第22話 争奪
スアマちゃんが村へと歩きはじめたので、私も隣を歩くことにした。
「でもさ。盗賊って何がしたいわけ? さっきそこで盗賊に会ったんだけどさ。一仕事終えたーって感じだったよ。残ってる人たちってなんなの?」
「わかりません。盗賊は突然やってきて、いつもは村を守ってくれている冒険者さんも何故かその時はいなくって、村の中をむちゃくちゃに荒らして……ほとんどの人は捕まって連れていかれちゃいました。でも、なぜか私たち一家は残されて……」
「んー? なんだろね。スアマちゃんちは商品価値なしって思われたのかな?」
「そうですね……私不細工ですし、そう言われると返す言葉もないんですが……」
いや、スアマちゃんは美少女だと思うし、家族も美形なんだとしたらそれはそれで別のお楽しみを考えたってことかな?
だとしても、全員連れていって選別すりゃいい話だしなぁ。なんだろ。何か目当てが別にある?
「あ、着きました。そこです」
掘っ立て小屋だった。まあ、貧乏村の家なんてどこもこんな感じなのかな。
「おお。ここかぁ。何人暮らし?」
「五人家族です。私の他に両親と妹と弟がいます」
「誤解のないように言っとくと、家族を助けるとかは特に考えないからね。盗賊やっつけたら巻き添えで死んじゃうかもしんないよ?」
「はい。それは……」
ま。わざわざ家族の人を狙ったりはしないけど、いちいち守ろうとは思わない。
「じゃ、スアマちゃんはちょっと待っててね」
気配を探りながらスアマちゃんちに近づいていく。
んー? 特に何も感じないんだけど。
お楽しみなことをしてるなら、もうちょいどったんばったんしてる気配がするんじゃないのかなぁ。
格子窓からそっと中をのぞき込む。下半身モードでちょっと背が伸びてるのが地味に役に立つね。
中は荒らされてはいるけど、誰もいなかった。
「スアマちゃん、誰もいないよ? 鏡はどこにあるの?」
「はい。私のキャビネットの中にあるんですが」
スアマちゃんが来たので、一緒にうちに入った。
そのキャビネットとやらは見るからに荒らされていて、スアマちゃんがごそごそと探しているけど、どうも鏡はないみたいだ。
「盗られちゃったのかもしれません。うちにある金目の物の中だと目に付きやすいですし……」
うーん、盗賊の誰かが持ってるとなるとわざわざ探すのもめんどうな話だな。
まぁ、鏡を欲しかったのは、自分の姿を確認したかったからだけなんだけど。でも、それだけなら水面でも見りゃいいかなぁ。
「あの! 村長さんのおうちなら鏡があると思うんです」
「でも、そっちも盗られちゃってるかもしれないよね」
「それは、そうなんですが……」
まあ、闇雲に探すよりはちょっとはましかな。
「とりあえず村長さんちに案内してよ」
「はい!」
ということで、スアマちゃんのおうちを出て、てくてくと向かう。
村の一番端にある、村一番のお屋敷ってことだった。
そんなに大きな村でもないので、すぐにその屋敷は見えてきたんだけど、あたりに人がいるのもわかってきた。
屋敷のとなりにある蔵の前に人が集まってるのだ。
「おらぁ! さっさと出てこいや! 母親がどうなってもいいのかよ!」
「あーあ、可哀想に。親父はもう切るとこなくなっちまったぜ?」
盗賊っぽいのは十人いて、そのうちの三人は蔵の扉をどんどこ叩いてる。
スアマちゃんの家族らしき人は、お父さんとお母さんと妹かなって人がいるんだけど、虫の息だった。
「人間ってのはこれだからなー。モンスターも人間を殺すけどさぁ。ただ弄ぶようなことは……んー、する奴もいるのかな?」
ま、私はしないってことで。
「ひっ……」
スアマちゃんが息を呑む。
けど、そこで叫んだりしないあたりちょっと冷静。でもないのか。単に言葉を失ってるだけかも。
察するに、蔵の中に弟さんが閉じこもってて外からは開けられないので、家族を拷問して出てくるように仕向けたけどうまくいってない。ってところだろうか。
ま、なんとなくの推測だから全然違う可能性もあるけどね。こんな村に住んでる農民の少年を必死に求めるって、意味わかんないしさ。
「どうする? 今さら盗賊やっつけても無駄っぽいけど」
スアマちゃんの家族が治らないだろうなってのは、一目でわかる。冒険者とかモンスターなら、ヒールポーションが効くんだけど、ただの人間には効果がないのだ。
「……な、なんでもします。なんでもしますから、あいつらをやっつけてください!」
「なんでもかー。別にしてほしいことは……いやあるのかな。まあいいや。盗賊をやっつけるってのがもともとの約束だし、それはやったげるよ。スアマちゃんはどっかに隠れてて」
「……は、はい。よろしくお願いします……」
スアマちゃんはふらりと近くの建物に入っていった。だいぶイっちゃった目をしてたけど大丈夫かな。
さてと。じゃあさっくりとやっちゃいますか。
ととと、っと移動して奴らの背後に。
全員蔵に注目してるらしく、警戒はおろそかだ。
「こんにちはー」
不意討ちでもいいんだけど、見るからに雑魚だしそこまですんのも逆に気がひけてしまう。
「おう、娘っこ一人つかまえるにしては遅かったな……なんだてめぇ!」
振り返った盗賊は驚いていた。まあ、宝箱が歩いてくるとは普通思わないよね。
「なんだと聞かれると、通りすがりのミミックです!」
「くそっ! 時間をかけすぎたのか。モンスターが来やがるとは」
ん? どゆこと?
