第23話 仲間
ま、何がここで起こっていたのかは私の知ったことじゃないので、私は私としてやるべきことをやる。
つまり、ソウルとスピリットの回収だ。
血塗れの爆裂現場に行ってソウルを吸収……うーん。あんまりきてる感じがしない。
レベルを確認してみると、102になっただけだった。
こんだけ倒してこんなもん?
こいつらが、よっぽど弱かったのか、ペコのソウルがすごすぎただけなのか、ソウルを吸収するのが遅くて拡散しちゃったのか、レベルはだんだん上がりにくくなるのか。
まあ、全部かな。いろいろ重なった結果がこれなんだろう。
スピリットも回収してと。
けど、あんまり雑魚のスピリットを回収すんのも無駄かなー。
スピリットキャッチャーの手持ちもだいぶなくなってきてるし。
でも、ダンジョンの中と違って勝手にリザルトがつくわけじゃないので、倒した証はこうやって集めるしかない。
ポイントも、スピリットと交換で入手するしかないしさ。
ま、集められるだけ集めて、スピリットキャッチャーがなくなったらその時に考えよう。
ぽいぽいっと、キャッチしては瓶を放り投げていく。
瓶に入れると特徴がはっきりするんだけど、色とか形とか輝き具合とか動きとかは様々だ。
何がどうとか判別はできないんだけど、一つだけ、これはってのがあった。
輝きが他とは比べものにならないのだ。ひょっとすると、ペコ以上かな。
うん。なんかレアものっぽい。ラッキー!
さて、あらかた回収を終えた。
けっこう逃げてったスピリットも多いけど、あれはモンスターかなー。
なんとなくだけど、モンスターのほうがスピリット状態でのムーブに手慣れてる感じがするんだよね。
で、どうしようか。ああ、鏡を探さないとね。
ということで、スアマちゃんが隠れた家の前へ。
「スアマちゃーん! 終わったよー!」
するとスアマちゃんが、よろよろと歩いて出てきた。
そして、惨憺たる光景を目の当たりにして、へなへなとしゃがみ込む。
「お、おとうさん、おかあさんは……」
「えーっと、あの中のどれか?」
爆裂惨殺伝説殺人事件の現場を指さす。
何一つとして原形を留めてないので、どれ? って訊かれても困る感じだ。
「いや、でもさ、もう治んない状態だったし、ひと思いに殺っちゃったほうが苦しまなくてすんだかなって思うんだけど」
って言ってみたけど、スアマちゃん、話聞いてないな。
目に光がないし、どっかいっちゃってるような。
ずいぶんとダメな感じだけど、どうしようかな。偽装に協力してもらおうかと思ってたんだけど、これじゃ使い物にならないなぁ。
けっこうあてにしてたんだけど。私みたいなモンスター相手でも話ができてたしさ。
おそらくだけど、普通ならこんなにスムーズにはいかないんじゃないかと思うんだよね。
別の人間を探すにしても、村には誰もいないし、別の集落に行ってもそう簡単に人間に言うことを聞かせられるかどうか。
「スアマちゃん。だったら、家族の人を生き返らせてあげようか?」
なのでそんなことを言ってみた。
悪魔の誘惑!
というか、ミミックの甘言!
すると、スアマちゃんはゆっくりと私を見た。
私は収納していたスピリットキャッチャーの瓶を手に出現させる。
「これね。人間の魂みたいなもんなの。さっき回収しておいたんだ。これさえあれば生き返るのも可能だと思うんだよねー」
「嘘……だって、神父様は、人は死んだら終わりだって……神様のところに行くんだって……」
嘘じゃないよ。
可能だと思う、としか言ってないし。生き返らなかったらごめんね。
「神様のことは知らないけど、少なくとも冒険者とかモンスターは生き返ったりするらしいよ? そして、魂は私が捕まえちゃったから神様のところには行けないし」
たぶんただの人間は生き返ったりしないんだろうなーとは思うけど。
「だからさ。生き返るかどうか試したげるから、私に協力してよ」
あー。ここで、生き返らせるって断言できないのが私の甘いところだよなー。
けど、嘘をつくのはなんかやなんだよね。
「ほんと……ですか? ほんとうに生き返らせて……」
スアマちゃんが正気を取り戻してきた。
「んー。まあ、この中にスアマちゃんの家族の魂があればだけどね」
そう言って、ぽいぽいっとスピリット入りのキャッチャー瓶を取り出して放り出す。
「スピリットはこんなんだけど、外の様子はわかってるみたいだよ。呼んでみたら」
「お父さん! お母さん! モナカちゃん! アルフレッドくん! スアマです。わかりますか?」
スアマちゃんが呼びかけると、たくさんの瓶の中からいくつかの反応があった。
マジか。
やってみるもんだね。
で、そのアルフレッドくんってのが、すごい輝いてたレア物みたい。
私は、モナカちゃんらしき瓶を拾って、スアマちゃんに渡した。
「これって……」
「とりあえず手付け的な? ちゃんと私に協力してくれたら全部返したげるし、生き返らせるのもやったげるよ」
スアマちゃんが、モナカちゃんの瓶をぎゅっと抱きしめる。
「……わかりました。ハルミさんに協力します!」
よし! 人間の下僕ゲット!
