第25話 街

 朝にアルドラ迷宮を出て、昼ごろにスアマちゃんの村に着いて、村でいろいろやっつけたりして村を出て、夕方のちょい前ぐらいのころ。

 スアマちゃんを乗せて、てくてくと歩いていると、街が見えてきた。

 ここは村と違って、石壁で囲ってあるから頑丈そうだ。盗賊なんかもそう簡単には襲えないんだろうね。

 で、壁には門があって、門番がいたりする。

 さてと。この街に入ってみるってのが、とりあえずの目標だ。

 モンスター使いに扮するスアマちゃんと、その使役モンスターのふりが通用するのかどうか。

 というか、こんなところで躓いちゃったら先が思いやられるんだけどね。ここで駄目ならこの先もずっと駄目なんじゃないかって気がするじゃない。

「スアマちゃんはここに来たことある?」

「はい。収穫物を卸してましたから。門番さんとも顔見知りですよ」

「あー、そっかー。それどうなんだろうなぁ。今まで野菜運んでた子がいきなりモンスター使いになってるって通用すんのかなぁ」

「そうですね。では、どうにかしてみますから、私にまかせてもらえますか?」

「うん、まかせた」

 スアマちゃんがひょいっと私の上から飛び降りる。軽やかな動きだし、運動は得意なほうなのかな。

 そして、スアマちゃんが先を歩きはじめたので、私はその後をついていく。

「マモルさん、こんにちは」

 門の前まで来たスアマちゃんが、にこりとあいさつ。

 すると、マモルとやらは少しばかり照れた顔になった。

 こいつ……うちのスアマちゃんに気でもあるのか?

「こんにちは……って、どうしたの! ぼろぼろじゃないか!」

 そういや、スアマちゃんは逃げ回ったりしてたから服がボロボロだったのだ。

 あー、服なら持ってるし、あげればよかったかなー。

 しかも、ほぼ手ぶらで一人だしと、怪しまれる要素が満載だ。って、事前に気づけよ、私。

 ちなみに、スアマちゃんに気を取られてるのか、後ろにいる私にはまったく気が付いてない感じだ。そんなんで門番としてやってけるのか。あんた。

「その、村が盗賊に襲われて、逃げてきたんです」

「ええっ!? 大変じゃないか!」

「はい。ですので、領主様にご報告をと」

 ほー。領主がこの街にいんのか。

「その、一人だけど、家族の人は……」

「……みんな……殺されてしまって……」

「それは……いや。スアマちゃんが逃げてこられただけでもよかったのか……」

 マモルは沈痛な面持ちってやつになっていた。

「これからのことは、領主様によく相談するといい」

 そう言って、マモルが門を通そうとしてくれる。

 スアマちゃんが街に入っていくので、私もその後に。

「ちょっと待って!? それ、なに?」

 マモルが目を見開いて私を見ている。うん。さすがに、スルーってわけにはいかないか。

「あの、なぜかいきなりモンスターになつかれてしまって。怖くないですよ。人を襲ったりはしませんから」

 思いっきり襲ったりするけどな!

「そ、そうなのか? いや、けど、モンスターを街に入れるわけには……」

「にゃーん!」

 とりあえず媚びを売ってみる。ほら、こわくないよー。可愛い宝箱だよー。

 足下に近寄ってすりすりとしてみる。

「おとなしい……のか? なんとなく可愛いような気も……って痛い! 角があたって痛いよ!」

「にゃ?」

 ちょっと離れてとぼけてみる。

 どうだ、このあざとい対応! なんでもかんでも殺すだけではないのだよ!

「ま、まあ凶暴な感じはしないな……ちょっとキモいけど」

 むかっ! やっぱ殺したろか。

「はい。それに、街にいる冒険者さんでモンスター使いの方とかもいると思うんですが」

「うーん。たしかになー。けど、あれはそういうジョブだし、モンスターは装備みたいなもんだし……」

「私もモンスター使いを目指してみようと思ってるんです。この子になつかれたってことは才能があるのかもしれませんから……。もう天涯孤独の身。こんなあやふやな才能にでもすがるしかないんです。お願いします。この子も入れてもらえませんか?」

 涙目になって懇願するスアマちゃん。

 あ、落ちた。マモル落ちたよ。

「わかった。けど、それならまず冒険者ギルドに行って、相談してくれ。冒険者とかモンスターとかが関わってくるなら、とりあえずあそこだろ」

「はい! ありがとうございます!」

 これは……。

 マモルがちょろいのか、スアマちゃんがすごいのか。

 後者、かな。てっきとーな会話と困った顔でお願いするだけで、なんとなく話をまとめるなんて、誰にでもできることじゃないよ。

 と、まあ、通してもらえたので中に入る。

 道は石畳だし、建物も石造りで頑丈そうだ。スアマちゃんの村とはやっぱレベルが違う感じだね。

 で、じろじろと見られてる。

 主に私が。

 騒ぎになってないのは、モンスターを連れてる人間も街中にはそれなりにいるからだろう。

 この街には冒険者が大勢いるのだ。まあ、見た感じモンスター使いはメジャーじゃないっぽいけど。

 じゃあ、私が見られてるのはなんでかっていうと、あれだよね。宝箱に手足が生えてるってなんなんだよ! って思われてるんだろうな。

「さてと。じゃあどうしようか?」

「やっぱり冒険者ギルドでしょうか。その、さっきはでまかせでああ言ってみたんですけど、この先ハルミさんと一緒に行動するなら、正式な冒険者みたいなものになっておいたほうがいいんじゃないかと思えてきました」

「冒険者って簡単になれるもんなの?」

「わかりません。けど、お父さんは、何の生産性もない、他にできることのない奴が最後に落ちる仕事だって言ってましたから、誰でもなれるのではないでしょうか」

 お父さん辛辣だな!

