第7話 ミミック無双

「ミミックミサイル!」

「ぼげぇ!」

 初心者戦士のどてっぱらに、食らわせる。

 まあ、ただの体当たりだけどな!

 ミミックミサイルは、ただ突っ込むだけの技ともいえない技だけど、すごいスピードなので、それだけで十分な威力になるのだ。

「な! なんだ!」

 突然の私の襲撃に、冒険者たちが慌てている。ふむ、定番の六人パーティか。

 ならとりあえず前衛を片付けてしまおう。

「ミミックピンボール!」

 床、壁、天井。適当に突進して、ぶつかって方向転換しながら、むちゃくちゃに暴れ回るという、これも、お前何も考えてねーだろ、っていう単純な技だけど、効果は絶大だ。

 あっというまに前衛の戦士はミンチ状態になっていた。

 後衛は、魔法使い二人に、僧侶が一人。すっかりびびっているようだ。

「へいへい! 魔法うってきなー!」

 手をくいくいって手招きして挑発する。言葉は通じなくても、ジェスチャーなら伝わるだろう。

「こ、この! ファイアボール!」

 魔法使いが呪文を唱える。

 杖の先に炎球が生み出され、一拍おいてこちらに飛んできた。


 ぼかん!


 直撃。

 なるほど。どんな魔法かは、呪文だとか、杖の先の状態とかでわかるけど、発射された魔法は早すぎてとてもじゃないけど避けられないみたいだ。

 ま、平気だったけどね。

 そう、魔法に耐えられるかも試してみたかったのだ。

「そんな!」

 魔法使いが信じられないって顔をしている。

 さて。じゃあ、お前らも私の経験値になるがいい!

「爆裂脚!」

 一気に飛び込んで、蹴る。

 蹴り自体は、魔法使いでも耐えられる程度の代物だ。

 けれど。


 どっかーん!


 五秒後、魔法使いは爆裂し、パーティは全滅した。

 ま、楽勝だね。

 装備だよりなところは、ちょっと不安はあるけど、使える物は使っていこうじゃないか。

 さて。レベルはどうなったかな?

 お、11だ。

 この調子で冒険者狩りをやっていこう!


  *****


「通りすがり爆裂脚!」


 どっかーん!


 これは、たまたま見かけた冒険者に跳び蹴りを食らわして通り過ぎる技だ。

 やられるほうからするともうちょっとまともに相手にしてくれと不満が出てきそうだけど、地下一階の初心者冒険者なんてもう敵じゃないので、いちいち相手になんかしてられないのだ。

 とりあえず、お前らはさくさくと経験値になるがいい!

 さて、レベルはどんな感じかな。

 と、ステータスを確認すると12だった。

 うーん、しばらく前に12になってから、全然上がる気配がない。

 そこそこ倒してはいるんだけどなー。

 初心者をいくら倒してもこの辺が限界なんだろうか。

 それに、探し回っても、あんまり冒険者を見かけないんだよね。

 どうしたものか。

 あ、そうそう。地下一階をいろいろと回った感じ、ここの大きさはだいたい20×20ブロックぐらいかな。というのが判明した。1ブロックが五メートルなので、百メートル四方ぐらいなんだと思う。

 ま、ここの敵が物足りないなら、下に行くしかないのかな。

 と、いうことで、階段を探してみよう。

 これまで階段は見かけなかったので、探索を避けていたダンジョン入り口から東方面にあるのだろう。

 入り口あたりには冒険者がたむろしているのが気になるけど、ま、どうにかなるだろう。

 てくてくと歩いて、再びE0N0付近へ。

 再び北側の通路から様子を窺った。

 出入り口はE0N0にある階段で、その周囲は4×4ブロックの広場になっている。

 外周部分には屋台が並んでいて、いろいろと売っているようだ。

 食べ物屋さんが多いかな。冒険に必要なアイテムなんかもあるんだろうか。

 冒険者たちは、準備に余念がないようだ。装備を点検したり、作戦を決めたりと最終確認をしているみたい。

 その始まりの広場みたいなところの安全性を、彼らはすっかり信じ切っているようだった。

 一応、周辺を警戒している人たちもいるみたいだけど、たまにやってくる地下一階の弱小モンスターを相手にしているだけなせいか、緊張感みたいなものがまるでない。

 あれか。平和ボケってやつか。ならツッコンでやるしかないな。平和ツッコミだな。

 もしかしたら、私は調子に乗ってるだけなのかもしれない。分不相応な装備の力を、自分の力だと勘違いしているだけ。

 けど、私もモンスターということなのか、戦闘本能のようなものがある。

 たとえかなわなくても、少しでもダメージを与えて冒険者の邪魔をしてやろうと考える傾向があるのだ。ま、まったくかなわないなら戦うことに意味がないから逃げることもあるけどね。

 ということで。

「ミミックミサイル!」

 まずは全力で突っ込む。

「通りすがり爆裂脚!」

 広場の入り口にいる見張りに跳び蹴りを食らわせながら内部に侵入。

「爆裂脚!」

 手近なところにいる冒険者を蹴る。戦闘準備ができていないようだけど、そんなもんそっちが悪い。ダンジョンなめてんの?

「爆裂脚! 爆裂脚! 爆裂脚!」

 ダッシュ、蹴り! ダッシュ、蹴り! ダッシュ、蹴り!

 とにかく態勢が整うまでが勝負! 手当たり次第に蹴りまくる。

 蹴りに蹴りまくって、東側通路へと抜ける。


 どかどかどかどかどかーん!


