第17話 買い物

 話は終わりということで、私はアルドラ様の部屋を出た。

 出発は次シーズン開始時ってことなので、ダンジョンのリフォーム期間である二日はオフってことになっている。ダンジョンは週休二日制なのだ。

 だけど、ただだらだらしてるわけにもいかない。この二日でいろいろと準備をしなければならないだろう。

 なにせ、人間どもの中を旅していかなければならないのだ。いろんなことを想定しとかなきゃいけないはずだよね。

 で、隣を見てみる。

 そこにはコッペリアのペコちゃんがいるのだった。私の部下ってことらしい。

 可愛らしい服を着た、可愛らしい女の子なんだけど、人形だったりする。

 球体関節人形ってやつなのかな。関節部に継ぎ目があるんだよね。口も開閉できるようになってるけど、そこにも筋が入ってる。

 つまりは、アウトだよこれ!

 近づかれてマジマジと見られたら人形だってバレバレじゃん! ってことなのだ。

 なので、これをどうにかごまかさなくてはいけなくて、その方法もこれから考えないといけないってことだろう。うーん、先行きは不安だ。

「なに、見てるんですか?」

 と、どうしたもんかなーとペコちゃんを見ていると、ペコちゃんが言ってきた。

「あ、いや、人形ってバレないようにするにはどうしたらいいかなーって」

「何ため口きいてるんです?」

「え?」

「雑魚が調子にのらないでくださいよ」


 げしん。ぽてり。


 尻餅をついてしまった。

 呆気にとられちゃって一瞬何が起こったのかわかってなかったけど、つまり、ペコちゃんに蹴られてバランスを崩してしまったのだ。

「アルドラ様も何を考えておいでなんでしょう。たまたまレジェンドアイテムを手に入れたにすぎないミミックごときをエリモンに推薦するだなんて」

「へ? あの」

「レベル15程度のゴミが、レベル128の私に気安く話しかけないでください」

 そう冷たく言い放ってペコちゃんは、さっさとどこかへ行ってしまった。

 えーっと……こいつ、私の部下って話なんだよね?

 で、そんな態度っと。

 あー。なんだ。その。あれだ。

 殺す!

 きっちりカタにはめてやろうじゃないか、あぁ!?

 私はこーゆーのをなあなあですますつもりはさらさらないのだ。

 上下関係ってもんをわからせてやろうじゃないか!

 ってどこいっちゃったんだよ、あいつ。

 もう姿が見えないんだけど。

 まあ、あからさまに私の部下なんかやるつもりはねぇって態度だったけど、アルドラ様の命令だし出発時には来るだろう。来るよね?

 さて。

 気を取り直した私は城内をてくてくと歩きだした。

 向かうのは会計さんのところである。

 そこで、ポイントがもらえるってことなのだ。

 適当に無機物系の人に道を聞きながら進むと、経理部に辿りついた。

 窓口があるのでそこに行ってみる。

 もう誰も並んでいないので、私がアルドラ様の話を聞いている間にポイント配布はだいたいすんじゃったのだろう。

「こんばんはー」

 一応説明しとくと、シーズンは深夜零時に終了なので、まだ夜中なのだった。

 まあ、地下なのに空があって月が出てるとか、よくわかんない場所なので、本当に夜なのかは自信がないけどね。

「はーい。ポイントの人? 新人さんかな」

 窓口のカウンターに姿をあらわしたのは、髪の毛が蛇になっててうにゃうにゃしてる女の人だった。

「はい。話を聞いてたら長引いてしまって」

「じゃあ、まずはウォレットプラグインからインストールしますね」

 すると、目の前にぴょこんと何かが出てきた。

『ウォレットプラグインのインストールを行います。よろしいですか?』

 他には『はい』『いいえ』ボタンと、説明文だ。

「これは『はい』を選べば?」

「ええ。けど、気をつけてくださいね。今回は大丈夫ですけど、インストール時は権限とか、提供元とかをよく確認してください」

 まあ、これを疑っても仕方ないしね。ぽちっと『はい』を押す。

 このウインドウみたいなのは、考えるだけで操作できるようになってるのだ。

 ちょっと待ってるとインストールは問題なく完了した。

 ステータスウインドウの上のほうに0ポイントって表示されてるので、これでいいんだと思う。

「じゃあ、ポイントを振り込みま……ぶほぉっ!」

 びちゃぁ。

 っと、盛大に唾を吹きかけられてしまった。本体の他に頭の蛇も同時だったのでけっこうな量だ。

 汚いなー。

「百万て! 百万てなんなんですか! ちょっと待っててください!」

 そう言って受付のお姉さんは奥に引っ込んでしまった。

 相場をわかってないんだけど、なんかおかしかったんだろうか。

 言われたようにちょっと待ってると、お姉さんはすぐに戻ってきた。

「確認を取りました。間違いないそうです。じゃあ振り込みますね」

『経理部から百万ポイントの譲渡申請がありました。受理しますか?』

 ここで『いいえ』とかするほどひねくれてはいない。ってことで素直に『はい』を押す。

 すると、0だったポイント表記は百万になった。

 おお! 初給料だ! めでたい!

