第21話 村
無理でした!
どんなにがんばっても、上半身と下半身はどっちか一つしかあらわれなかったのだ。
将来的にどうかはわかんないけど、少なくとも今は無理。
なので、人間のふりをして楽々旅気分計画は中止ってことになる。残念。
まあ、さんざん擬態を繰り返したおかげで、変身はスムーズにいくようにはなったけどね。
今の私の擬態モードは四つ。
宝箱。
宝箱改。手足だけが生えるやつね。
宝箱改二。腰から下が生える。手は宝箱の側面から出てるよ。
宝箱改三。宝箱の中から女の子の上半身が生える。宝箱の側面と底には何も生えず、自力で動けない。
ということで、今後は改二をメインにしようと思う。
改二だと、多少攻撃距離が伸びるのだ。それに、腰があるからひねりを加えて威力を出せそうな気もするし。
それと装備部位として、腰が増える。これはかなり有利だね。ま、アイテムによるけど。
リスクは表面積が増えて攻撃を喰らいやすくなるかもしれないってことかな。ま、深紅の薔薇で防御力は上がってるので、そんなに気にする必要はないかも。
幸いなことにペコ用に買っておいた女物の服があるので、それを身に付ける。
モンスターなんだけどさ。さすがにお尻丸出しはなんか嫌だし。
ということで、パンツを履いて、スカートを履いてっと。
どうなんだろう、これは。可愛くなった……のか?
ま、そのあたりも含めて、やっぱ鏡は見てみたいな。視点位置変更だけだと、全体象がよくわかんないんだよね。
ということで、村に行ってみよう!
さささっと移動してみる。
おお! なんか動きが軽快だ。
これまではあんまり膝を上げられなかったんだけど、今は余裕があるからちゃんと走れるよ。
いやあ、これだけでも下半身モードを習得してよかったかも。
森を一気に抜けて、村の前にまですぐに辿り着いた。ま、深紅の薔薇のおかげで移動速度はもともと速いんだけどね。
村は木の柵で覆われてるんだけど、盗賊相手にはたいして効果はなかったみたい。
まだ、中で盗賊どもが暴れているのか、けっこう騒がしい音がしてる。
うーん、どうしよっかな。
とりあえず中に入ってみて、あとは行き当たりばったりで。なんて考えていると、怒鳴り声が近づいてきた。
どたばたどたばた。
なんか走ってきてる。
ぼけぇっと待ってると、村の入り口を抜けて、女の子がやってきた。
「だ、誰か助け……ひぃ!」
おい。
ちょっと傷付いたぞ。なんで私を見て怯えてるんだよ。
スカートを履いてる可愛い女の子だってのにさ。
で、女の子は気が動転したのか、足をもつれさせてこけてしまった。
パニクってるなー。
たぶん、盗賊に追われてる村の娘だろうな。
どうにか逃げてきたのに、目の前にはモンスターがいて、もうどうしようもないって気分なのかも。
別に私は、ソウル的なうまみのないそこらの村娘をわざわざ殺そうなんて思わないんだけど、そんなことはこの子にはわかんないだろうし。
とことこと村の子に近づく。足がすくんで動けないのか逃げようとはしてない。
「こんにちはー」
「ひぃっ! しゃ、しゃべった!? た、食べないでください!」
「大丈夫、大丈夫。私、生ものは食べないからさー。なにしてんの?」
「あ、その、村が、襲われて、お父さんも、お母さんも、妹も、その――」
「お、まだこんなとこにいやがったぜ」
そんな声が聞こえてきたのでそちらを見てみると、盗賊どもがぞろぞろと村から出てきていた。
「い、いや、来ないで!」
すると何がおかしいのか、盗賊どもはげらげらと笑いだした。
「あほかよー。この状況で、来ないでー、なんて言ってどうなるってんだよなー」
「そうそう。仲良くみんなで遊ぼうぜー? みんな待ってんだからさー」
「ママも妹もお友達もなー」
私は村の子の前に出て、盗賊と相対した。
「あのさ。私がこの子と話してんの。邪魔しないでくれる?」
「は?」
「なんだこれ?」
「モンスター?」
「なんでこんなとこにいんだよ」
「キモっ!」
「どうせ雑魚だろ」
盗賊の一人が、戦斧を振り上げ、下ろす。
私は避けなかった。
こんなもの避ける必要もない。
がっきーん!
斧が砕け散る。この程度、なんてことはない。
大きな斧を振り回す筋力が自慢のようだけど、こんなもん、あのマッチョ冒険者に比べれば子供のようなものだ。
「な!」
「さてと。爆裂を使うまでもないかな。レベル100の力を試させてもらうね」
こいつらがいると落ち着いて話もできないし、力試しにもちょうどいいので、ちょっと遊んでやることにした。
けっして、キモっ! って言われてむかついたからではない。
さて。
目の前にいる盗賊は五人。そういや、盗賊だと勝手に思い込んでたけど、そのあたりはよくわかんないね。ま、どうでもいいことだけど。
左から順に盗賊AからEと呼んであげよう。
「ミミックローキック!」
すぱーん!
