2章 闇の森
第16話 説明
私、ミミックのハルミ!
ちょっと脚の生えてる普通の宝箱!
と、唐突に自己紹介なんてしてみた私ですけど、なぜか今あぜ道をてくてくと歩いてたりする。
青いお空を小鳥たちがちゅんちゅん言いながら飛び回ってたり、牛とか豚のうんちの匂いまじりの風がそよそよとそよいでたりすることからもわかるように、ここはダンジョンの中ではなくて、畑とか牧場とかがある田舎っぽい場所なのだ。
そう。脚の生えた宝箱が地上をのんびりと歩いているのである。って、ダメだろそれ。いろいろ問題あんだろ。
とまあ誰もがツッコミたくなるかもしれないけど、てくてくと歩く私の上にはものすごく可愛い感じの美少女さんが座っていたりするので大丈夫だったりするのだ!
……ごめん。全然大丈夫じゃないよね。意味わかんないよね。
なんでこんなことになったかというと、話は数日前。アルドラ迷宮のシーズンオフにまでさかのぼる。ちょっと回想するよ!
*****
「エリモン……ですか?」
キラキラとしたアルドラ様の部屋で、エリモンセンターに行けと言われた私は呆気に取られた顔になっていた。
あ、顔はないんだけども、そういう気分ってことだよ。
「そう、エリートモンスターなの。三騎竜とか、四天王とか、五人衆とか、六部とか、七人ミサキとか、十傑集とか、十二魔将とか、七十二柱とか、百八星とかの候補生なのよー」
そう言っているのはアルドラ様。
ゆるふわ系の女の人にしか見えないけど、ちらりと尻尾が見えたりしてるのでそれでかろうじてモンスターとわかるような感じの人だ。
「それ、どれが、どう偉くて強いんですかね……」
一つに集約しろと言いたい。それに五人衆とか五人いるだけだろ。あと、連番なのかと思ったら途中から適当になってるだろ。
けど、目上の人にそんなことは口が裂けても言えないのだった。
「それはともかくとして、うちにもエリモンへの推薦枠が一つ割り当てられてるんだけど、これまでは推薦するほどの子がいなかったのー。けど、ハルミちゃんならもしかして行けるんじゃないかなーって。あ、もしかしてババ引いちゃったって思ってる? 厄介払いされてるみたいな?」
「いえ、特にそんなことは思ってないんですけど、その、意味が全然わかんないっていいますか、私、産まれてきた意味すらわかってないんですけど」
「産まれてきた意味? そんな哲学的なことの答えなんて私も知らないわー」
あはははは。と、笑われてしまった。まあ、そりゃそうか。
けど、私は作られた存在なわけだし、作った側にはなんらかの意図があるわけだよね?
「ああ、マリニーちゃんが説明するって言ってたこと?」
忘れてる人もいるかもしれないから説明しとくと、マリニーさんは地下十階ボスの蜘蛛女(アラクネ)の人ね。
ファーストシーズンを生き残ったら、いろいろ説明してくれるってことだったんだけど、私はなぜか説明会からはハブられてここに連れてこられたってわけ。
「はい。私、それを楽しみにしてたんで、説明すんの無駄だって言われて地味にショックだったんですけど」
けどまあ、こういうことだったわけか。
つまり、このダンジョンから出ていくわけだから、ここの説明をする意味がないってわけね。
あれ? それってつまり、戻ってくんなってこと?
「マリニーちゃんはああ見えて神経質なのよねー。別にみんなと一緒に教えるぐらいいいと思うんだけど。まあ、それについては私が教えといてあげる!」
「ほんとですか!」
「まず私たちモンスターってのはなんなのか?」
「おぉ! それです! そーゆー基本的なことを知りたかったんですよ!」
「人間をおちょくって、あざけりながら、小競り合いを続ける存在なのです!」
「ん?」
あれ? なんか思ってたのと違う?