「いやあ、1シーズンで百万も貯めた人初めてですし、それが新人さんとはねぇ。びっくりしました」

「普通はどんなもんなんです?」

「千もいけばいいとこだと思いますよ」

 なるほど。ま、冒険者をやっつけまくったしね。これぐらいいくのかも。

「このポイントで買い物とかできるんですよね?」

「はい。モンスター間での取り引きは、このポイントを介することになります」

「ありがとー」

 じゃあ買い物にいきますか!


  *****


 城の周りは夜でも賑やかだった。

 ていうか、どうなんだろ。ここってずっと夜だったりするんだろうか。月の位置はさっきと変わってないような。

 まあそれはどうでもいいか。

 で、何を買うのかだけど……てか、何を売ってるんだ?

 ということで、適当な店に入ってみる。

「こんばんはー。何屋さんですかー?」

「ってあんたな。そんなことぐらい確認してから入ってこいよ」

 とあきれたように言うのは、水槽に入っている脳みそだった。

 店内には特に何があるわけでもなくて、カウンターの上にででーんと水槽が置かれているだけなのだ。

「まあいいか。ここはスキルやらプラグインやらを売ってる店だ」

「おお! じゃあ、時間のわかるやつ売ってます?」

「もちろんだ。そんなもん欲しがるってことは新人か」

「まあそうですね。ください、それ」

 百ポイントってことだったので、さっそくインストール。

 すると、ステータスウインドウの上に時刻が表示されるようになった。

 10384/5/13 03:44:43

 こんな感じだ。一年は三百六十五日で十二ヶ月で、一日は二十四時間で一時間は六十分だよ。なんでそうなのかはしんないけどね!

「他にも便利プラグインってなんかあります?」

「そうだな。定番はこのあたりだが」

 ということで、勧められるままにざくざくインストールしていく。

・ターゲッティング

・レベル表示(要鑑定スキル)

・定規(スケール)

・クラスチェンジ

・字幕(要言語スキル)

・アイテムショートカット

・電卓

・日時計算

・アラーム

・タイマー

・計数

・マップ

・オートマップ

・お絵かき

・ワープロ

・暗号化

・カメラ

・サウンドレコーダー

・ビデオレコーダー

・スケジュール

・ルート権限

・ファイル転送

・ファイルシステム

 こんなところかな。正直いらんだろ、ってのもあるけど、まあついでだし。

 こんだけ入れても十万ポイント!

 ……ってあれ? けっこう使ってる? もしかしてぼられてる?

「つーか、途中でこんなもんいるか! って言われるかと思ってたら、勧めたの全部買いやがって……」

「まあいいじゃないですかー。何か役に立つかもしんないですし」

「あんたがいいならいいけどよ。で、スキルはいいのか?」

「そうそう。スキルも買えるんだよねー。そうだなー、言語系スキルってあります? 人間と話したいんですけど」

 地上は人間の世界だし、旅をするならいるかなって思ったんだよね。私が持ってる言語スキルだと、人間が話す言葉の意味はわかるけど、こっちから話しかけることができないのだ。

 あ、ちなみに言語スキルの段階はこんな感じ。

 +なし:言葉を聞いて意味がわかるだけ

 +1:話をすることができる。

 +2:発声器官を持っていなくても意思の疎通が可能。どこからともなく声が出るのだ。

 つまり、私の場合は話がしたければ+2の取得が必須なのだ。

「いろいろそろえてるぜ。人間ももちろんある。一種族あたり、+2までで五千ポイントってところだな」

「おー、そんなもんか。じゃ全部ください!」

「全部って……全部か? どんだけポイント持ってんだよ……。じゃあ三十万ポイントな」

「って高っ! あれ? 全部って六十種類もあるんですか?」

「いや、うちにあるのは五種類だな。メジャーどころは押さえてる」

「だったら、高くても二万五千ってとこですよね?」

「それなんだがな。同系統のスキルは追加すればするほど値段が上がるんだよ」

「なんで!?」

「同系統のスキルは保存領域が同じでな。詰め込むにはコストがかかるんだ。ま、技術料ってとこだな」

「まあいいや。ください」

「けっきょく買うのかよ!」

 うん。言語スキルって重要だと思うんだよね。使いどころはいろいろとあると思うんだ。

 ということで五種類買いました。

 なのでスキル欄はこんな感じになった。


 言語(無機物系+2、人間+2、死霊+2、亜人+2、獣+2)


「じゃあ、他は……」

「ちょっと待て!」

「はい?」

「いくらなんでも、買い物の仕方が無茶苦茶だ! ぼっといてなんだけどよ!」

「そうですか?」

 てか、やっぱぼられてたのか。

「ほら」

 ん?

 目の前になんか出てきた。

『ブラリンからのファイルを受信しますか?』

 受信してみると、目の前に地図が展開された。

 ファイル転送とマッププラグインのおかげだ。けっこう便利だな。

 地図はこの街のもので、その中の一点に印が付けられている。

「そこに行け。いろいろと相談にのってくれる婆がいる。お前に必要なものを見繕ってくれるだろ」

 ほうほう。

 じゃあ行ってみますか。

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