 背後からすさまじい爆発音が聞こえてきた。

 かなり蹴ったからなー。大分重複して爆発してるんじゃなかろうか。

 振り向くと、広場は真っ赤に染まっていた。

 うん。どの程度の実力の奴らだったかは知らないけど、まあ楽勝で――うん?

 真っ赤な血だまりの中に蠢く何かがいたのだ。

 生きてる?

 どうしよう。逃げる?

 いや、なんか弱ってるっぽいし、とりあえず近づいて様子を見てみよう。

 てくてく。

 戦士のおっさんだった。下半身は吹っ飛んでて、右半身もぼろぼろだけど、左側が大分残っている。頭部は無傷。

 兜と盾が頑丈だったのかな。

 でも防御の仕組みがよくわかんないんだよなー。ほら、私の場合は足装備の防御力が全身に及んでるわけじゃない。だとすると、防御力って、全身で同じってことになるような。

「くそっ……なんなんだ……お前は……」

「通りすがりのミミックですが、なにか?」

 まあ、こっちの言葉は伝わらないんだけどね。

「か、回復……いや、転移が先か……」

 ん? 転移?

 おっさんの左手に、何やら光る物があらわれる。

 宝石かな? と、思った瞬間に、それが閃光を放った。

「うぉっ、まぶし!」

 目がくらむ。

 視力が回復すると、おっさんはいなくなっていた。

 あー、目がなくても、眩しいとかはあるんだー。ということは、目くらましの類も私に効果があるってことだよね。気を付けないと。

 って、逃げられたじゃん!

 転移かー。そういうのもあるんだなー。

 ま、皆殺しが目的だったわけでもないし、いいか。

 さてと。あたりを見回す。屋台には手を出していないので、そのまま残っていた。

 近づいて、商品を見てみる。

「ひっ!」

 店員のお姉さんがひきつった顔をしている。冒険者じゃないのかな。殺しても経験値にならない予感。

 肉の塊をパンに挟んだ物を売っているお店だ。

 どうなんだろ、こういうの食べられるのかな。

 そこで初めて気付いた。

「私の主食ってなんなんだ?」

 ここまで何も食べてないし、空腹を感じたこともない。人間を見ても倒そうとは思っても、食べたいとは思わなかった。

 まあ、ワードッグとかオークとかは普通にご飯食べてそうだけど、私ミミックだしなー。食い物いらんと言われたら、そうかとも思うし。

「まあ、ものは試し。これください」

 と、言ったところで話は通じないので、手を伸ばしてパンを取る。

 そのまま宝箱の中に放り込むと収納扱いになる気がしたので、蓋を開けてばくりとパンをかじってみた。

 うん。おいしい。味覚はあるし、食べられないってわけじゃない。

 ま、牙も舌もあるしなー。

「ごちそうさま」

 他の店も見てみよう。

 防具屋とか武器屋とか道具屋とか。冒険に必要そうなものを売っているところが多いかな。

 けど、どれがどんな機能なのか、全然わかんないなー。このあたりも、鑑定系のスキルがあればわかるのかな。

 ま、何か使えるかもしれないし、とりあえずもらっておこうか。

 それぞれの店から適当に取って、口の中に放り込んでいく。これは食事じゃなくて収納ね。

 アイテム漁りを終えたので、本来の目的であった、東側の探索に向かう。

 少し行くとエレベーターがあった。

 この階層に来るときに使ったやつだ。

 ふむ。地下一階だと楽勝だし、下に行ってみようかな。

 そう思ってエレベーターに向かう。


 ばちん!


 すると、何かに弾き返された。

 え? なんだこれ?

 そっと手を伸ばす。


 ばちん!


 やっぱりだ。エレベーターの手前に、何かある。見えない壁?

 どうやら私にはエレベーターが使えないらしい。

 うーん。来るときには使えたんだけど、私だけだと使えないのかな。

 ま、使えないものは仕方がないので、先に進む。

 てくてく。てくてく。

 しばらく探索していると、2×2の大きな部屋に出た。

 おっきな豚さんがいた。

 鎧とかマントとか着ていて、普通のオークよりはちょっと偉そうだ。

 ははあ、地下一階のボスってところかな。奥には下に向かう階段もある。

「こんにちは!」

「ぶひぶひぶひ!」

 手を上げると、同じようにボスオークさんも手を上げた。気さくに応えてくれるので悪い人じゃなさそう。

 そのままとことこと歩いて、階段へ。

 この階段も使えなかった。ここにもエレベーターと同じで見えない壁があるのだ。

「やっぱ、下には行けないんですかね?」

「ぶひぶひ」

 ボスオークさんは、ゆっくり首を振っていた。

 うん、何言ってるかはわかんないけど、そのとおりだ、と言ってる気がする。

 さて。

 これで地下一階は全て探索できた。

 で、私はこの地下一階からは出られないということがわかってしまった。

 とりあえず、最初のシーズンはここでがんばるしかないらしい。

 はじまりの広場へと戻る。

 屋台の人たちはいなくなっていた。

 外に出たら死ぬってことだけど、とりあえず上への階段も確認してみる。

 やはり、ここにも見えない壁だ。

 ま、私は地下一階モンスターなわけだし、その職務をまっとうしようじゃありませんか。

「な! なんだこれ!」

 と、階段から誰かが下りてきた。

 冒険者だ。広場の惨状を見て固まっている。

「爆裂脚!」


 どかどかーん!


 うん。

 ここで、冒険者がやってくるのを待ってるのが一番効率的じゃない?

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