なんかこう、人間共を根絶やしにするのだぁ、がははははっ! 的なことかと思ってたんだけど。
「基本的には反人間(アンチヒューマン)な存在なの。で、戦い合い、殺し合ったりはするんだけど、絶滅して欲しいわけでもないのよねぇ。なんてゆーの? 仲良く喧嘩したいみたいな? 遊び相手がいなくなったらそれはそれで寂しい的な?」
「それって、人間側は知ってるんでしょうか?」
「知らないかなー。まあ、彼らとしてもダンジョンは資源として有効活用してるし、末端では持ちつ持たれつ感はあるんだけど、彼らの信奉する神様がモンスターの存在を許してないのー。あ、勘違いしないでね。ハルミちゃんたちは手加減とかなしでマジで人間どもをぶっ殺してくれたらいいから。魔王様とかがモンスターの配置とかいろいろ考えて人間が絶滅しないように調整はしてるけど、それは私たち下っ端には関係ない話だからね」
なるほど。アルドラ様でも下っ端で、上には魔王様とかがいるのか。
「じゃあ、ダンジョンというのはいったい?」
「防衛型モンスター拠点。実質は人間収穫装置かなぁ。ダンジョンの中で死んだ人間のソウルとスピリットを集めてるの。あ、ソウルとかスピリットとかわかる?」
人間にしろモンスターにしろ生きて動いてる奴らはそのソウルとスピリットってのを持ってるらしい。あ、ここで生きて動いてるってのはアンデッドなんかも含むからね。
で、死ぬとソウルとスピリットが拡散するわけだ。
ソウルってのは生き物とかを動かすエネルギーみたいなもの。何から出てきたソウルかってのは関係なくて、純粋にエネルギーとして扱える。モンスターとか冒険者とかはソウルを吸収して強くなるってことらしい。
対してスピリットってのは、その存在の根源的なものらしい。ソウルもスピリットも魂的な意味なんだけど、個性を反映しているのはスピリットのほうなのだ。
と、いうのがアルドラ様の説明で、まあなんとなくわかったような気はする。
「ダンジョン内で何かが死んだ場合は、ソウルとスピリットの大部分はダンジョンが吸収しちゃいます。なので、ダンジョン内ではレベルがすごく上がりづらいの」
「なるほどぉ。レベルが上がりづらいとは思ってたんですが、ピンハネされてたわけですね」
あ、やば。ピンハネとか言っちゃったけど大丈夫かな?
ちらりとアルドラ様を見る。
大丈夫そうだった。アルドラ様はそんなことは気にしない大らかな人らしい。
「そういうことなのぉ。けど、モンスターの子にはソウルをあんまりあげない代わりにポイントで還元してるからねー。で、私たちは集めたソウルやスピリットをさらに上位の、地域一帯を統括してる組織に納めてるわけ」
「なんか、世知辛い感じですね……」
「けど、今シーズンは勇者のスピリットとソウルが手に入ったからね。もう、うっはうはなのよぉ」
「え、勇者、ですか。あいつらの誰かなんですかね」
シーズン最後にやってきた奴らは確かに強敵だったんだけど、勇者なのかと言われると微妙な感じだった。
いや、ぼろっぼろにやられておいてなんなんだけどさ。勇者ならもっと強いんじゃないかと思っちゃったんだよ。
「あ、なんでか地下一階で死んでたのよー。だからそれはハルミちゃんのリザルトには付かないんだけど」
「いえ、勝手に死んでるのまで手柄にするつもりは全然ないですけど」
申し訳なさそうに言われちゃったけど、まあ当たり前だよね。倒してないんだから。
「で、ダンジョンに話を戻すと、冒険者に来てもらえる感じのそこそこの難易度にしておいて、そこそこに死んでもらうって感じかな。で、集めたスピリットとソウルでモンスターを作って、そのモンスターでまた冒険者を殺してってサイクルなのよ」
「ん? てことは、私って人間から作られてるんですか?」
「こんな言い方はあれなんだけど、地下一階モンスターぐらいだと、カススピリットを適当に混ぜ合わせて作るから。何が元ってこともないよー」
カス……。ま、まあいいけど。全然ショックなんか受けてないけど!
