
スアマちゃんは見えない壁の向こう側から、私を見ていた。
「はぁ!? なにこれ、ちょっと!」
ガンガン!
叩いてみても蹴ってみてもびくともしない。
この私の蹴りでだよ? どんだけ頑丈なの、これ?
「無駄だ。それはモンスターを通さぬ結界。貴様は文字どおり袋のネズミというやつだ」
そのセリフとともにそいつは唐突にあらわれた。
毛むくじゃらのバケモノ。私なんかよりよっぽどモンスターな姿をした奴だ。
瞬時にターゲッティングして陣営を判断しようとしたけど、そいつは何色にもならなかった。
つまり、人間なのだ。
そして、続々とフードを被った何者かもあらわれてくる。
「へ、へぇ? そんな便利な結界があるならモンスター相手なんて楽勝じゃん? 冒険者たちはどうして今まで使わなかったの?」
やばいなーと思いながらも軽口を叩いてみる。
「我が一門の秘奥だからよ。それに、使用には人数が必要でな。大きさもそれほど思いどおりにはならぬし、結界を構築する術者は内側にいなければならない。そう便利なだけという代物でもないということだ」
「スアマちゃんは逃げて!」
「は、はい!」
逡巡することなく、スアマちゃんはあっさりと逃げだした。
冷たいとは思わない。近くにいたってスアマちゃんにできることなんてないし、逆の立場なら私もとっとと逃げだしているだろうと思うからだ。
毛むくじゃらのバケモノはスアマちゃんを追わなかった。
術者は内側にいなければならない。とは言っても、これだけ人数がいるなら、結界の外側にも人員を配置していると考えていいはず。その場合スアマちゃんを拘束するなんてわけもないはずなのだ。
「逃げちゃったけどいいの?」
「関係ない。ターゲットはお前のみだ。モンスターに脅されて連れ回されている少女なら庇護の対象ですらある」
おお、見た目のわりには考え方がまともだった!
「ずいぶんと恨まれちゃってるみたいだけど、あんたみたいなバケモノに心当たりはないような?」
「そうだな。わざわざ姿を見せてやったのはそのためだ。なんの咎かもわからずただ滅びるようでは意味がない。せいぜい後悔しながら死んでいくがいい。我が名はガレリア。貴様がアルドラ迷宮で殺したノートンの師だ!」
「……って言われてもなー。殺した奴の名前なんて覚えてないしさー」
「なに。すぐに思い出す」
そう言ってバケモノたちはふっと姿を消した。
あ、これまずい。
中の術者とやらを殺さなきゃ出られないのに、見えなくなったらどうしようもない。
くそー!
どっから攻撃してくるんだ?
さすがに、警戒してないところを攻撃されると効くんだけど?
きょろきょろとあたりを見回しても、なんの気配も感じない。
それが魔法による隠蔽工作なのだとしたら完璧だ。私にそれを見破る術はない。
「とりあえず全力ミミックピンボール!」
見えないだけなのだとしたら、適当に暴れ回れば当たるかもしれない。
そう考えて木々の間を反射し続ける。
ガガガガガガッ! ボキッ! メキッ! モゲッ!
威力に耐えきれずに木が折れていく。
まぁそれはそれで、敵の邪魔になるかもしれないし悪いことじゃない。
「ぎゃああ!」
そして、ちょっとばかり手応えも感じた。
やっぱり見えないだけで攻撃は効くのだ。
死んだローブの男はぼろぞうきんのような姿をあらわしていた。
よしっ! とにかくこれを続けるしかない!
ゴゴゴゴゴゴゴッ!
と、希望が見えてきたところで、大地を震わすような音が聞こえてくる。
ん? なんだ?
動きながら音の発生源を探る。
その轟音がどこから来ているのかはすぐにわかった。
上空。
何もない空間から、何かがあらわれようとしている。
「あっ!」
そして私は、迷宮の中でメテオを使おうとした馬鹿魔法使いのことを思い出していた。
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