 うーん。どうだろうなぁ。けどまあ、せっかく街に入ったわけだし、素通りってのも芸がない。

「じゃあ行ってみようか」

 早速冒険者ギルドへと向かう。

 どきどき。

 やっぱ緊張するよね。私からすれば敵の本拠地なわけでしょ。こっちの偽装工作がばれるかもしれないし、強い奴がいるかもしれないし。

 でも、こっちも冒険者のことがいろいろとわかるかもしれない。それはそれで重要かとも思う。

 冒険者ギルドは街の入り口の近くにあった。

 ギルドの建物は、飾り気のない無骨な感じだけど、街一番の大きさじゃなかろうか。

 この街は近くにある闇の森を冒険するために発展していったって経緯があるみたいなので、冒険者ギルドは重要施設なんだろう。

「じゃあ入りますね」

 スアマちゃんが覚悟を決めて大きなドアを押し開けた。

 中はけっこう広くて、テーブルが大量にあって、そこに冒険者どもがちょろっといる。

 酒場も兼ねてるのか、だらだらしてる奴らは大抵が酔っ払いだ。こんな昼間っからなにやってんだよ。

 壁に張ってある紙はなんだろ。仲間募集みたいなやつかな。

 なんかもっとごった返してて、うるさい場所かと思えば、そうでもなかった。まあ、まともな冒険者は冒険に行っている時間帯なんだろう。

「あれが受付かな?」

 カウンターがあって、受付のお姉さんらしき人が暇そうにしている。

「みたいですね。では」

 スアマちゃんが、受付に行って声をかけた。

「あ、はい? なんでしょう? 依頼ですか?」

 ぼーっとしてたお姉さんがはっと気付いて姿勢を正した。

「いえ、その、冒険者になりたいんですが、こちらでいいんでしょうか?」

「え? その、あなたが?」

 お姉さんがマジマジとスアマちゃんを見てる。

「はい。だめですか?」

「駄目ってことはないんだけど、おうちの人はなんて言ってるの? ちゃんと相談した?」

「家族は……もういないんです。私一人になっちゃって。なので冒険者になって身を立てていこうかと思ったんです」

「うーん、ギルドの受付としては断れる立場にはないんだけど、お姉さん個人としては反対かなー」

 お姉さんが渋い顔になっていた。

 まあ、そうだよね。冒険者って変な奴ばっかだし、スアマちゃんがそいつらに混じって冒険するって心配になるよね。

「ぎゃははははっ。お前が冒険者だぁ? 無理に決まってんだろうが!」

 すると、なんか余計な奴がやってきた。

 そこらで酔っ払ってた奴の一人。

 巨体で、ひげもじゃで、下品な感じのおっさんだ。

「で、でも、そうしないと他に生きていく方法が……」

「身体でも売りゃいーんじゃねーか? この街にはそんなところはいくらでもあるぜぇ? なんなら紹介してやろうかぁ?」

 おっさんは、じろじろといやらしい目でスアマちゃんの全身をなめるように見つめていた。

 むかっ!

 私は、おっさんとスアマちゃんの間に割って入った。

「ああん? なんだこれ? ミミック? もしかして、こんなの使役できたからって自信つけちゃったの?」


 げしっ!


 素早くおっさんの臑を蹴った。もちろん、十分に手加減してだ。こんなところでいきなり大暴れするほど私も馬鹿じゃない。

「スアマ、バカニスル、ユルサナイ」

「ん? こいつしゃべんの? つーか、こんなもん痛くもかゆくもねーよ」

 げしっ! げしっ! げしっ!

「だから、痛くねーって……おい、ちょっと、やめろ!」

 ミミックごときとなめているからか、スアマちゃんをもっとからかってやろうと思っているからなのか、おっさんは逃げようとしなかった。

 ならば。


 げしっ! げしっ! げしっ! げしっ! げしっ! げしっ!


 ぼきっ!


「ぎゃーっ!」

 おっさんの臑が変な方向に曲がって、倒れる。

 そう。本気で蹴ると、足が消し飛んだり、吹っ飛んで建物を破壊したりと被害が出そうだったので、力加減を探っていたのだ!

「私、モンスター使いになりたいんです!」

 倒れたおっさんはさりげなく無視してスアマちゃんが宣言する。

「あー、なれそうな感じですね」

 お姉さんはどこか感心している様子だった。

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