私の華麗な足が、斧装備の盗賊Cの膝横に炸裂した。
盗賊Cはその場で一回転。頭を地面にぶつけて、首が変な方向に曲がって、倒れた。
うん。弱すぎ。力試しにもなんないような。
「ミミックハイキック!」
左端の盗賊Aの前に移動。
上体を反らし、足を伸ばし、頭部を蹴る。
軸足と腰を回転させて、斜め下に振り抜いた。
ぐしゃり。
盗賊は地面に叩き付けられて、なんだかよくわかんない状態になった。
おお、足が長いっていいなー。ハイキックが楽々届くよ。それに腰が入ってるとキレが違う。
しかし、自分で言うのもなんだけど、これって素人の蹴りじゃないよね。
もしかしてモンスターになる前は美少女格闘家だったりしたんだろうか。
「このヤロー!」
盗賊Bの剣が叩きつけられるも無視。
がきん!
痛くもかゆくもないね。
他になんかやっときたいのあったかな。
パンチはどうかな。と思ったけど、宝箱の側面から腕が出てるせいか、ちょっとばかり使い勝手が悪いんだよね。なので、腕はあくまで補助と割り切ったほうがよさそう。
てことで。
「ミミックYAKUZAキック!」
ただの前蹴りだけど狙いは膝だ。
ぼぎゃん。
妙な音を立てて盗賊Bの膝が、曲がっちゃいけないほうに曲がってしまう。
ま、今の私の攻撃力だとどこ蹴っても効いちゃうんだけど、完璧なタイミングで正確に膝を狙えるって、すごくない?
残りは二人。
と、いうことで。
「ミミック旋風脚!」
まあ、そう言われてもわかんないから解説はいるだろう。
これは、左内回し蹴りを出した勢いで回転しながら右の軸足で飛んで、右足で蹴るという大技なのだけど……まあ、一回転しながら左右の足で連続で蹴ってると思ってくれたらいい。
盗賊EとDはまとめて吹っ飛んだ。
もちろんクリーンヒットしちゃってるので、首は変な方向に曲がっている。って変な方向に曲がってる奴多いな。
あ、盗賊Bは膝が折れてるだけだからまだ生きてるか。
「ミミック踵落とし!」
足を振り上げて落とす。しゃがんでるから頭のてっぺんを狙うのはむちゃくちゃ簡単だ。
ずごん!
ハイヒールの踵がすごい勢いで盗賊Bの頭にめりこんだ。
まあ、当然の結果なんだけど、下半身モードの慣らしとしてはこんなもんかな。
いやあ、これまでと比べると自由度が上がってるのが、たまらなく気持ちいい。
「さてと。話の続き、しよっか」
血塗れの足をぴっぴっと振りながら振り向く。
「ひゃい! た、助けて! 助けてください!」
村娘さんはあからさまに怯えていた。
しゃがみこんだままぶるぶると震えている。
そりゃそうか。モンスター大暴れだし、いつ自分に矛先が向くかわかんないし。
「落ち着いてー。話がしたいだけだから。逆に言うと話をしてくれないと殺しちゃうかもね」
そう言って落ち着くのを待つ。
ま、この子と話をしようと思ったのも気まぐれだし、あんまり怯えっぱなしなら用はないけどね。
「あ、あの……なんでしょうか」
ちょっと待ってると話しかけてきた。
案外冷静だね。取り乱し続けないのは好感が持てる。
「私はハルミっていうの。あなたの名前は?」
「私はスアマです。その、話というのは……」
「最近、人間の言葉を習得してさぁ。あんまり使ってないから試してみたくって。話の内容はなんでもいいよ」
「そうなんですか。ハルミさんは、なんのご用でこちらへ?」
「ご用ってほどのことでもないんだけど、鏡がないかなーって思ってさ。村ならなんかあるでしょ?」
「鏡、ですか。私も一つ持ってますけど」
「おお、いいね。それちょうだいよ」
「……あの! 鏡を差し上げますから助けてもらえないですか!」
ちょっと思い詰めた顔でスアマちゃんが言う。
「んー? それって私と交渉でもしようってこと?」
「あ、その。そんな大それた話じゃないんですが……鏡は私の家にありますし、盗賊たちがいるのでもしよければ、取りにいった時にやっつけてもらえないかと……」
ふむ。
どうしよう。
アイテムを餌にされてほいほい言うこと聞くのも、モンスターの沽券に関わる気もするんだけど。
「いいよー。じゃあ案内してね」
「は、はい!」
でもまあ、スアマちゃんを無視して、どこにあるかもわかんない鏡を探すってのもめんどくさい話だしね。なので、提案にのることにしてみた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます