第26話 冒険者ギルド

「てめぇ! なにやってくれてんだ!」

 蹴り倒したおっさんの仲間みたいな奴らが、立ち上がり威嚇してくる。

 あー。やっぱこういうことになっちゃうか。

 けど、私、やられっぱなしみたいなの我慢できないんだよねー。

 ま、なるようになれってことで。

 ざっとあたりを見てみたけど、たいして強そうな奴はいなさそうだ。

「うっせぇ! 素人にやられて、キレてんじゃねーよ! ダボどもがぁ!」

 と、すさまじい大声がすぐそばから聞こえてきて、びびった。

 声の主はと見て見ると、受付のお姉さんだ。

 お姉さんはすげー怖い顔で冒険者たちを睨んでいる。

 睨まれた冒険者たちはそれでぴたりと動きを止めてしまっていた。

 おおー、すごいなぁ。

 やっぱ荒くれどもを相手にするからには、これぐらい迫力がいるのかもなぁ。

「け、けどよ、仲間がやられて黙って見てるわけには……」

 それでもなんとか言い返そうとしてる奴がいた。

「だから! 現時点ではこの娘は、素人だろうが! 素人に手を出すなんざ冒険者の風上にもおけねぇだろうがよ! ちょっとからかうぐらいなら通過儀礼として大目に見てやるがな! それで反撃されてムキになるだと? やり返される可能性も考えてねーのかよ、あほか!」

「だ、だったらそいつが冒険者になってからなら……」

「あぁ!? 冒険者になる前のことはノーカンだろうが! だったらてめぇらの過去の罪状を根掘り葉掘りあげてやろうか!? お前ら甲斐性なしどもが、どうにか生きてけるのは、冒険者の掟に従ってるからだろうが! 掟を破ればどうなるかわかってんだろうな!? いいか? 今後、この件でこの娘に手を出してみろ! ただじゃすまさねぇからな!」

 えーと。うん。

 ヤクザだ。

 モンスターもヤクザだけど、冒険者もヤクザだな、これ。

 てことは、冒険者とモンスターの戦いって、抗争みたいなもんなんだろうか?

 キレてた冒険者たちはというと、それ以上何か言うこともなくすごすごと出ていった。

 他の奴らも、もうちょっかいかけてくることはなさそうだった。

「と、つい熱くなってしまいました」

「あ、はい」

 スアマちゃんが引きまくっていた。そりゃなー。私もちょっとびびったし。

「ですが、このようなことは今後なさらないようにお願いいたします。冒険者同士の諍いは基本的には御法度。厳しい沙汰が下されることもありますので」

「はい。気を付けます」

 びしりと言われてしまって、スアマちゃんも素直に頭を下げる。

 あー、私もちょっと考えなしだったかなー。そこら辺はもうちょっとうまくやんないとね。

 けど、最悪のところ、適当に暴れてどうにかすればいいやって考えが根本にあるんだよなー。

 そのあたりは使い捨てモンスター気質っていうかな……。まあ、今後どうにかしなければって点だとは思う。

「さて。冒険者になりたいとのことですが……なりたいだけでしたら登録をしていただくだけで誰でもなることができます。こちらの用紙に必要事項を記入してください」

 受付のお姉さんが、ペンと用紙を渡してきた。

 すると、スアマちゃんがちょっと困った顔になる。

「代筆は有料でやってますよ?」

 でも、スアマちゃんに恥をかかせるわけにもいかないよね。ってことで、ちょんちょんとスアマちゃんをつついた。

「あっちのテーブルを借りよう」

「あ、はい」

 てことで、さっきの臑が折れた冒険者と仲間たちが去っていった後のテーブルにつく。

 腰から下が生える下半身モードになってね。じゃないと、椅子に座れないし。

「私、人間言語スキル+2を持ってるから、読み書きもできるの」

「ハルミさん、モンスターなのに、すごいですね」

 ということで、さらっと登録用紙に書き入れる。

 書くのは、名前とか出身地とかだった。

 特技とか装備なんかも、特徴的なやつは書いておくと、冒険のお誘いを受けやすくなったりするらしいんだけど、今のところは特になし。

 ん? なんか周りがざわついてる?

「ちょっと目立ってますね」

「あー、まあねー」

 腰のあるミミックが椅子に座って、字を書いてるってのは、さすがに目立つのか。ま、別にいいけど。

 今後も無遠慮な視線にさらされることはあるだろうけど、こんなのは堂々としているに限る。

「字なら私が教えてあげるよ」

「ほんとですか!」

「おいおいね」

 スアマちゃんは聡明な感じがするし、ちょっと教えたらすぐに覚えるんじゃないだろうか。

 用紙は書いたので、受付に提出した。

 問題はなかったらしくて、お姉さんは少し奥に引っ込んで、すぐ戻ってきた。

「こちらが冒険者カードです。常に身に付けておいてくださいね。そこらの冒険者さんを見たらわかるように、だいたいはカードホルダーに入れて、ストラップで首から下げてます。カードホルダーはあちらでどうぞ」