けどまあ、私はかなり人間っぽい考え方をしてる気はするので、それは混じってる人間要素が大きいってことだったりするのかな。
「ダンジョンについてはこんなもんかな。何か質問ある?」
「だいたいわかりました。で、そのエリモンセンターってどこなんでしょう?」
「エリモンセンターは遙か北。海を越えた先にある魔大陸にあるの。モンスターだけが住んでるモンスターの楽園なのよ」
「そのー、それってすごく遠いんですかね?」
海とか言いだしてる時点で絶対に遠いに決まってる。けど、まあどうにかなるだろうと私はたかをくくっていた。
「遠いわねー」
「あ、そういや、モンスターはダンジョン間をワープできるって、スラタロー先輩に聞いたんですけど。それでぴゅーんって一っ飛びってやつでしょうか?」
そう。商隊なんかはそうやってダンジョン間を行き来してるってことなのだ。
だったら、私だって一瞬で行けるってことだよね?
「確かにワープの泉はあるし、そこそこのソウルを支払えば使えるけど、ハルミちゃんは使用禁止ねー」
えー? とは思ったけどもちろん口には出さない。
けど、不満に思っていることは伝わってしまったようだ。
「ハルミちゃんはレベルが低すぎるからもうちょっと鍛えないとねー。だから地上を旅してレベルを上げながら行ってくれないかなー」
「ええと、でもエリモンに推薦ってことは実力が認められたってことなのかと思ってたんですけど」
「そうだよー。でもね。今のままだとアイテムだよりでしょ? それじゃあエリモンとして通用しないと思うのよ」
「えーっと、こんなことあんまり言いたくはないんですけど、だったら、このアイテムをもっとレベルが高い人に使ってもらったらいいんでは……」
なんとなく、魔大陸なんてとこまで行くのめんどくさいなーと思った私は、そんな提案をしてみた。
私の成果はレジェンドアイテムである深紅の薔薇だより。だったら、これを使えば誰でも同じ結果を出せるはずなのだ。
「そうねー。じゃあ、そのハイヒールをちょっと貸してもらえる?」
「はい」
言われるがままに私はハイヒールを脱いでアルドラ様に渡した。たとえ献上しろと言われたとしても断れる立場にはないのだ。
アルドラ様は、右の靴を脱いで深紅の薔薇を装備する。
おお、やっぱ、まともな人間体の人が履くと似合うなぁ。そんなことを思っていると、
ぼん!
と、派手な音をたてて、アルドラ様の右足首が吹っ飛んだ。
え? どうして?
慌てふためいていると、深紅の薔薇が私の前にぽとりと落ちた。
「ほらね。美脚レベルが足りないと、深紅の薔薇が装備者として認めてくれないのよー」
「こわっ! なんてもん無理矢理装備させてんだよ、あの盗賊!」
「だから、深紅の薔薇を装備できるってだけで、エリモン候補としては十分なわけ。けど、それだけじゃ通用しないから、もっとレベルを上げてね。ってことなの」
そんなことを言っている間に、アルドラ様の足は復活してて、そそくさと靴を履いていた。やっぱすごいな、アルドラ様。
こんな口で言えばいいことを、わざわざ実践してくれるとは。
「けど、地上って大丈夫なんですかね? よくわかってないんですけど」
「そうねー。このあたりには侵攻型モンスター拠点がないから、地上はほぼ人間の勢力下ね。モンスターがのこのこ歩いてたら、大騒ぎになるわねー」
「えーと、それまずいですよね?」
人間の勢力下にモンスターが一匹。
多勢に無勢だ。まあ爆裂が効果的に使えるかもしれないけど、私は冒険者を舐めてはいない。
私がどんな能力を持っているかを把握すれば、それを考慮して戦略を練ってくるだろう。
「だから、ハルミちゃんには部下をつけてあげる! おいで」
アルドラ様がそう言うと、部屋の奥から誰かがやってきた。
可愛らしい服を着た女の子だ。尻尾も羽も角も生えていない、ごく普通の人間の女の子。ってどういうこと?
「この子はコッペリアのペコちゃん。人形のモンスターね。ゴーレムの仲間だし、無機物系だからハルミちゃんともお話は可能なの。でね、この子にモンスター使いのふりをさせたら、地上を旅しても問題ないんじゃないかな、って私はそう思うの!」
あ、うん。
そんなのうまくいかない気がすっごいしたんだけど、アルドラ様は自分の思いつきにノリノリなので、私みたいな下っ端がそんなことを言えるわけがないのだった。
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