疑問に思っていると、背後から何かがやってくる音が。
視点を背後に移動すると、モンスターの群れがやってくるのが見えた。
ゴブリンとか、オークとか、スケルトンとか、雑魚っぽいやつらだけど、数だけは多い。
んんん?
なんだこれ? このあたりにはモンスターはいないって話だったと思うけど。
一番近いモンスター拠点でも、これから向かう闇の森のはずで、そこは防衛型だから村を襲ったりしないような。
「ターゲッティング!」
新たに身に付けたプラグインを使用する。
これは、スキルを使用する相手を選択するだけの能力で、スキルとの連係がないと無意味な機能なんだけど、モンスターが相手の場合は所属勢力がわかるようになっているのだ!
と、適当なモンスターをターゲッティングすると、その姿を縁取るように青い光があらわれる。
ふむ。青の魔王配下のモンスターか。
*****
「あ、そうそう、ハルミちゃん。地上に出たら他のモンスターにも出会うことがあるかと思うけども。無闇に喧嘩は売らないようにねー。モンスター同士は仲良くね!」
部屋を出ようとしたところで、アルドラ様が声をかけてきた。
「そりゃまあ、わざわざ戦ったりしないですよ」
「うん。そう願うわー。けどね、青の奴らだけは別。あいつらは問答無用で殺っちゃっていいから。てゆーか、青の奴らを相手にイモ引くような真似したら、ぶち殺すからねー」
あれ? なんか変わらない口調でさらっと物騒なこと言われてない?
「私たち赤の魔王配下とは不倶戴天の敵同士なのよー」
「魔王様って何人もいるんですか?」
「うん。今は八人ね。基本的には不干渉ってことになってるけど、それぞれに遺恨があってね。なかなかにややこしいのよねー」
「はあ、そうなんですかー」
「まあ、このあたりは赤の支配下だから、そんなに気にすることはないと思うけどー」
*****
と、そんなことを言われていたことを思い出した。
そうか。こいつらが青の奴らか。
けど、なんでこんな村に?
そんなことを思っていると、モンスターが蔵に殺到していた。
青からすれば、赤の私は敵だろうに、どうでもいいとばかりに素通りして蔵に突撃しているのだ。
盗賊はというと、少し離れたところで様子を見ている。まあ数が違うからね。逃げるよね。
「なんだこれ?」
私も通りの端に寄って、様子を見ていると、さらに背後から何者かがやってきた。
今度は冒険者の軍団だ。
冒険者たちも、ちらりと私は見るものの、素通りして蔵を襲っているモンスターに突撃している。
「ああ、もう、わけわかんない!」
状況が見えなすぎてイライラする!
ということで。
「ミミックダッシュ!」
だだだだだだだっ! っと一気に戦ってる奴らの中へと入り込む。
そして。
「爆裂脚! 爆裂脚! 爆裂脚! 爆裂脚!」
あたるを幸い、手当たり次第に爆裂脚を喰らわせながら駆け抜けた。
ざっと喰らわしてUターン。
元の位置に戻ってきて、なんとなく指パッチンしてみる。
いや、別に時限発動だから、私の合図とか関係ないんだけどね。
どかどかどかどかどかどかどかーん!
私の背後で、やたらと派手な爆発音が連続で次々に鳴り響いた。
「あー、すっきりした!」
もうさ。私そっちのけで、なんだかわかんない奴らが勝手に争ってるとか、なんなの?
むかつくんだけど!
そして振り向いて、爆裂した奴らを見てみる。
「あ!」
蔵もいっしょくたに爆裂して綺麗さっぱり吹っ飛んでいた。
爆裂は重なると威力が相乗されるからなー。いい感じのところに蔵があったかなー。
「なんか中の物を巡って争ってたような気もするけど……まあいっか!」
いいことにしておいた!
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