ただ脅すよりも、こうやって餌をちらつかせたほうが協力的になるんじゃないかと思ったのだ。
「じゃあ、とりあえず鏡を探そっか!」
「はい。たぶん村長さんのおうちにはあると思います」
「盗られちゃってるかもしれないけど、まあ行ってみようか」
てくてくと村長の屋敷に向かう。いやあ、村長の屋敷まで爆裂してなくてよかった。
鏡は玄関に入ってすぐのところで見つかった。
大きな姿見の鏡が、壁に取り付けられていたのだ。
鏡は貴重品らしいけど、盗賊たちもこんなに大きな物を持っていくのはめんどうだったんだろうね。
で、宝箱改三。上半身モードに変化してみる。
「ていっ!」
変化は一瞬。足がなくなって、床に落ちて宝箱が開くと、中から女の子の上半身があらわわれる。
「ハルミさん。そんなこともできるんですね」
「どう? 可愛い?」
「はい。とっても。……その、服を着ておられないのが気になりますけど……」
服は何着か持ってるので、後で着てみよう。
で、肝心の私の顔だけど……うん。可愛いじゃないか。
お目々はぱっちりで大きいし、まつげも長いし、小顔だし、色白だし。
これなら人間の男をだまくらかすのも……宝箱に食われかけてるヴィジュアルでさえなければな!
けどまあ、自分が可愛いってのはテンション上がるし、悪くない気分だ。
*****
というわけで回想は終わり。そう。ここまで回想だったんだよ!
今、私の上に乗ってるのはスアマちゃんというわけだ。
下半身モードだとスアマちゃんの視点が高くなって怖いらしいから、今は宝箱改状態。つまり太腿から先が生えてる状態になっている。
一緒に歩いてもいいんだけど、人を乗せてるほうが使役モンスターっぽいかなーって判断。
私たちは村を出て、手近な街に向かっているところだった。目的地である闇の森はその先にあるのだ。
「その、モンスター使いのふりをするというのはわかったんですけど、協力というのは何をすれば……」
スアマちゃんがおずおずと訊いてくる。
「私の目的は北の大陸に行くことね。でも、モンスターの私がのこのこ地上を歩いてたら大騒ぎじゃない? だから、スアマちゃんに手伝ってもらって、偽装しようと思ってさ」
「その。これって、一般的なモンスター使いのスタイルなんでしょうか? 村に、剣士さんとか、魔法使いさんはいたので、そのあたりはなんとなくわかるんですけど」
「んー、どうなんだろ?」
うん、これ、穴だらけの計画だね!
そもそもモンスター使いのこと何も知らないじゃん。
アルドラ様も思いついたこと適当に言ってみただけだろうな、これ。
まあ、モンスター使いってジョブがあるらしいのは確かなんだけど。
「ねえ。そもそも、冒険者ってどうやったらなれるの?」
「わかりません。私のような農民には縁のない話だと思ってましたから」
冒険者って奴らが明らかに常人とちがうのはわかるんだけど、それが先天的か後天的かまではわかんない。
スアマちゃんが知らないってことは、おおっぴらになってないのかなー。
「ねえ。これから行く街に冒険者っているかな?」
「はい。ギルドがありますよ。村の護衛の方もそちらから来てもらってましたし」
たぶんその街の冒険者のメインフィールドが闇の森なんだろうね。
とにかく、美少女モンスター使いが、美脚ミミックを連れてるって偽装方法が通用するかどうかは、試してみるしかない。
まずはその街の冒険者ギルドに行ってみようじゃないか。
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