 お姉さんの視線を追ってみると、売店らしきものがあった。せこいなー。

「あの。この冒険者登録というのは他のギルドでも有効なものなんでしょうか」

「はい。他の街でも同様に、冒険者としての身分証明にお使いいただけますよ。ただ、このカードには実績が記録されていきます。たいした実績がなければ、たいして信用を得ることはできませんので、その点はご注意を」

 ふむふむ。他でも使えるなら、便利かもね。

「そして、まずはジョブを選択して登録していただく必要があるんですが、ジョブは装備で決まりますので、対応する武具を装備していただく必要があります。戦士でしたら、剣と盾。魔法使いなら杖。みたいな感じなんですが、スアマさんはモンスター使い志望でしたよね。でしたら、モンスターならしの杖がそうですね。こちらも売店でどうぞ!」

「その。よくわからないんですが、杖を持ったら魔法使いになれて、魔法が使えたりするものなんでしょうか?」

「前半は正解。ギルドが認める武具を装備すればその人は魔法使いとして扱われます。後半は不正解。別に杖を持ったから魔法が使えるわけじゃありません。魔法は自分で勉強して使えるようになる必要があります。モンスター使いも同様ですよ。ま、スアマさんは大丈夫なようですけど」

 ん? だったら、ジョブってなんなの? って気がしないでもないけど、ギルドが能力をカテゴリー分けするために使ってるのかな。

 ま、杖がいるってことなら仕方がないので売店へと向かう。

「あの、私、お金持ってないんですけど……」

 スアマちゃんが恐る恐る言う。

「大丈夫。私が持ってるから。けど、スアマちゃん。私がいなかったらかなりヤバイ状況なんじゃない?」

「そうですね……けど。ハルミさんが来なかったら、そもそも生き延びてはいられなかったと思います」

 あ、恩着せがましい感じになっちゃった。そんなつもりじゃなかったんだけど。

 で、宝箱の蓋を開けて、お金を取り出す。

 これは、アルドラ迷宮で倒した冒険者たちが持っていたもの。人間のお金はモンスターにとって価値はないんだけど、なんとなく取っておいたのだ。

「足りなかったら言ってね。まだあるから」

「これ……金貨……ですよね。私、見たこともなかったです」

 う。これはちょっと危ういな。私も人間の価値基準を知らないし。金銭感覚を勉強しとかないと。

 ま、ギルドの売店で極端にぼったくられることはないとは思うんだけど。

 とりあえず必要な、モンスターならしの杖とカードホルダーを買ってみた。何がいいのかはよくわかんないので、とりあえずは店員さんのお任せだ。

「なんていうんでしょうか。布団叩きのような」

「うーん、ゼンマイ?」

 杖の長さは、石突きを地面に付けた状態で、スアマちゃんの肩のあたりまである。

 先端部分はぐるぐると大きなゼンマイ状になっていた。

 このゼンマイ部分でモンスターを叩いてしつけたりするっぽい。

 あと、勢いよく振ると、ゼンマイ部分が伸びて鞭っぽくもなるらしい。

「はい。ではこれでモンスター使いとして登録が完了いたしました」

 受付に戻ってお姉さんに杖を見せると、無事登録することができた。

「あの、こんなぐらいのことで冒険者になれちゃうんでしょうか? 冒険者って大怪我も簡単に治ったり、死んでも生き返ったりできるんですよね?」

 ああ、そんな話もしたっけな。確かにちょっと書類を書いて、装備を揃えただけでなれるなら誰でも冒険者になっとけばいいんじゃね? とは思うよね。

「怪我を治すのも簡単ってわけでもないですし、死者蘇生は難易度が高いですけどね。まあ、確かに普通の人間ではなくなってしまうといいますか、この手続きを終えることでスアマさんは、冒険神エストの信徒になったんです。冒険者が得られる恩恵というのは、エストの加護なんですね」

「あ、あの! 私、豊穣神のロコメコ様の信徒なんですけど」

「あ、知らなかったの? 冒険者になるってことは改宗することになるんだけど……その、エストは改宗を許してないから、もう元には戻れないの」

「そうなんですか……いえ、わかりました」

 スアマちゃんは寝耳に水って感じだけど、後には引けないということで覚悟を決めたみたいだった。

 ちなみに、たいていの人間は改宗で二の足を踏むらしい。冒険神の加護はすばらしいものの、冒険者の掟は中々に厳しく、好き好んで冒険者になる人間はそんなにいないのだそうだ。

「さて。ギルドの受付としての仕事はこれで終わりです。ここからは個人的な提案なのですが、モンスター使いの先輩にお話を聞いてみるのはどうでしょう?」

 ま、さすがに、このままでモンスター使いでござい、ってわけにもいかないよね。

 受付のお姉さんが、何人かモンスター使いの人について教えてくれた。

 ということで、モンスター使いの人に会いにいってみよう!

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