第18話 解説
スキル屋さんに教えてもらった建物に行ったら、毛むくじゃらがいた。
人間ぐらいの大きさの毛玉だ。ちょっとよぼよぼした感じだから、やっぱりお婆さんなのかな。ま、中がどうなってんのか全然わかんないけど。
「こんにちはー」
「話はきいとるよ、買い物の相談じゃな」
「おお、それは話が早い!」
「それで、お前さんのとりあえずの目的は何かね?」
そう訊かれたので、これまでのことと、これからのことをざっくりと話してみた。
「ふむ。旅の利便性と、戦力の強化が必要というところかね」
「そんな感じですかね」
「まず、武器や防具の類はいらんだろうね。その靴だけで十分じゃ」
「そうですよねー。これ以上の武器ってそうそうないでしょうし」
しかも防御力も速度も上がって、おまけに回復速度まで上がるのだ。装備に関してはこれ一つで十分なのは間違いないよね。
「だが必要なものはある。ソウル吸収率アップ装備じゃ。残りのポイントを全て使ってもいいからこれを手に入れるんじゃ」
「それは?」
「地上で戦えば、ダンジョン内よりも多くのソウルを吸収できる……などと単純に考えるのは大間違いじゃ。ソウルは死者から得られるが、それはすぐに拡散してしまってそう簡単に吸収できるものではない。それに、その場に他の者がおればソウルは取り合いとなる。そこで、吸収率アップじゃ。これがあればより多くソウルを取得できるのじゃよ。なので、残りポイントでできるだけ吸収率の高い指輪でも買うとよい。幸いお主には両手があるしな。二つ装備できるというわけじゃ」
片手に指は五本あるけど、どういうわけか指輪の効果は片手ごとに一つまでってことらしい。
しかし、腕と足があるってのはそれだけでかなり有利なんだなー。装備部位が増えるってのが大きい。
「装備に関してはそんなもんじゃろ。スキルは……もう少しレベルが上がってからじゃな。お主、大してないスキルスロットを無理矢理言語スキルで埋めてしまっておるし……」
「あれ? もしかして、レベル上がってからだとそんなにポイントいらなかったんですかね?」
「そうじゃ。無理矢理入れるのに余計なポイントを使っておる」
「はー、ものを知らないってダメですねー」
「まあ、言語スキルを取ったのがダメということはない。交渉が必要になることも多々あるじゃろうからな。しかし、鑑定系のスキルは欲しいところじゃ。レベルが上がったらまずはそれから取るがいい」
「となると、あとはアイテムとかですかね」
「うむ。お主は幸いアイテムの収納に関しては有利じゃな。なんといっても宝箱じゃしな。収納容量もレベルが上がれば増えてゆくじゃろう」
ということで、旅に必要そうなアイテムとかも教えてもらった。
けど、このお婆さんは何者なんだろ?
「ただのおせっかい婆さんじゃよ。モンスターがただ駒として使い捨てられるのを憂いておるだけのな」
てことらしい。
*****
さて、出発である。
いろいろとアイテムとかを買った結果、ステータスウインドウはこんな感じになった。
名前:ハルミ
種族:ミミック
性別:女
レベル:15
天恵:美人薄命
加護:なし
スキル:
・擬態(宝箱、宝箱改)
・言語(無機物系+2、人間+2、死霊+2、亜人+2、獣+2)
・収納
・爆裂脚(※深紅の薔薇装備時限定)
装備アイテム:
右手:欲深き者の指輪(ソウル吸収率:500%)
左手:欲深き者の指輪(ソウル吸収率:500%)
足:深紅の薔薇
アイテムは装備品の他にも、食料とか回復薬とか、そんないろいろを買いまくりました!
そう。食料がいるのである。
なんでも、ダンジョンの中では、ダンジョンからエネルギー供給されてるってことなのだ。で、地上に出ると食べる必要があるらしい。
無機物系の私の食料は鉱石類だ。そういうことで、いろいろ試してみたんだけど、宝石系がおいしかったので、原石を買い込んでおいた。
で、今私がいるのは地上だったりする。
ダンジョンの裏口から出てすぐのところだ。裏口は正規の入り口から離れた荒野にあって、人間には知られていない。
「あいつ来ないじゃん……」
コッペリアのペコちゃんはまだ来ていなかった。
適当な岩に登ってあたりを見回してみたけど、誰もいない。
代わりに、最近できたっぽいクレーターがあることに気付いた。
ああ、これあれだ。私と戦った魔法使いのメテオはこんなところに激突していたわけか。
クレーターはけっこうな深さと広さだった。威力やばいな。直撃くらったら即死だよなー。
そんなことを考えていると背後に気配を感じたので振り向いた。
ペコちゃんがやってきていた。
「なに、ぼんやりしてるんですか?」
「別に。じゃあ早速だけど、方針を説明するよ。アルドラ様はモンスター使いのふりをしろなんて言ってたけどさ。別にそんなことしなくてもいーんじゃないかなーと思って、これを用意した」
私が指差す先にはリヤカーが置いてあり、そこには女物の服が乗せてあった。
「私が宝箱になってそれに乗ってさ。あんたがリヤカーを引っ張ったらただの荷物を運んでる人でしょ? 宝箱が歩いてるなんておかしな状況作らなくていいわけだし。で、その服は袖の長いやつだから、関節とか隠せるかなって。首回りはストールとかまいてさ、つばの広い帽子かぶったら、ごまかせるんじゃないかなーって」
「却下です」
「はい?」
「私がなぜ、そんな泥臭い真似をしなければならないんですか? 馬鹿らしい。あなたは私に扱き使われるモンスター。それだけのことでしょう?」
「いやいやいや、あんた私の部下でしょうが」
「黄金竜のスピリットを四分の一も使用したエリートの私が、どこのなにともしれないカススピリットからできたあなたの部下? 冗談はやめてくださいよ」
そう言ってペコちゃんはすたすたと先に行ってしまった。
ほー。
嫌々でも、上司の私には従うのかなーと思ってたけど、そんなつもりは欠片もないってことらしい。
だったら、こっちも部下扱いしてやる必要はないな!
ちゃんづけなんてしてやるか! 今後は呼び捨てだ!
ペコが先に行くので、私はその後を少し離れて付いていった。
最初の目的地は、闇の森だ。そこは防衛型モンスター拠点で、アルドラ様の知り合いがやってるってことらしい。
とりあえずはそこまで行けば、こそこそとする必要はなくなるわけだ。
荒野をとことこと歩いていく。
会話なんてもちろんなくて、黙々と。
しかしまあ、ペコは何考えてんだろうね。アルドラ様の命令だろうに、こんな態度を取ってどうするつもりなんだろう。
訊いてみるか? いや訊くだけ無駄かな。
荒野を抜けて農村地帯にやってきて、そろそろ人間と出くわしてもおかしくないなーと私は緊張してるんだけど、ペコは何も考えていないのかまっすぐに歩いている。
こんなんでいいのかなと思っていると、道の先に人間の集団がいるのが見えてきた。
なんだろ。
ぱっと見の感じだと、仕事帰りの盗賊団?
それぞれ思い思いに武装してて、血で汚れてて、これ見よがしに戦果を自慢しあってたりして、鎖でつないだ人間をぞろぞろと連れて歩いてたりと、まあ、まっとうな奴らではない感じだ。
「どうすんの?」
「人間は敵なんですから、蹴散らすのみです」
ペコに近づいて訊いてみたら、無視はされなかった。
「そっかー。私も同意見。じゃあ、爆裂脚!」
どん!
と、いきなりペコを蹴った。
「な!」
まさか自分が後ろから蹴られるとは思いもしなかったんだろう。
レベル128かもしれないけど、ペコはよろめいてバランスをくずしていた。
「まあ部下としての最初で最後の仕事をやってくださいな。ってことで、ミミックミサイル!」
そして体当たり!
ペコを盗賊団のほうへと吹っ飛ばしたのだ。
そして。
どっかーん!
ペコは爆裂四散。
遅れて盗賊団もどかどかどかーんと派手に爆裂していった。
あ、そうそう。のんびりと見ているわけにもいかない。
ソウルを吸収するには、できるだけ近づく必要があるのだ。
私はささっと、爆裂の中心地に移動した。
おお、きてる、きてる! さすが両手合わせてソウル吸収率1000%!
一気にレベルが上がってる感じがする!
と、ソウルのことばかりも気にしていられない。私は宝箱の蓋を開けて、舌で中からアイテムを取り出した。
「スピリットキャッチャー!」
ま、なんてことのないフラスコ瓶なんだけど。これは、スピリットを捕獲できるアイテムなのだ。
ということでスピリットもざくざく回収。
使ったフラスコ瓶はそこらにぽいぽい放り投げていく。後でまとめて収納すればいい。
うん。大量!
ひとつだけ、輝いてるフラスコ瓶があるんだけど、これがペコのスピリットかな。
拾い上げて見てみる。
中で何かがうにょうにょと動いてる感じだ。
「エリート意識満載でいけすかない奴と、最初は反発しながらも、なんだかんだ絆を深めていって、そのうち仲良くなって無二の相棒になれる……なーんてことはないよね!」
つーか無理。
めんどくさい。
なんだって私がそんなことをしなけりゃならないの。
使えない部下なら切り捨てる。
それがハルミ流だ。
だいたいダンジョンがそんな感じで運営されてるじゃん。私だって、最初は使い捨ての駒扱いだったわけだし。
モンスター界は弱肉強食。このエリートさんは、エリートが故にそのあたりの認識が甘かったんだろうね。
「まあ、アルドラ様から与えられた部下を始末しちゃっていいのかってことだけど……不幸な事故ってこともあるよね!」
てへぺろ!
てか、地上で何したって、アルドラ様にはわかんないよね!
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